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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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クマという餌

家の入口で団長を待たせ、工具を取るため自身の家の中に入った羊飼いは、数分もしないうちにすぐに出てきた。

もちろん手には解体用の工具がある。

それを確認すると団長は、解体する獲物の場所まで案内すると、彼を伴い森に向かって歩き出した。


「これは……」


彼は見せられたクマに思わず言葉を失った。


「見ての通りクマだ。それで、こいつをとりあえず解体したいんだが力を貸してもらえるか」


団長が淡々と答えると、彼は冷静になったのか、クマの観察を始めた。

とりあえず皮をはがなければと刃物を取り出し、作業にかかろうと皮を見る。

そこにはかなりの噛み跡があり、土の上のあちらこちらに血を吸っただめか黒ずんだ色が見える。

そのためこのクマは他の動物に嚙まれたことによる失血死だと判断された。


「ずいぶんと噛み跡がついているな。オオカミとやりあったってことだな。こんなのに羊小屋やられたら全滅だったな。じゃあ、解体を始めるか」


羊飼いは大きなクマを目の前に、自分の羊が無事だったことに安堵しため息をつきながら言う。

クマの息がないことを確認した二人は、道具を手に、解体をしながら話を続けた。


「ああ、そのオオカミが小屋とテントを守ってくれたおかげでこうなったんだ」


皮をはぎながら答える団長の言葉で羊飼いは手を止めた。

オオカミのおかげということは、テントの中にオオカミがいるということであり、テントの中にいる動物に一頭だけそうではないかと疑っている動物がいたのを思い出す。


「やっぱりあいつはオオカミだったのか」


疑念が確信に変わったことで思わずそう言うと、団長は苦笑いを浮かべる。


「やっぱり気づいてたか」


動物を扱う立場だ、気が付かれても仕方がないと思っていた。

けれどグレイが小屋の動物などを襲わないことは一緒に生活していてわかっていたし、羊飼いを不安にさせないよう、セルビアが犬だと思っている様子だったので、あえて彼に誤認されてもいいと放置した。

その方がお互いの精神衛生上よいだろうと考えたからだ。


「いや、確証はなかった。人に懐く動物じゃないのにおとなしく一緒に行動していたからな。普通のオオカミはそんな風にはならないだろうという気持ちもあったんだ」


飼い主は犬扱いしているし、オオカミの振る舞いもそれに似たものだった。

だからオオカミっぽい犬と考えることにしたのだと羊飼いはいう。

そして、グレイについての考察を述べながらクマを見て、さらに気が付いたことを言う。


「なあ、これを狩ったオオカミは群れじゃないのか?そいつらは……」


噛痕が多いのはともかく、その痕のいくつかは見るからに同一ではない。

そうなるとオオカミは複数いたことになる。

夜中に聞こえた声も複数のように思えるので、間違いないだろう。

そうなるとテントにいる一頭はともかく、他のオオカミが潜んでいる可能性も考えなければならない。

羊飼いの顔が急に険しいものになる。

それを見た団長は大きくため息をついて見せた。


「この辺にはいないだろうな。だが彼らにも礼は必要だ。とりあえず皮を剥いで、肉を取り分けようと思っている。その肉の一部をお礼にすればいいだろう」


お礼に食べるものを置いていけば羊にも手を出すことはないだろう。

団長がそのための肉を分けてほしいと言うと、それは構わないがと切り出した羊飼いが続ける。


「そううまくいくのか?ここで解体して、オオカミが戻ってきたらこっちも餌になりかねない」


別に肉を分けるくらい構わない。

けれどここで解体中にオオカミに襲われる可能性がある。

もしそうなれば彼らは自分たちも餌食にされる。

彼らからすればクマという餌で人間という追加の肉が釣れたようなものだ。

食い散らかしても満腹になれるくらい豪華な食事だろう。

自分たちが彼らにとっておいしい肉であるかは不明だが、量と選択肢が増えるのは間違いない。

それに自分がいなくなれば羊だって狩り放題だ。

悪い方に考えが向くにつれ、より警戒が高まる。

けれどグレイを知っている団長はそんなことにはならないだろうと平然としていた。


「おそらく問題ない。きちんと礼を尽くせばな」


今やっていることは、グレイたちが狩った獲物をこちらが横取りしているに等しい。

当然他の動物にだって狙われるのだから、普通ならここに餌を残したまま彼らが去ることはない。

彼らが喰らい始めていたらもっと汚れた状態で発見されているはずだ。

そうなっていないのもグレイが制しているからだと団長は考えているのだが、羊飼いは警戒したまま言う。


「まあいい。話している間に処理しちまった方がいいしな」

「それはその通りだ」


仮にオオカミが戻ってこなかったとしても、血の匂いで他の動物を寄せ付ける可能性がある。

場合によっては別の群れのオオカミが来る可能性もあり、もしそうなったら、彼のグレイへの不信感が増してしまうだろう。

そもそもそんなことになったら自分たちの身だって危険だ。

二人はそう言って急いで手を動かした。



「団長、私たちも手伝います。できることはありますか?」


二人が無言でせっせと刃を入れているところに大人の団員たちがやってきた。


「ああ。じゃあ、分けたやつを一度テントに運んでくれるか。後で分けるから」

「わかりました」


大人の団員たちはさばいている二人の邪魔をしないよう、そばに置かれた肉や毛皮を手際よく運んでいく。

そしてテントの一番広い、普段皆が集まる空間にそれらは置かれることになった。

解体したものが次々と運び込まれて、量が増えていく。

しかしセルビアとニコルはそれを黙って見ていることしかできない。

ちなみにそばにいるグレイたちはそれらの肉を見てもおとなしくしていて、伏せているグレイの上にハリィとウサギが乗っかって、大人たちか肉かはわからないけれどその動きを首を動かしながら見ている。

グレイもこれが食べていいものではないときちんと理解しているので手を出すことはしない。

本当に賢いなぁとセルビアはグレイを見ながら思う。

最初はそんな余裕もあったが、大人たちの往復が終わらない。

何度も腕に抱えて肉の塊を積み上げていくし、剥がれた皮は重たいのか二人が狩りで運んできていた。

そしてその大きさに思わずニコルが言った。


「あの大きさのクマがこっちに来ようとしてたんだね」

「そうだね」


折りたたまれている状態で大人二人が運ぶ重さだ。

広げたらさぞ大きいものに違いない。

でもそれは、それだけ大きいものがこのテントを襲って来ようとしていたということに他ならない。

ニコルもセルビアも忙しそうにする大人を見ながら寒気を覚える。


「私たちだけだったら、どうなってたかわからないね」

「うん」

「グレイがいてくれてよかった。ありがとう」


ニコルはいなくなったクマに再び脅威を感じながら、お礼の気持ちを込めてグレイを撫でた。

グレイは気持ちがいいのか目を細める。

そんなグレイの背中を二匹が我関せずと言わんばかりに動き回るのだった。

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