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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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牧場の説明

街の近くで引退を考えている牧場主の老人は、牧場だけではなく畑も持っているらしい。

土地としては結構広大そうだ。

セルビアからすればどちらもやったことがないから、どちらをやるにしてもいちから勉強する必要がある。

最初は不安のあったセルビアだが、彼は牧場の説明だけではなく、やらなければならないことも一緒に説明してくれた。

ちょっと怖い人かもと思っていたが、親切な人のようだ。

買い取った後、動物の面倒だけを見ていればいいというわけではなく、自分で生活をしなければならない。

牧場を経営し、生活を維持するというのはそんなに優しいものではないと、きちんと教えてくれたこともあり、見学の時は気に入ったかどうかだけではなく、そういう点も踏まえて考えなければならないのだと説明された。


「一応話した使い方はあくまで一例だ。買い取ったらもう持ち主のものなんだから、自由に使えばいい。ヒツジをたくさん飼いたいなら畑を減らしてもいいし、畑の方が性に合っているなら牧場の面積を減らして農地を増やせばいい。まあ、このまま畑を残して何かしらを栽培した方が、いざという時、自分の食べる野菜とか、動物たちの餌には困らなくて済むかもしれないが」


自給自足をしておけば、お金に困ったとしてもすぐに飢えることはない。

これまでは親が当たり前のように食事を与えてくれて、サーカスに同行するようになってからは働く場を与えてもらってその中に食事が含まれていた。

不作や不良が続けば食べ物の金額が高騰することは知っていたが、それがどの程度なのかは考えたことがなかった。

そこで食料を手に入れられなければ、一人になった時食事に困るかもしれないという現実があることをセルビアは初めてここで知らされた。

自分では働き始めたし自立できていると思っていた毛でお、なんだかんだで両親にもサーカスにも庇護された状態だったのだ。


「確かに、葉物野菜を育てておけば、自分だけじゃなくてヒツジさんたちはそれを食べることができますよね」


グレイは勝手に森に狩りに出かけていきそうだが、ヒツジやラビィやハリィは違う。

彼らは葉物野菜も食べるので、とりあえずそれらを与えられればどうにかできるかもしれない。

そのためには自分で育てた方がよさそうだ。

セルビアがそんなことを口にすると、羊飼いは感心したようにうなずいてから言った。


「もちろん冬は草が枯れてしまうから、枯草を集めて準備することになるが、もし本当にやるならそのあたりを教えてくれる人も頼んだ方がいいだろうな。男手が必要だろうから、お嬢さんの父親にも、紹介のついでに仕事を少し覚えてもらってもいいと思うが……」


普通に仕事をしている人だろうから日程を合わせられるかはわからないが、少しでも身近な人に仕事を覚えておいてもらった方がいざという時に助けてもらえるだろう。

牧場は基本的に面積が広いし、街や集落と違ってお隣さんとの距離が物理的に遠い。

そのような土地を選ぶ人はたいてい牧場か農場をやっているから助けにはなるが、そこに助けを呼ぶのも一苦労となるだろう。

だったら定期的に尋ねてきてくれる両親、特に力仕事ができる可能性の高い父親に仕事を覚えてもらう方がいいだろう。

その提案にセルビアは素直にうなずいた。


「そうですね。私も教えてくれる人と二人は心細いので、その時に両親がいてくれた方がいいです」


団長も羊飼いもそこには気を留めなかったし、教える数日間は自分もつくから問題ないと羊飼いは思っていたが、団長はともかく羊飼いなど数回しかあったことのない他人でしかない。

自分が付いていてもさほど変わりないことに気が付いた羊飼いは微妙な表情をする。


「もし決まったとしたら、一人で暮らすのか?」


羊飼いの言葉にセルビアはうなずいた。


「そうですね、いつかは。さすがにヒツジさんたちをいつまでも預けておいたら迷惑になりそうだから、早めに決めないといけないとは思っています」


確かにずっとここにいられたらいいと思う。

ここにいればたくさんの広い世界を見られるし言ったことのない場所にも連れて行ってもらえる。

ニコルのような友達ができたのも大きい。

今の生活はとても楽しいし、何の不満もない。

けれど今の話を聞いていたら、それも甘えなのではないかとセルビアは思った。


「一人であることは……、グレイがいるから大丈夫だとは思うが……、ご両親はどうなんだい?」


宿に預けて一人暮らしをさせなかったのは、子供を一人で生活させるのが心配だったからだろう。

宿のおかみさんにもよくお願いしていたようだし、グレイがいるから大丈夫とは考えていなかったはずだ。

グレイはサーカスの中でも常にセルビアを守る立ち位置でいたし、団員は動物の本能のようなものに理解がある。

だからグレイが元気でセルビアの側にいるというなら、前のように相手が返り討ちに合うだけだろうと思うが、子犬時代のグレイしか知らない両親は、そんなに頼りになるとは考えないだろう。

しかしセルビアは首を小さく横に振った。


「まだ聞いてないですけど、多分大丈夫だと思います。そもそもこの子達と暮らしていくなら、もう集落には戻れないかなって……」


集落にいた時はグレイだけだったが、今ではラビィもハリィもいる。

いまさら彼らと離れるつもりはない。

そこにヒツジが追加されるのだ。

集落で受け入れられるわけがない。

セルビアはそこまで考えてふと気が付いた。

牧場はもらえることになったが、そうなると自分はどこに住めばいいのか。

セルビアの疑問に紹介主である羊飼いが答えた。


「それなら問題ない。家主が住んでた家をそのまま引き取ればいい。もし見て、気に入ったら、そこを使えばいいだろう。空き家としてそのままになっているのは家にもよくないからな」


牧場を管理するのだから当然住んでる家は残っている。

というかまだ買い手が見つかっていないからまだそこには住人がいるので当然普通に管理もなされている。

余裕のある人たちなら場所を見て違うところに家を建てたり、一度取り壊して立て直したりすることもあるが、済むのに問題のない家なので、そのまま使ってもいいのだという。


「おお、さすがだな。一緒に来てくれるなら心強い。金額の交渉も頼む」


団長の軽口に羊飼いは大きくため息をついて見せる。


「そのくらいはするが、まずは見てからだろう。押さえるなら前金もいる。そこまでして交渉してからやっぱりやめましたなんてできねぇぞ?」


交渉の段階まで進んだら後戻りは難しい。

少なくとも最初に手付金を払ったあとで止めることにしたら、それは解約金として持っていかれることになる。


「やっぱり見てからでは難しいんですね……」


セルビアが再び迷い始めると、羊飼いもさすがにそれはないという。


「いや、押さえる段階、予約したいってことならだよ。見るのはタダだ。お店に行ってほしものがないって理由で買わずに出ていったって、店は入場料払えとか言わねぇだろう。それと同じだ。そうは言ってもまずはご両親の意見も聞きたいところだが……」


交渉相手がセルビアだと心もとない。

というか、子供だけに判断をゆだねていい話ではないので保護者と話をしたいと羊飼いはいう。


「勢いでヒツジをくれてやれって言っちまったけど、セルビアちゃんにはかえって迷惑になったかな?」


団長がそれとなくセルビアに尋ねると、セルビアはそんなことはないと答えた。


「そんなことないです。団長がずっと私の味方をしてくれて嬉しかったです」


グレイは悪くないと率先してかばってくれたのは団長だ。

そしてセルビアのところに来ることになったヒツジは、グレイが頑張った証でもある。

だから迷惑などと思ったことはない。

セルビアがそう言うと、団長は表情を緩めた。


「それならいいんだが。もし邪魔になるようなら何とでもさせるから言ってくれていいぞ」

「はい。ありがとうございます」


気が付けば牧場の話で随分と盛り上がってしまった。

そしてセルビアの中により具体的なイメージが浮かぶようになった。

こうして話してアイデアを聞いたりすると、牧場で生活するのもいいかもしれない。

余韻だけでもそんな気持ちにさせられた。

けれど羊飼いから話を聞いたセルビアの気持ちは、どちらかというと牧場を買い取る方向に傾いている。

少し時間を置いたら気持ちが変わるかもしれないし、セルビアがあまりにも真剣なので、逆に大人二人が見てから決めればいい、即決する必要はないと諫められたほどだ。

そして羊飼いは先ほどの言葉通り、紹介者として買い手を探している牧場との仲介をしてくれるらしい。

なので、サーカスがその街に入る日が決まったら連絡をしてほしいと団長に頼んでいた。

あの街に着いたら、そこでセルビアは決断を迫られる。

説明を終えた羊飼いを団長と見送ったセルビアは、再び牧場の件と説明された内容と真剣に向き合うことになるのだった。

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