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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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手紙と転機

テントへの侵入者騒動が終わり、彼ら抜きでどうにか興行を回して街を離れる時が来た。

本当なら交互に休みなどを回して自由時間を設けて、街を楽しむ時間を作るところだが、騒動によって皆が休み返上で働くことになる。

宿に泊まっていた人も、今回のことには驚いたようで、テントが無事であったことを喜んでくれた。

そうしてどうにかこの街の興行も最終日を終え、今は移動の準備中だ。


「期間はいつもと変わらないはずなのに、同じところに長くいた気がするよ」


ここまで目の回りそうな働きをしたのは最初にここに入って以来だ。

といっても、あの時は人手不足だったわけではなく、セルビアが不慣れだっただけだが、仕事を覚えて慣れてしまってからこんなにせわしなく動くことはなかったため、興行最終日に疲れが出たことでそう感じたものだ。

ニコルも似たようなことを思ったのか、気が抜けて乾いた笑いでそれに答える。


「あの一日からずっと気を張ってて疲れたもんね。でもしばらくは移動で興行はないから、ちょっと休めると思う」

「うん、そうだね」


荷物を積んで出発すればあとは馬車か荷車に乗って座っているだけでいい。

御者は大人たちがしてくれるし、主に馬たちが自分と荷物を引いてくれるから、揺れが気にならなければ寝ていることもできる。


「じゃあこの荷物も積んじゃおう」

「そうだね」


そうして二人も小さな荷物を馬車まで運ぶ。

これもすっかりおなじみの光景だ。



そこに団長がやってきて、セルビアに声をかけた。


「セルビアちゃん、ちょっといいかい?」

「はい」


別の仕事の手伝いかもしれないと、呼ばれたセルビアは荷物を荷馬車の前に置いて、団長のところに駆け寄った。


「何でしょう?」

「いや、大事な話があってね。こっちに来てもらっていいかい」


お手伝いではなくお話があるらしい。

思い当たるところはないが団長の雰囲気からしてまじめな話なのは間違いなさそうだ。

とりあえずここで立ち話をしていては片付けの妨げになるし、少し人から離れた方がいいということだろう。


「わかりました」


セルビアはそう答えると団長と少し離れた場所に移動した。



周囲に人がいないことを確認した上で、団長は立ち止まってセルビアと向かい合った。


「突然すまないね。前に野営させてもらった……、クマの出た牧場があっただろう?覚えているかい?」


呼び出されたところで突然降ってきた質問だったが、セルビアは団長を見上げて答えた。


「ヒツジさんのたくさんいたところですよね?」


覚えていないわけはない。

あの一件があって、セルビアはこれまで知らなかったグレイの一面を見ることができたし、これまで犬だと思っていたのが実はオオカミだったことも知ったのだ。

あの時の衝撃を忘れられるほど、時間は経っていない。


「ああ。そこから連絡があってな、セルビアちゃんと最初に会った街の近くで牧場をしていた人が、そこを手放すんで買い手を探しているって教えてくれたんだよ。まずはこの手紙を見てくれるかな」


団長はそう言うと一通の封筒に入った手紙を差し出した。

もちろんあて名は団長宛だ。


「これ、団長宛の手紙ですよね。見ていいんですか?」

「ああ。手紙に書いてある場所がセルビアちゃんの知っている場所だといいんだが……」


とりあえず団長が中身を見てくれというので、封筒から手紙を取り出してセルビアは中を確認した。

手紙は時世の挨拶から始まり、最近クマは出ていないという近況報告、そしてその先に団長がセルビアに声をかけた理由である牧場のことが書かれていた。

とりあえず書かれているのは牧場を手放そうとしている人がいること、そしてその土地の買い手を探しているからもし興味のある人がいたら仲介してほしいこと、旅の途中で機会があればこの件を広めてほしいというお願い、そして場所の詳細が書かれていた。

その先に何やらいろいろ書かれていたが、とりあえず団長が知りたいのはセルビアがこの場所を知っているかどうかということらしいので、書かれている情報を頼りにその場所について考える。

ただセルビアもサーカスの一員になるまで集落と街くらいしか往復したことはなく、何となく位置は察することはできるが、どのような場所でどのような環境かなどを聞かれても答えられそうにない。

ただ、団長の言う通り、書かれている場所はセルビアが集落から森を抜けて歩いて行ける街の近くで、そこから徒歩圏内にあることは間違いなさそうだった。


「うーん、わからないですね。ごめんなさい」


とりあえず行ったことがないとセルビアが素直にそう答えて手紙を封筒に戻して差し出すと、団長は笑いながら手紙を受け取った。


「そうか。じゃあいいんだ。手を止めさせて悪かった」


特にセルビアが大きく役に立つ作業はなかったけれど、手伝いで荷物を運んでいるのを見ていた団長が話を終わらせるべくそう言ったが、逆にセルビアはそれが気になって思わず尋ねた。


「知っていたら、何か聞きたかったんですか?」


知っているわけではないけれど、もしかしたらわかることがあるかもしれない。

確かに集落から出るまで街に行っても用事を済ませたら帰らなければならず見て歩く貴下はなかったし、街の宿に住むようになってからも街から出ることはなかった。

けれど宿に滞在している間、仕事を探すためになら歩き回ったことがある。

だからその範囲で答えられることがあるかもしれない。

セルビアはそう思って尋ねたが、団長からは想定外の答えが返ってきた。


「いや、もし、知っているくらい実家から近い場所なら、ここをセルビアちゃんに譲ってもらってもいいんじゃないかって思ってね」

「え?」


団長の言葉を聞いてセルビアは意味が解らないときょとんとする。

その様子から察したのか、団長は一つ一つセルビアに確認を始めた。


「セルビアちゃんは理由があって実家のある集落にいられなかったんだろう?でもご両親と仲が悪いわけじゃない。離れて過ごすことも本意ではなかっただろう?」

「それはそうですね」


集落の家に動物たちが集まるようになったことで、自分が寄せ付けてしまっていると言われ、それが迷惑というか、怖いと、そんな理由で引き離された。

もともと友人などがいなかったので、未練があったのは両親くらいだが、例え仲の良い友人がいなくとも両親さえいればあの時は穏やかに暮らしていけるとそう思っていた。

だから不本意だったというのは間違いない。


「それに理由だって、セルビアちゃんが悪いことをしたからいられなくなったわけじゃない。あれは偶然、不可抗力みたいなもんだ」

「そうなんでしょうか……」


家を出された後、宿で同じ現象を引き起こしたため、本当にセルビアが動物を呼び寄せる、よい言い方でも好かれる体質であることは間違いないという結論に至った。

セルビアは団長に励まされながらも苦い表情で過去を思い出すことになった。

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