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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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新しい仲間

ヒツジたちを牧草地から小屋に戻していよいよ出発となった。

セルビアたちが外にいる間にテントも片付けられ、荷台に積み込まれている。

テントの外側を片付ける時はむしろ邪魔になるから外にいたのはちょうどよかったのかもしれない。


「じゃあ、行こうか」


団長がすでに羊飼いに場所を借りたお礼も済ませていたため、サーカスは出発しようとした。

グレイは人間の少ないところではハリィを背中に乗せて外を走ってついてくるのでいつも通りにと思ったが、なぜか今回、グレイの上にはハリィだけではなく、ウサギも乗っている。


「ウサギさん、もうクマはいなくなったみたいだけど、森に帰らなくていいの?」


セルビアが声をかけると、ウサギは鳴くことなく、体を持ち上げるとじっとセルビアを見上げて首を傾げる。

セルビアが荷台に乗り込まずグレイの方に体をかがめているため、何かあったのかとニコルが降りてきて尋ねた。


「セルビアちゃん、どうしたの?」

「ニコルちゃん、ウサギさんが……」


ハリィと並んでグレイの背中に乗るウサギを指すと、ニコルは笑いながら聞いた。


「ウサギさんも一緒に行く?」

「ぴぴっ」


当事者であるウサギは二本足で立って体を伸ばしている間に、なぜかハリィが元気に返事をする。


「ハリィには聞いてないんだけどなぁ。でもウサギさんもそうしたそうなんだよね……」


何を言われても我関せずといった様子だが、ウサギがグレイから降りる気配はない。

もしかしたら離れていくうちに気が変わっていなくなってしまうかもしれないが、この様子だとそれはないように見える。

グレイの背中がお気に入りというだけでここにいるわけではないだろう。


「多分大丈夫だけど、団長に話した方がいいね」

「うん」


出発前にこんなことになるとは思わなかったが、出発してから引き返すのは難しい。

とりあえずニコルとセルビアは馬車の中か周辺にいるであろう団長を探すことにした。



団長を見つけた二人は出発前に足止めして申し訳ないと謝ってから、三人でグレイの近くに移動して、ウサギの件を相談することにした。

実際に見てもらった方が早いと思ったからだ。


「まぁ、ウサギー羽くらいかまわないんだが、その子もセルビアちゃんが面倒みるのかな?」

「そうなりそうです」


ウサギはハリィと友達になったようだし、グレイの上から動かない。

自分の世話をしている二匹と一緒にいるため連れていくことになるので、このウサギはきっとセルビアの連れということになるだろう。

そのため、セルビアは自分がどうにかすると申し出たのだが、どうにも団長の反応が良くない。

ダメとは言わないがはっきり賛成もしてくれないのだ。

セルビアがどうしたものかと思っていると、そこにこれまで成り行きを見守っていたニコルが割って入った。


「団長、私も一緒にみる。団長が気にしてるのはエサのことでしょ。ウサギの分は私からも半分引いていいから」


連れていくことに賛成してくれるのは嬉しいが、それではニコルに面倒をかけることになる。

どさくさ紛れにエサに関して負担を申し出ているが、そこまでさせるわけにはいかない。


「ニコルちゃん、それは……」


セルビアが戸惑っていると、ニコルは笑いながら言った。


「ウサギのご飯くらいならそんなに負担にならないよ。あ、その代わり、なでなでさせてほしいなぁ」

「私はいいけど……」


エサの負担をする代わりにニコルもウサギをかまいたいという。

セルビアとしては問題ないが、当のウサギがどう反応するかはわからない。

二人がウサギの方を見ると、ウサギはハリィに体を摺り寄せたりしているだけで、セルビアたちのことはやはり気にしていないようだ。

けれどその代わりなのか、ウサギの意思を伝えるかのようにハリィが三人の方を向いて鳴いた。


「ぴぴっ」


三人ともそれを肯定と捉え、意見が一致したため、とりあえずウサギはそのまま同行させることに決まった。


「じゃあ、それで決まりだな」

「うん。団長、ありがとう!」


セルビアがお礼を言う前にニコルがものすごく喜んで弾んだ声でそう言ったので、出遅れたセルビアはどうしていいかわからず、とりあえず団長に頭を下げたのだった。



とりあえずグレイの背中に乗ったウサギはそのままに、セルビアとニコルは馬車に戻った。


「ニコルちゃん、本当に良かったの?」

「何が?」


乗り込んで座る場所を確保したところでセルビアが尋ねると、ニコルはきょとんとした様子で聞き返した。


「ウサギさんのことだよ」

「うん。問題ないよ。ウサギの餌代なんてたかが知れてるもん」

「でも……」


グレイとハリィと仲良くなったことがきっかけなのに、ニコルにエサ代を払わせることになるのは申し訳ない。

セルビアがそう言うと、ニコルは笑った。


「それにああ言わないと、多分団長はいいって言わなかったと思うんだ」

「なんで?」


たしかにウサギを連れて行けるようになったのはニコルが団長に申し出てくれたおかげだ。

団長が難色を示したのは、すでにグレイとハリィがいるため、そこにウサギが増えたら面倒見切れなくなると判断されたからだろう。

でもニコルが共同で責任を負ってくれるなら、団長から見ても安心だということで、裏を返せばセルビアだけでは面倒見切れないと思われたということかもしれない。

もっと自分に信頼と実績があれば、ニコルに面倒をかけずに済んだのにと、聞き返してから気が付いて落ち込むセルビアに、ニコルが言った。


「本当はグレイだけじゃなくて他の動物の餌代を給料から引くのは気が引けてると思うんだ。でもやらないのも他の団員に面目が立たないでしょう。だからこれ以上セルビアちゃんの負担が増えるようなら、受け入れないって、団長も判断しちゃうと思ったんだ」

「そう……、なんだ」

「このままじゃセルビアちゃんの負担ばっかり増えちゃうもん。そもそも動物たちのことに対して、セルビアちゃんに大丈夫だって言ったのは団長と私もだし、その言葉に二言はないよ」


ニコルはセルビアが面倒を見きれなくなる可能性を考えてのことではなく、この件でセルビアの給料が減ってしまうことに懸念を持ったのではないかという。

そもそも、セルビアの体質のことを知っていて一緒に行こうと声をかけたのだし、むしろこの程度の増員などサーカスにおいてたいしたことではない。

むしろここでウサギを残していくようなことになったら後々気になって仕事にならないかもしれない。

入団の際の条件について、セルビアからすれば囲まれても追い払う術があるというだけの意味で捉えていたかもしれないけれど、もし今回のようなことがあって、必要があれば面倒を見る覚悟もあると、少なくともニコルは思っていた。

だからその時が少し遅れてきただけだとニコルは言う。


「ありがとう」

「私は仲間が増えて嬉しい。大歓迎だからね」


セルビアがお礼を伝えると、ニコルはグレイの背中に乗っている新しい仲間を見てそう言うのだった。

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