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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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旅の再開

新しい仲間を迎え、サーカスは旅を再開した。

けれどそれ以外何も変わらない。

次の街に行けばまた、いつも通り、指定された広場にテントを張って、興行が始まればセルビアはニコルと一緒に売店の売り子をする。 変わったことといえば、クレイの上にハリィだけではなく、新しく仲間になったウサギが乗っていることくらいだ。

グレイたちは売店の入り口にいることが多いが、サーカスはもともと動物たちの芸を見てもらう場所なので、周囲はグレイたちを見ても特に珍しがったりはしなかった。

こんな動物もいるのだなと程度に眺めて通り過ぎて行くか、子供が興味を示して近付いてグレイを撫でようと手を伸ばすくらいだ。



ハリィはこれまで退屈そうにグレイ上でゴロゴロしていたけれど、ウサギのラビィという友達ができて、仲良く落ちない程度にじゃれあっている。

ラビィの食事についてすごく負担が増えるのではないかと不安だったが、ニコルが半分負担してくれていることもあり、手取りの給料に大きな影響はなく、これまでと何ら変わらない旅を続けられている。

さすがに動物の数が増えたので、宿を使うのは難しくなってしまったが、どこでも熟睡できるセルビアは、テントでの生活にすっかり慣れてしまったため、特に不自由を感じることはなかった。

それより、グレイやハリィ、ラビィと寄り添って眠る生活に幸せを感じていたのだった。



そうして旅を続けていたある日。

いつも通り公演を終え、皆で夕食を済ませそれぞれが自分の部屋、仕切りの向こうに休むべく引っ込んだ。

そしてセルビアが眠ろうと体を横たえると、いつもは仕切りの隅っこで丸くなるハリィが珍しくセルビアの顔の近くにやってきた。

そして足でセルビアの頭をパシパシ叩きながら鳴き始めた。


「ぴーぴー!」

「ん、ハリィ、夜中にどうしたの?」


まどろみ始めていたところを、耳に近い位置で鳴くハリィに起こされる形となったセルビアは、とりあえず目を覚ましたので手探りでハリィを撫でた。

撫でて収まるならいいかと思ったが、どうもそうではないらしい。

覚醒してくると、グレイも何やらうなり声をあげているのが聞こえる。


「ぐるうぅぅぅ」

「グレイもなの?なんかあるのかな?」


この緊迫感は前にも経験したことがある。

クマがテント周辺に現れた時だ。

しかし今回はその時と大きく環境が異なる。

クマが出たのは平原で、いわば野宿をしているような状態だった。

でも今回は、同じようにテントの中だけれど、そこそこ発展した街の、入口からは比較的距離のある中心地に近い空き地だ。

ここにクマが来るのなら町中がパニックになっているはずだが、街は闇に包まれて眠りについている。

何の変化もないはずだ。

セルビアはそう考えて再び眠りに着こうと思ったが、ハリィはセルビアが撫でても頭をパシパシしてくるのをやめない。

この子は聞き分けのいい子なので、普段はこんなことをしない。

それにグレイもだ。


「わかったからハリィ。起きればいいのね」


とりあえず起きればハリィの頭を手でパシパシ叩く動作はやめてもらえるだろうと、セルビアが体を起こすと、今度はグレイが喉を鳴らすのをやめ、セルビアの服の端を咥えた。

そしてそれをぐいぐいと引っ張る。


「ちょっとグレイ、服引っ張んないで。ちゃんとついていくから」


グレイとハリィが何をしたいのかはよくわからない。

とりあえず起きてほしいことと、グレイの引っ張る方についていってほしいということだけはわかった。

それにしても夜中にどうしたのか不審に思いながら、とりあえずセルビアは眠い目をこすりながら、グレイが引っ張っていく方に流されるように歩いていくことになるのだった。



そうしてグレイが引っ張ってきた先はトラの檻だった。


「ここ、トラさんの檻だよ。トラさんに何かあったの?」


見た感じ、トラは起きているようだがおとなしくしている。

前みたいに苦しそうな様子はないし、暴れたりもしていない。

グレイがここにセルビアを連れてきた理由はわからないが、グレイはセルビアの服を咥えたまま、檻を足で叩き始めた。


「ちょっと、みんなが起きちゃうからやめて?どうしたの?開けてってこと。まあ、トラさんいい子だから何もしないと思うけど、そんなことしたら怒られちゃうよぅ」

「がぅがぅ!」


皆が寝静まったところでこんな音を出したら皆が起きてしまう。

貴重な睡眠時間なのに迷惑はかけられない。

ただ、グレイが何をしてほしいのかだけは理解した。


「あー、わかったよう。中に入ってほしいんだね」

「わぉーん」


セルビアが落ち着かない様子でグレイの行動をやめさせようと慌てながらそう言うと、グレイは小さく鳴いた。

どうやら正解だったらしい。



本当はこんな時間に動物の檻の前に来ること自体、怪しい行動なのに、グレイはさらに中に入れと言う。

入らないと音を出し続けそうだったので、セルビアは仕方なくトラの檻を開けた。


「トラさん、グレイがここに行けって言うからお邪魔するね」


セルビアが小さな声でトラに向かって声をかけると、トラはセルビアを一瞥してしっぽを一度大きく打つと、目を閉じた。

どうやらセルビアが入ることは問題ないらしい。

とりあえず静かに中に入ってトラの方に近づいていくと、その隙間から小さな影が二つ入ってくる。

そしてトラのおなかの前で立ちどまりセルビアの方を向いてとまる。


「ぴぴっ」


どうやらハリィとラビィも一緒ということらしい。

訳が分からないがグレイには何か考えがあるのだろう。

とりあえず来てしまった二匹も一緒にいても大丈夫か、話が通じるかわからないけれど確認してみようと決めたセルビアは小声で言った。


「ハリィたちも、いいかな?」

「ぐるぅ」


トラはその声にこたえるように閉ざしていた目を開けると、許可の一鳴きをして目を閉じたのだった。

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