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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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同じ肉の食事

セルビアたちがテントを出た後も、取り分の話し合いは続いていた。

クマの毛皮は売れるので、羊飼いが安値で引き取り、まとめて売ることになり、肉は一山ずつ、それぞれが好きなように処理するということで合意がなされると、重たい毛皮を運ぶのに団員の大人たちが手伝いに参加、その間に女性たちは熊肉の処理を開始する。

基本的には干して乾燥させて保存食にして備蓄することになるが、せっかくあるので今日はこの肉を使った料理を食べようと、マダムも食事の支度にかかった。



そして取り分が決まって仕分けと処理が終わった頃、セルビアは一人テントに戻ってきた。

すでに話し合いは終わり、並べられていた肉や毛皮もそこからは消えている。

何より第三者である羊飼いが帰っていたので、セルビアが少し離れている間にテントは元の状態に戻っていた。


「森はどうだった?」


戻ってきたセルビアにニコルが尋ねてきたため、セルビアはニコルの隣に座ると、外に出た時のことを正直に答えた。


「入口がどこのことかわからなくて迷っちゃったけど、よく見て歩いてたら争った跡があったから、もともとクマのいたところならわかりやすいかなって思って、そこに肉を置いてきたよ。グレイがお肉の周りを歩きながら見張ってたから、たぶん仲間に分けてくれると思う」


セルビアは幸いにも血だらけのクマ本体を見ていないので、あまり恐怖のようなものは感じずに済んでいた。

テントに運ばれてきた時はすでに肉の塊とか毛の塊になっていたし、森には血痕らしきものがあったけれど、血の池ができていたわけではないので、セルビアが見たものの中にリアルなものは何もない。

だから語られるのは目にした事実だけだ。


「そうなんだ。確かに自分が倒した場所にあった方がわかりやすいかもね。まあ、クマが肉だけになってるのはびっくりだろうけど」

「そうだね……」


たしかに自分たちが倒したのはクマであるはずなのに、人間が来るからと一度退避して戻ってみたら、本体はなく、熊肉が残されているなど普通ではありえない。

皮などを引き裂きながら肉を食べなくて済むのだから、彼らも楽にそれらを口にできるだろうけれど、普通に考えて見えないところで見ず知らずの人がそのような処理をした食べ物など、何をされているかわからないから怖くて手を付けられない。

今回に関してはグレイが付いていてくれるから大丈夫だろうけど、ニコルに言われたことを自分の身に起こったことに置き換えたらなんだか気味が悪いとセルビアは思った。



複雑な表情を浮かべているセルビアに、ニコルが言った。


「あ、そうだ。今日はテントの食事にも熊肉を使うってマダムが準備してたよ!たぶんスープの中に入れるんだと思う」


テントの中でマダムが取り分けている様子を見ていたので間違いないとニコルが付け加えると、セルビアは先ほどまで積まれていた肉の塊と、クマという動物を思い浮かべながら眉をひそめた。

知識として食べる人がいることは聞いている。

でもセルビアが街に行く際に通る森でもクマが出るという話はなかったし、旅人が多く泊まる宿屋に長く滞在していたにもかかわらず、宿の料理で出てきたことはなかった。

そしてここまでの旅で、いろんな町の屋台を見て回ったけれど、それらしいものを食べた記憶はないし、もちろん、マダムがそれを出していたら説明があっただろうから、その覚えがないということは出ていないということだ。


「そうなんだ。私熊肉って食べたことないよ」


そんなセルビアの言葉にニコルが同意する。


「私もないなぁ。ちゃんと処理しないとすごく臭くて食べられないって聞いたことがあるから、外食でも選ばないんだよね」


ニコルは何度か外食のメニューに見つけたことがあると言う。

けれど、それよりも魅力的なメニューがあればそちらを頼んだし、興味本位で頼んでみようとした際、味を説明されてからは、自ら進んで食べたいと特に思わなくなってしまったため、すっかり食わず嫌いになっているのだという。


「たしかに、外で食べるならおいしいものを食べたいもんね。もし頼んでおいしくなかったら残念な気持ちになるし」


その土地でしか食べられない貴重なものなら、味やにおいが独特と言われても挑戦したかもしれないけれど、比較的手に入れようと思えば手に入るものであることに加えて、癖が強い、他のものがおすすめと店側に言われてしまったら、セルビアでもそちらを優先的に選んだだろう。

どうせなら変なものよりおいしいと勧められたものを食べたい。

同じように旅をする経験をしているセルビアにも、ニコルがそうした理由は理解できた。


「そうそう。でもここならマダムがちゃんとやってくれるから、普通に食べられると思うんだ。だからちょっと楽しみ」


マダムが食べられると判断して団員の食卓に並べるということは、食べられる料理になるということだ。

本来の癖の強い部分が完全になくなるわけではないだろうが、食べやすいように下処理や味付けについても考えてくれるだろうし、調理方法をすでに知っているから、調べる必要もないため、すでに調理に取り掛かっているのだ。

誰もが自分たち、というか、グレイたちがクマを狩ってしまうとは思わなかったし、このような形で肉を手に入れる機会は少ないものの、団員は動物に関する知識は豊富だし、当然さばき方だけではなく食べ方もある程度理解している。

ちなみにサーカスにいて、動物を捌けるだけの力がついたら誰もが教えられることなのだが、まだ、ニコルたちはそこに達していないと判断されている。

即戦力として働いているものの、二人はまだ子供で、解体できるだけの力も、動物に刃を入れることに対する精神も未熟だからだ。

そんなこととは知らない二人は、これから出てくる料理に心を躍らせている。



「私もグレイが食べているのと同じお肉を食べられるのが楽しみだよ」


セルビアがそう言うと、ニコルは笑った。


「確かにそうだね。さすがに生肉ではないけど、同じクマの肉だもんね」

「うん」


基本的にグレイは犬のエサを食べてセルビアは食堂で別のご飯を食べている。

今回も違うと言えば違うけれど、元は同じ動物の肉だ。

グレイは生肉を食べているけれど、こちらは火を通したものを食べる。

普段は宿でもテントでも各々に合った食事をとっているため、食事内容も別で、時々セルビアが自分のパンやミルクを分けることはあるけれど、一緒のものを食べるのはそのくらいだ。

だから珍しく同じ材料で作られたものを、ほぼ同じタイミングで食べることができて嬉しい。

そんなセルビア言葉にニコルはただ微笑むのだった。

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