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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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テントの異変

とりあえず檻の中でトラの横に立ったセルビアは、トラの首回りに手を伸ばして撫でながら尋ねた。


「トラさんは、この間みたいにどこか痛いとかないの?」

「ぐるっ」


グレイがセルビアを叩き起こして夜中にもかかわらずここに引きずってきたため、てっきり前のようにトラが怪我をしていたり具合が悪くなってしまったりしているのかと思っての確認だったが、トラはいたって元気そうだ。


「そっか。具合が悪いとかじゃなくてよかったよ」


そう言ってトラを撫でたセルビアだがそうなると自分がここに連れてこられた理由がわからない。

だから今度はグレイの方に話しかけた。


「ちょっとグレイ、トラさんびっくりしちゃうじゃない。本当にどうしたの?」

「がぅがぅ」

「ぐるぅ」


二頭で何か会話をすると、グレイはセルビアをぐいぐいとトラの方に押しやる。

そしてセルビアがトラにぶつかるように寄りかかる形になると、トラもセルビアをかばうようにしっぽをセルビアの方に回してきた。


「トラさんと一緒にいてほしいってことかな。わかったよう」


とりあえずおとなしくしているトラの背中を撫でながらグレイに向かってそう言うと、グレイは納得したように小さく鳴く。


「がうがう」

「ぴぴっ!」


グレイの鳴き声の横から小さな返事が聞こえたのでセルビアがそちらを見ると、いつの間にやってきたのかハリィがグレイの陰からひょっこり顔を出した。

そしてトコトコとグレイがセルビアの方に歩いてくると、そのさらに後ろをラビィが付いてきた。


「ハリィとラビィも一緒なのね。トラさんごめんね、グレイが殺気立ってて」


夜中に押しかけて、ハリィとラビィまでここに身を寄せている。

訳も分からないまま大人数で押しかけているようなものだが、トラは気に進呈ない様子でしっぽでセルビアの背中をぺしぺしと叩いた。


「おなかのところに寄りかかれってこと?」

「ぐるぅ」


セルビアが聞くとトラは目を細めて鳴いた。


「せっかくだからお言葉に甘えようかな。ハリィたちもおいで」


どうやら正解らしいと感じたセルビアはトラに寄りかかるように座ってハリィとラビィを呼んだ。


「ぴぴっ」


返事をしたハリィが動くとちょこちょことラビィが付いてきて、セルビアの真似をするようにトラに顔面から突っ込んだ。

お布団に顔を埋めるのと同じようにトラの横腹に顔を埋める二匹をほほえましく見ていると、グレイがうなる声をあげて檻から出て行く。


「ぐるるるるぅう」

「あ、グレイ、どこ行くの?」


グレイが出て行ったのでセルビアが追いかけようとすると、トラがしっぽを回してセルビアを止めた。


「トラさんもここにいた方がいいっていってくれてるの?」

「ぐるっ」


トラが喉を鳴らして答えるので、セルビアは再び同じ位置に戻って手を伸ばしトラの顎を撫でた。


「何かよくわかんないけど、もう檻の中に入ってるし、トラさんと一緒にいるかぁ。それにしてもトラさんのおなか、あったかいねぇ」


クッションを枕にするように、セルビアがトラのおなかに頭を乗せると、トラは嬉しそうに鳴いた。


「ぐるぅ」

「なんかこのまま眠れそうだよ~」


セルビアはそう言ってそのまま目を閉じた。

そしてそのまま本当に寝入ってしまうのだった。



トラの檻から出たグレイは、セルビアが休んでいた部屋に静かに戻った。

ほどなく、何者かが静まったテントのいつもみんなが集まる広いところを通過する。

彼らが薄暗い中、その中央付近を通過して、セルビアが休んでいるはずの場所に到達しようとしたところで、グレイが大きく鳴いた。


「わぉーん」


その声を聞いた団員たちは驚いて目を覚まし、とりあえず武器などを持ってそれぞれの仕切りから出てきた。するとそこに男が二人、立っていて、グレイが唸り声をあげながら男たちに迫っている。


「うわぁ!テントに戻ったら動物は檻の中にいるんじゃないのか?」

「何かわかんねぇけど、やばいって」


グレイに押されて後ずさる男たちは顔を見合わせながら逃げ道を探しているが、とりあえず後ずさることしかできずにいた。

それでも元来た入口に向かってはいるし、敵はグレイだけなので、そのまま後ずさる速度を上げれば逃げられたのかもしれないが、そんなことをすればグレイがとびかかってくるのではないかという恐怖心が先立って、思ったように足を動かせず、ゆっくりと目を離さず交代するしかできなかったのだ。

そうしてもたもたしているうちに、グレイの鳴き声を聞いた大人が集まってきた。

そしてグレイと対峙する男を見て声を上げる。


「何だお前らは」


男性の団員が彼らに問うが、彼らは食い殺さんばかりに殺気をまとったグレイが怖くて言葉が出ない。

とりあえず次々とやってきた大人たちが、暗い中、彼らを囲み追い詰めていく。

その間に目を覚ましたニコルとマダムが異変に気付いて灯りをともしていった。


「ちょっと何の騒ぎ、って、あんたたち!」


見覚えのある顔が並んでいることに驚いて大きな声を出したニコルの後ろから、遅れて出てきた団長が声をかけた。


「どうしたニコル」


明らかな不審者がいることを外の音で察した団長は、大人たちがうまくやっていることを感じたため準備を済ませて出てきた。

団長の手には猟銃と、ロープがある。

本当に団員が危害を加えられそうなら打つつもりで弾も込めてきたため遅れたのだ。


「グレイが遠吠えしたりして様子がおかしいから見に来たらこいつらが……」


大人に囲まれた中にいる男たちをニコルが指さすと、団長もそちらに視線を向ける。

そしてニコルが驚いたのは顔見知りだったからであると理解した。


「とりあえず捕まえて突き出すよ」

「もちろん」


彼らのことは団長もニコルも知っていた。

けれど彼らにはここに入らないようにと説明していたはずだ。

目的はわからないが、これは不法侵入である。

もし濡れ衣だったら申し訳ないが、おそらくそうではないだろうと団長は彼らの様子を伺いながらそう確信していた。

これまでも臨時の雇用した人間がここに忍び込むことは多くあった。

そして捕まえた人間から聞いた中で一番多い理由は、団員の所有物、金品を狙って盗みに入ったというものだった。

しかし彼らはそれらを入れるような袋を持っている様子はない。

出来心で入り込んだにしては後ろめたそうにしているし何か別の目的がありそうだ。

団長は彼らに冷たい目を向けながら、とりあえずどう切り出すかを考えるのだった。

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