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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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不届き者

明るくなった先にあったのは、この場所の興行のために臨時で雇ったスタッフが団員に囲まれている姿だった。

グレイばかり気にしていた男たちは周囲を見回し、ようやく自分たちが団長に銃を向けられていることに気が付いた。

団長は相手がわかっても気を抜くことなく銃口を向けたまま男たちに尋ねた。


「どういうことか説明してもらおうか」


ショーで見せる気さくな様子とは違う重厚な声に男は顔を見合わせた。

何よりこの程度のことなら見つかっても笑って許してくれるだろうと、高を括っていたため、まさかこのように詰められるとは思っていなかったのだ。

二人が目を泳がせると、周囲の目は冷たい。

とりあえず、思いついたと一人が言い訳を始める。


「いや、あの、そう、忘れ物、忘れ物を取りに……」


その言葉を団長が遮る。


「ここにお前らを入れた覚えはないが?」


そう言って睨まれた男は、口ごもりながらどうにか自分たちの行為を正当化しようと言葉を重ねる。


「いや、暗いから間違えて……」


確かにテントはテントだ。

遠めに見て形が似ているのは間違いない。

興行用のテントも、生活用のテントも形が似ていると言えばそうだが、明らかに入口の向きを変えているし、故意に入らなければ入り込めない構造になっている。

当然彼らの言葉が嘘であることなど、誰の目にも明らかだ。


「じゃあ、その忘れ物とやらはこっちで探してやる。どこに何を忘れたんだ?」


嘘を塗り重ねたことでより警戒を強めた団長に、彼らは困惑して再び顔を見合わせる。


「あ、えっと……」


言葉を詰まらせた彼らに、団長は言った。


「まあ、嘘だろう。とりあえずお偉いさんを呼んでくる」


そして団員の男性たちを近くに呼ぶと、持っていたロープを渡した。


「こいつらを縛って見張っておいてくれ」

「わかりました」


団長は彼らが逃げられないよう縛り終わるまで銃口を彼らに向けたまま男性の団員に指示を出す。

彼らが体をすくませ動くと、グレイがうなり声をあげて迫っていく。

そうしておとなしくなった男たちが手足を縛られ転がされると、ようやく団長は銃を降ろした。


「グレイ、お手柄だぞ。もう少し頑張ってくれるか?」


団長がいつもの調子でグレイの頭をなでながら褒めると、グレイは嬉しそうに吠えた。


「がぅがぅ!」


グレイは任せろと言わんばかりに返事をすると再び男たちの方に目を向けた。

縛られて転がっているし、彼らの繊維は喪失しているようだが油断はできない。

男性たちとグレイが近くで彼らを見張り、女性たちも少し離れた位置で身を寄せる。

当然視線は男足りに向いたままだ。

その状況を確認した団長は、言葉通り、警吏の人間を呼ぶためテントを出て行った。



数十分、沈黙の状態が続いたが、団長が戻ってきたことでそれが解けた。


「戻ったぞ。あいつらです」


後ろに男性の警吏と思われる男性を四人ほど連れて戻った団長は、そう言って男性たちを指さした。

すでに縛られているので、彼らを両脇に抱えて持ち上げるように立たせる。


「皆さん側の事情は夜が明けてから伺います。先に彼らを連行しますがよろしいですか?」


男を掴んでいる一人が確認のため聞いてきたので、団長は大きく首を縦に振った。


「お願いします。こんなのがいたら我々が寝られませんから」

「それはそうですね。逃げられては困りますので、ロープもこのままお借りしますがよろしいですか?」

「かまいません」


団長がそう言うと、警吏が二人の男を引きずるようにテントから連れ出した。

団長が入口まで見送り、敷地から出て行くのを確認するとテントに戻ってくる。



戻ってきた団長のところにニコルは駆け寄ると言った。


「団長、あれ、たぶんですけど、狙いはセルビアちゃんだと思います」


彼らの目的はテントの中にある金品ではなく、セルビアではないかとニコルは言った。

団長はそれを聞いてそれならば彼らが盗み出したものを入れるための袋を持っていなかったことにも、グレイが過剰に反応したことにも説明がつく。

ニコルも思うところがあるのならこちらに伝えてくれればと思ったが、それは子供に課すものではなく、大人が気付くべきものだ。

ニコルもこうなるまで大したことではないと、その程度の認識だったに違いない。

しかし思うところがあるなら意見として事情を聴いた方がいいだろう。

そう判断した団長はニコルに尋ねた。


「何か知ってるのか?」


団長に聞かれたニコルは、彼らが仕事の合間、売店に来てはセルビアに執拗に言い寄っていたことを話した。


「知ってるわけじゃないんですけど、なんかずっと売店でセルビアちゃんにいやらしい視線を送ってたんですよね。だから寝込みを襲おうとしたんじゃないかなって」


これはあくまでニコルの憶測だ。

襲うことなど想定しておらず単に一人のところを狙って誘い出そうとしたのかもしれないが、それにしては時間が遅い。

だから寝込みを狙ったのだろうと理由を告げると、団長は口を結んでうなって少し考えてから口を開いた。


「彼らにはあらかじめ夜は寝静まるが皆が一緒に生活していることは説明していたし、居住空間だから入らないようにも言っておいた。たくさんの人が共同で暮らしている場だと知っていながら、そんな無体ができるとどうして彼らは考えたんだろうな」


臨時で仕事に入る人には皆同じ説明をしている。

当然その説明の場に大人たちが数人いたし、その様子を見ていた。

団長がこのテントに関する説明を忘れたわけではないことはわかる。

大人たちが首を傾げると、ニコルがあっと声を上げた。


「もしかしたら、テントにちゃんとした個室があるって思ったのかも!」

「どういうことだ?」


当然だがテントに個室などない。

着替えなどが見えないように、それぞれの空間として使えるようにと布は下がっていて、それがしきりとなっているがそれだけだ。

立っても向こう側が見えないようにはなっているが下から除くことはできるし、ぶつかって払えばめくれるものだ。

普段はそれらを仕切りとして扱っているから出入り口として開けているところしか通らないが、当然そんな作りだから、隣で何が起きているのかくらいはすぐにわかる。

静かな深夜なら会話の内容も筒抜けだ。

おそらくここに入ったことがなく、セルビアの話から勝手に想像を膨らませて、寝静まった後なら見つかることはないと判断したのだろう。


「あいつら暇を見つけてはセルビアちゃんに声をかけようとしてたけど、人目のある所ではそれなりに許容してたんだ。セルビアちゃんもだいぶそういうの自分で躱せるようになってきてたし、私がずっといられるとも限らないからいい練習になるかなって。あと彼らが声をかけて連れ出そうとしてたのにも応じてなかったし。でも気になったから助けに入ることもあるかもって思って内容を聞いてたんだけど、宿は使えないけど、テントの中に個室みたいな場所があるみたいな話をしてた気がするから、もしかしたら一人のところを狙ったのかなって」

「まさか誘拐か?」


団長が単なる盗人ではなく、誘拐犯の可能性があるなら、皆を危険にさらしたかもしれないと困惑しているところにニコルは続けた。


「誘拐なのか襲おうとしたのかは分かんない。でも、セルビアちゃんはあの男たちの下心みたいなのには気づいてないと思う。ただ、自分と話をしてくれるいい人、くらいにしか思ってないんじゃないかな。お誘いは全部断ることを徹底するよう伝えてたから、団の決まりとしてそれを守って断ってただけのような気もする……」


これまで閉鎖的なところでの生活が長かったことと、そこでセルビアはあまり良い扱いを受けてこなかったこともあり、表面上、悪意の見えない人の話にはまじめに耳を傾けていた。

それに加えて、セルビアはおとなしくおっとりとしているので、不届き者に目を付けられやすいタイプだった。

ただ、セルビアの中で暴言や暴力がない人は皆全量に見えているようで、裏にあるものを読む力はあまりなさそうだと感じたニコルが、セルビアの身を守るために教えたことだった。

セルビアはきっと受け入れないことをサーカス団に迷惑をかけないように決められたルールと認識したに違いない。

ここでお世話になっているという認識の強いセルビアがかたくなに守っていたのは、ここにしか居場所がないからだろう。

説明の仕方がよくなかったかもしれないとニコルが反省しながら団長に伝えると、団長はニコルを褒めた。


「そうか。よく見ていてくれたな。セルビアちゃんは、元の集落からいろんな事情を抱えてきたようだからな。そこは仕方がないが、とりあえずあいつらのクビは決定事項だ。それでも明日の興行はいつも通り行うから、大変だと思うけど皆で乗り切ってほしい」

「はい!」


団長の言葉で改めて結束を深めた皆は大きく返事をしたのだった。

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