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セルビアの体質

セルビアが集落を出ることが寄り合いで決まってから、その準備は慌ただしく進むことになった。

寄り合いから戻ってくるなり父親が突然、家を出て、一人、宿で暮らすようにと言いだしたのだから、過去の事情を知っている母親はともかく、セルビア本人は驚くことしかできなかった。

しかし急なこととはいえ、父親の切迫した様子を見れば、事情の説明がなくとも、言われたことに従うのが賢明だとのんびりしたセルビアでもわかる。

母親も自分の仕事を置いて、セルビアの荷づくりを手伝うと、すぐに動き出したので、セルビアは母親と一緒にすぐ自分の部屋へと向かった。

そして父親の発言にのんびり驚いている暇は与えられることもなく、追い立てられるように荷物を詰めさせられ、セルビアはそのまま就寝、翌朝には、父親はすでに宿を手配しているから、そちらに移るようにとセルビアに促した。


「ごめんなさいね、セルビア。こんな事になってしまって」


追い出すような形になったことを母親が詫びると、セルビアは大きくなってきても足元にすり寄っているグレイを見下ろしてから言った。


「仕方ないよ。私がグレイを飼いたいなんて言ったからだよね」


急に色々なことが変化したのはセルビアがグレイを連れ帰ってきてからだ。

両親の言う通りグレイを森に帰していたらこの状況は変わっていたかもしれないが、もしそれが原因でもセルビアはグレイと一緒に過ごした事を後悔していない。

今もこうして一緒に寄り添ってくれているグレイは、セルビアの一番の友人だ。

だから家を出ることになってもグレイと一緒にいられるのなら問題ないとセルビアが言うと、父親は違うとそれを否定した。


「それだけじゃないんだ」


父親の言葉にセルビアはこれまで疑問に思っていた事を口にした。

そのこととこの状況が関係ないとは思えなかったからだ。


「それって、私が今まで買い物に行くのを許してもらえなかったのと関係あるの?」


セルビアの質問に対して二人とも困惑した表情を見せたが、答えた内容は異なっていた。


「それは…….」

「ああ、そうだ」


母親は言葉を濁そうとしたが、その言葉にかぶせるように父親がセルビアの話を肯定したのだ。


「ちょっと!」


今まで隠し通してきた話を突然ここで始めるのかと、母親がそう言いたげに父親をにらみつけたが、父親は母親の目をしっかりと見て言った。


「こうなってしまった以上、話しておいた方がいい。過去を知らないでこれから困るのはセルビアだ」

「そうだけど……」


あれは偶然、そう自分に言い聞かせて黙っていた母親からすれば、突然それをひっくり返されたのだからなかなか受け入れられない。

それもあって伝える事を渋っている母親を父親は説得にかかる。


「これからセルビアはしばらく一人で暮らさなきゃならない。そこで何かあってもかばってやれないんだ」

「そうかもしれないけど……」


今までならもし同じようなことが起きても自分たちが対処すればすんだ。

けれどこれからセルビアは一人で宿に暮らさなければならない。

いくら宿の人が親切な人だとしても、身内ほど親身にはなってもらえないだろう。

そうなるとセルビアはこの先自分のみを自分で守らなければならない。

その時、今回の原因である本人の体質について自覚をしていなければ、より対処が難しくなってしまう。


「それに、セルビアがいつ戻ってこられるか、もしくは私たちがいつか街に戻ることになるのか、そういった事も決まってないんだ。それにセルビアにも少しは働いてもらうつもりなんだろう?」


幸いにもセルビアを追い出した彼らの有責もあって、セルビアの当面の宿代や生活費に困る事はない。

けれどセルビアを自立させる努力をすることがその条件に含まれている。

何よりセルビア自身に、今まで出来なかった事を取り戻させたい。

働くもよし、時間を気にせず買い物をするもよし、食事も外食にしたっていい。

それらを今までかなえてあげることができなかったのだ。

父親はそう思って発言したが、それを聞いたセルビアは申し訳なさそうに言った。


「私はどうせ街で暮らすなら働きたいよ。なんか私の事で迷惑かけちゃってるみたいだし、それが生活の足しになるなら……」


セルビアの言葉に父親は慌ててそうではないと伝える。


「生活のことはまだ考えなくてもいいんだぞ?自分で働いたお金は自分の使いたいように使えばいい。ああ、そうだ。グレイのお世話代がかかるだろう。自分で面倒見るから飼うって約束だったんだ。そこに使って残ったら好きなものを買ったり、おいしいものを食べたりすればいい」


生活費は出すから自分の贅沢のために働いたお金を使えばいいと言いかけて、それでは良くないと、慌ててグレイの話を出すが、セルビアはいまいち納得できていない様子だった。

両親から見ても、セルビアが自分の事をできるだけ早く自分でどうにかしなければと考えていることが分かって心が痛む。


「わかった。それで、今回のって動物がいっぱい遊びに来てる話だよね」


グレイを連れて帰ってきてから、集落にたくさんの動物が来るようになった。

それで集落の皆がそれを不満に思っている事も知っている。

その訪ねてきている先が我が家で、セルビアとグレイが彼らにかまっていたのでこのようなことになったのだろうとセルビアは思っていた。


「あのね、セルビア。今まで黙っていたのだけれど、セルビア自身が動物を引き寄せる体質みたいなのよ。だから買い物もね……」


母親がそう切り出すと、父親がそれに続く。


「そうみたいなんだ。詳しくは分からないんだが、セルビアはどうやら普通の人間より動物に好かれる体質らしい。ただ本当にセルビアが原因なのかまでは分からないんだ」


ただ、セルビアがグレイを連れてきたことで、集落にはやはりセルビアにはそういう動物を引き寄せる何かがあるのではないかという話になった。

もちろん、それを証明する方法はないし、言っている彼らも根拠を提示できているわけではない。

だけど、証明はできなくてもセルビアはそう言う体質かもしれないという事を頭に置いておいてほしい、そして今後もそういうことが起こるかもしれないので、宿にいる間に、その時の対処についても考えていこうと、父親はセルビアに話したのだった。

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