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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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分岐点

この体質を本当に不可抗力という言葉で片付けていいのかわからない。

少なくとも多くの人に迷惑がられたものである。

本当は今でも迷惑をかけているのではないかとどこかで思ってしまっている。

サーカスには動物がたくさんいて、彼らが自分に好感を持ってくれたのは世話をするにも好都合だったし、団員の皆が動物好きだから困った様子を見せないでいてくれただけなことはわかっている。

サーカスで動くようになってからテントの周りに動物が集まってくるようなことはなかったけれど、旅の道連れとして、ハリィとラビィが増えてしまっている。

団員たちは彼らのことも一員として受け入れてくれているけれど、それがここだからこそ認められたものであって、他の場所であったら認められない事態であることを身をもって理解しているのだ。


「セルビアちゃんが悪いことをしていないというのは、ずっと一緒に生活してきた私たちのお墨付きだよ。セルビアちゃんはこれからもそのまま、堂々としていていいんだからね」

「ありがとうございます」


団長やニコルをはじめ、皆本当にいい人たちだ。

集落での生活は苦しかったけれど、ここでの生活は本当に楽しく、このためにこれまで苦労してきたのかもしれないと思うほどだ。


「それでまあ、そこにこの話が来たのさ」

「えっと」


セルビアが団長にお礼を伝えると、団長は話を戻した。

しかしセルビアにその話の繋がりが見えない。

首を傾げるセルビアに団長が言った。


「セルビアちゃんは集落にはいられなかったけれど、街にはいてもよかった。少なくとも宿に迷惑がかかるまでは」

「そうですね」


確かに街で人に迷惑をかけるような行動はしていない。

何か途中で動物が部屋の前に集まったりするようになってしまったけれど、それまでは宿とも良好だったし、宿側もその回数が頻繁にならなければ追い出さなかったような話をしていた。


「あそこのおかみさんもセルビアちゃんはいい子だって言っていたからね。あの対処はやむを得ずだったと思うんだ」

「はい」


本当に迷惑をかけたなら二度と来るなと言われただろうが、たまになら来てもいいと言ってくれた。

きっと動物が集まらない日数、もしくは宿が対処できる数日でなら泊まっていいという意味だろう。

セルビアやグレイはいいけど他の動物まで集めないでほしいというのは言葉の通りだ。


「それならあの街で買い物をしたりするのは問題ないだろう?少なくとも後ろめたいことは何もしていない」

「してないです」


団長の言う通り悪いことはしていない。

そして買い物程度の外出先に動物が待機しているようなことはなかったし、お店から文句を言われたこともない。

グレイを連れて歩いていたけど、当時のグレイが小さかったこともあって、かわいい番犬とみなされていたから問題なかった。

セルビアが答えると団長はうなずいた。


「場所については、おそらく集落とは街をはさんで別の側に出たところにこの牧場はあるだろう。その詳しい場所も立地も距離はわからないんだが、もしかしたらそこなら宿に心配して通ってきていた両親とも一緒に住むことも、彼らが通ってきてセルビアちゃんと頻繁に会うこともできるようになるんじゃないかって、そう考えたわけだ」


団長の言いたいことは理解できる。

もともと家族と離れた経緯が仲違いとかではないし、両親も健在なのだから家族で暮らした方がいい。

ここにいる人たちはそれができない人ばかりだし、失ってから家族との時間を大切にすればよかったと後悔している人も多い。

セルビアにはその選択権がある。

サーカスでの生活に慣れてきたところで申し訳ないとは思うが、後悔のないよう本人に良く考えてほしいとそういうことだ。



「でも、探しているのって買い手ですよね。私じゃ牧場なんて買えないです」


前にお世話になった場所にはヒツジを放つ場所と、戻す小屋があり、さらに住まいもあった。

それだけの土地を買うとなると想像できないくらいお金がかかるはずだ。

当然セルビアにそんな蓄えはない。


「普通はまあそうなんだが、そこもヒツジをたくさん抱えていてね、持ち主が引退して街に転居したいと思っているようなんだよ。ヒツジがたくさんいるということは牧草地だからね。買い物に行くにも街の中にいるより歩かなきゃいけないだろう。それが体に堪えるようで、彼らは街に転居するのに必要な家と最低限の生活費が残ればいいと言っているから破格ではあるが……」


破格であることは間違いない。

けれどセルビアが援助なしに購入できる額でもない。

セルビアの家になるにしても、未成年のセルビアの場合、両親の許可が必要になる。

そしておそらくだが、セルビアの両親はこの話に賛成するだろう。

それに、前のところで預けたままになっているヒツジのこともある。

提案は最善と思ったが、セルビアに借金を背負わせてまでとは思わない。


「私も集落から森を向けて買い物に行ってたので、広い牧場ならなおさら街まで遠くて大変なのはわかりますけど、それを私が買えるかって言われたら無理だと思います。お父さんとお母さんに頼むわけにもいかないし……」


セルビアがこれ以上両親に負担をかけられない、やっとサーカス団と行動して一人前になれた気がしていたし、これでようやく恩を返せるんじゃないかと思っていると伝えると、団長はうなずいた。


「そう考えてくれるだけでありがたいけどね、もしやりたいのなら、セルビアちゃんからご両親に連絡して、そこで暮らす許可をもらってくれたらいいんだ。でもその前にセルビアちゃんが牧場をやってみたいかっていう根本的なところだな。買うか買わないかってお金の話を気にしなくてよかったら、ご両親の住む街の近くで牧場を運営してみたいかどうか」


牧場の運営というものにいまいちピンとこない部分はあるけれど、そこであればヒツジの面倒を見ながら、気兼ねなくグレイやハリィ、ラビィと一緒に暮らすことができる。

周囲に気を使う必要がなくなるので、グレイももっと自由に動けるようになるだろう。

そう考えるととても魅力的だが、それを選択した場合、大事な場所を失うかもしれない。


「もしそうなったら、サーカスとはお別れってことですか?」


セルビアがそう口にすると、団長はうなずいた。


「本当に運営するならそうなるね。グレイたちだけじゃなくて、他の生き物たちも一緒に生活することになるし、面倒を見るだけで大変だと思う。ただ、ご両親の近くで生活したいか、しばらくサーカスで旅を続けたいか、それを考えてほしい。それにはまず、この場所が本当にご実家から近いのか、それを確認しておきたかったんだよ。旅の経路を変えることはできないから、近くを通る時まではこれまで通り一緒に行動していくことになるし、今すぐじゃないんだが、セルビアちゃんにいい条件の物件があるって知ってしまったからね。私が残ってほしいからって勝手になかったことにしてはよくないと思って話したんだ。あっちもすぐに売れるとか思っていないし、そもそも彼らだって住まいを探してから売らないと、住むところが無くなってしまうからね。考える時間はあるし、気になるなら見せてもらって決めたいって立候補だけしておくこともできるよ」


この買い物は普通の大人からしても大きなものになる。

よほどの好条件だったり、ちょうど牧場の分家を作ろうと考えているような家が聞きつけない限り、買い手はなかなかつかないはずだ。

それを差し引いてもセルビアにとっては大きな人生の分岐点となる。

困惑するのは当然だ。


「少し、考えさせてください」


セルビアが言うと、当然だと団長はうなずいた。


「ああ。ゆっくり考えていいよ」

「ありがとうございます」


セルビアはそう言って離れたが、団長の言葉がずっと頭にこびりついてしまい、しばらく上の空の状態になるのだった。

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