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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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理不尽な要望

そうして熊肉の夕食を取った翌日。

羊飼いに呼ばれた団長が、羊飼いの家に上がっていた。

そして団長に羊飼いは用件を切り出す。


「悪いがわかってしまった以上、オオカミをここにおいてはおけない。助けてもらっておいてなんだが……」


この先もしばらく街まで距離がある。

だからここで体力を回復し、先の道を行く予定だった。

団員の休養を兼ねているので、まだ数日ここで世話になる予定だったが、それを早めてほしいと羊飼いは言う。


「本当に、助けられたのになんだな」


その理由は理解できるものだが、納得はできない。

思わず団長から嫌味が出たが、羊飼いとしては今後の不安の方が大きい。

彼はそれをはっきり伝えた。


「わかってるだろう。オオカミはヒツジの天敵みたいなもんだ。しかもヒツジの方が圧倒的に弱い。クマの恐怖が先にあったから今は問題ないが、このままだとヒツジに害が及ぶ可能性がある」


今回はクマから救ってもらった。

それは事実だ。

けれどオオカミだけが現れたら、それはそれでヒツジが危険だ。

それに彼はヒツジを飼うことで生計を立てている。

羊飼いとしては自分のところにいるヒツジの安全を優先せざるを得ないし、それができなければ自分の生活も脅かされることになる。

団長とも旧知の仲だし、こんなことは言いたくはないが、ここははっきり言うしかないと腹をくくって今こうして話をしている状態だ。


「グレイはそんなことしないと思うが……」


オオカミと言ってもグレイはセルビアの飼い犬のようなものだ。

忠犬という言葉があるが、まさにそんな感じである。

だから今回もセルビアが危険だから立ち上がったにすぎず、自分たちだけのためだったら何もしてくれなかったかもしれないという考えもある。

けれどグレイは基本的に人間に危害を加えるタイプではない。

懐きはしないが、余計なこともしないのだ。


「そいつはサーカスに馴染んでいるくらいだからそうかもしれないが、今回共闘したと思われるオオカミは、一緒に生活をしているわけでも管理されているわけでもないだろう?」


今回のクマをグレイが一頭で仕留めたというのならまだ許容できる。

けれど遠吠えの声、クマの傷などを鑑みるに、それはありえない。

となるとそこに複数のオオカミがいたということになる。

そのオオカミがもし、ここにヒツジがたくさんいて、格好の餌場だと認識したら、今度狙われるのはこちらの家畜ということになる。

グレイが群れの長のようではあるが、彼の言う通りグレイ以外のオオカミはサーカスでも管轄外だ。

移動するグレイについて、その近くの森にオオカミの群れも移動してくれるのならそれに越したことはない。

つまり、自分の生活と危険を回避するための判断ということだろう。


「確かにそうだ」


そう返事をしながらも、それが本当にグレイの仲間かどうか定かではない。

決めつけてかかられることに不満はあるが、団長は一旦それを飲み込んだ。


「こっちからすれば、サーカスのオオカミ以外のやつが、こいつの仲間かそれ以外か判別がつかない。オオカミに慣れてヒツジの危機感が薄れても困るし、恐怖で集団暴動になっても困るんだ。わかるだろう」


飼い主側の言い分としては正論だということはわかる。

だからこそ団長は、こちらに不利益が来ないよう慎重に話を進めることにした。


「確かにこっちも、グレイが群れの長っぽいとか、それなりの権力がありそうだってのは昨晩知ったことだしな」


今回が一時の共闘だった場合、グレイはいなくなり他のオオカミは森に残ることになるだろう。

逆に言えばこちらが移動してその後、そのオオカミに狙われ場合、その責任を問われずに済むのだから、双方のために自分たちが条件を飲む方が賢明だ。

むしろあらぬ疑いをかけられるのなら早急にいなくなった方がいいだろう。

団長はそう考えながらも、わざと残念そうな口調で羊飼いの情に訴えた。


「本当はもう少し休ませてもらうつもりだったが、そう言われたら出発するしかないな。今日中に片付けて、明朝出発するよう団員にも説明するよ」

「ああ、本当にすまない」


さすがにほだされる部分もあったのだろう。

羊飼いもただ謝罪の言葉を口にした。



しかし彼らは仲違いをしたいわけではない。

とりあえず方針が決まったところで、団長は少々嫌味を吐いた。


「そうだなあ。それにしてもオオカミは置いておけないか。けど、いなかったら小屋のヒツジは全滅してただろうな。助けてもらったんだから、本当は追い出す算段の前に、まずは礼が先じゃねえか?」


団長がそう話を振ると、多少は気にかけていたらしく羊飼いは口ごもった。


「それはそうだが、うちには出せるもんが……」

「んじゃあ、ヒツジ何頭かくれてやればいいんじゃねぇか?」


団長が軽くそう言うと、羊飼いは目をむいた。


「何頭か?一頭じゃなくてか?」

「本当なら全滅してたんだし、そのくらいで済めば安いもんだろ?」


何なら本来被害にあったはずの全頭をもらい受けてもいいと付け加えると、羊飼いは慌てて首を横に振る。


「いや頼むから全部連れて行くのは勘弁してくれないか。ここで持っていかれたら大損害になる!」

「そうだな。そこはグレイの飼い主であるセルビアちゃんと相談だ。仲介には入ってやろう」


団長に最初からその気はない。

うちはあくまでサーカス団で、動物と人間が芸を見せて旅をしている集まりだ。

いくら動物を連れて歩く旅をしているといっても、遊牧民ではない。

ヒツジを大量に連れ歩くのは無理だ。

そしてグレイに対するお礼とするならば、その交渉相手はセルビアになる。

間に入ると言ったが意趣返しとして、自分はセルビアの側について交渉をまとめることになるだろう。

けれどおそらく、セルビアはそんなに強欲な要求はしてこない。

付き合いの長くなった団長にはそれがわかっていたが、ここはあえてセルビアのためにも好条件を引き出すべく話を持っていく。


「だけどな、ヒツジの行動についての責任はとらないぞ。ヒツジたちが助けてくれた我々を選ぶか、我々を追い出す飼い主を選ぶかはな」

「どういう意味だ?」


セルビアの持ち合わせている体質を知らない羊飼いは言われたことが理解できず首を傾げるが、団長はあえてそのままにして、立ち上がった。


「まあ、それについては自分の目で見た方が早いかもしれないな。とりあえず団員に説明しないとならんから一度テントに戻る。撤収するなら片付けを始める必要があるからな」

「ああ、頼む」


団長はとりあえず団員に話をするからと小屋を出てテントに向かった。

撤収させるのはこちらの都合だ。

片付けについて話をするというのだからとりあえず出て行ってくれるのは間違いない。

羊飼いは離れた場所にあるテントと団長の背中を見ながら安堵のため息をつくのだった。

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