真夜中の襲撃
そうしてテントにいる大人たちも床に就き、当たりが静かになった真夜中。
気配に敏感な動物たちに異変が起きた。
近くに人のいないトラは織の中を落ち着かない様子でそわそわしていたし、いつもなら大きいな声を出すサルのキキも息を殺すようにしながら様子をうかがっている。
そしてハリィとウサギは身を寄せ合ってじっとしている。
他の動物たちも繋がれているのが大半なので逃げることができないことを理解している。
そして非常事態なのに人間はいい気なもので、気配に気付いていないのか、深い眠りについていた。
このまま通り過ぎてくれればいいと、動物一同は思っていたが、気配から察するに、どうやらそれはテントに向かってきているようだ。
そんな中、先んじて動いたのは夜行性のグレイだった。
明らかに森から敵対するものがテントに向かっている。
それを理解したグレイは静かに、そして素早くテントから抜け出すと、一目散に牧草地を抜け森に向かう。
そして森の近くで遠吠えをした。
遠吠えの声が通ると、周囲から仲間の声が返ってくる。
グレイが周囲に敵のことを知らせたため、今まで隠れていた仲間たちが集まってきた。
そしてグレイと仲間たちは集団で敵に攻撃を開始したのだった。
さすがに何度も遠吠えが聞こえてきたことで、人間も目を覚ました。
牧草地を間借りしている団員も、この場所を貸してくれている羊飼いも起きて、それぞれ警戒を強めている。
普段は寝つきがよく朝までぐっすりのセルビアですら、外からの遠吠えに目を覚ました。
「セルビアちゃん、大丈夫?」
心配して部屋に来たニコルに、セルビアは体を起こした状態で答える。
「うん。私は大丈夫……」
テントに長くいるけれどこんなことは初めてだ。
集落の場合大人たちが守ってくれていたので、知らぬ間に処理されていただけかもしれないが、常に警戒を必要とする集落でもこんなことはなかった。
セルビアがテントの内外の張り詰めた空気を感じて、周囲を見回していると、ニコルが言った。
「ああ、ハリィとウサギさん、すっかりおびえちゃってるね。仕方ないか」
見れば枕元近くで寝ていたハリネズミとウサギは、鳴き声を上げることもできないまま体を寄せ合って震えている。
不安そうにあたりを見回しているので、きっと身を隠したいのだろう。
そう感じたセルビアが、これまで自分の使っていた布団を彼らの上に乗せる。
「とりあえず布団かけといたら落ち着くかな?それよりグレイがいないんだけど……」
グレイの姿が見当たらないことに気が付いたセルビアが、ニコルに言うと、ニコルは気まずそうに言った。
「グレイ……多分外だね」
「えっ?」
この状況でグレイが外にいると聞いて、セルビアが勢いよく外に飛び出そうとする。
ニコルは慌ててセルビアの服の裾を掴んでどうにかそれを阻止すると言った。
「セルビアちゃん、今出ていっちゃだめだよ!」
「でもグレイが!」
珍しくパニックになっているセルビアをニコルがなだめる。
「たぶん大丈夫だから。それに今出ていったら、かえって邪魔になっちゃうかもしれないし」
「どういうこと?」
グレイの身が心配なセルビアがすがるようにニコルを見ると、ニコルがセルビアの背中から肩に手を回す。
「とりあえずみんなのところに行こう。大人たちはこういう時のために銃を持ってるし、集まってる方が安全だから。あと、私より団長たちの方が説明できると思う」
「わかった」
とりあえずセルビアとニコルは、ハリィとウサギをそのままに、皆の集まる場所へと出て行った。
すると皆がすでに起きていて、食事の時と同じ場所にすでに待機していた。
けれどそこにあるのは食事を待つ姿の団員ではなく、銃や弓を磨いて戦いに備えている団員の姿だった。
「みんな……」
あまりにも違う様子にセルビアが困惑して立ち止まると、マダムが声をかけた。
「二人とも大丈夫かい?」
「マダム……。グレイが……」
明らかに動揺した姿を見せるセルビアに、マダムが答える。
「ああ、あの子なら外だろうさ」
「どうしよう、グレイ……」
テントから出ていないためセルビアは外の様子を確認できていない。
ここにいないのだから外と言われたらそうなのだろうが、この非常時に戻ってこない理由がわからない。
グレイがそばにいない不安もあるが、それ以上にグレイに何かあったのではないかと心配で仕方がないのだ。
セルビアの様子からその心情を察したのか、マダムは穏やかな口調で言った。
「大丈夫さね。グレイは強い子だから心配ない。こっちきなさいな」
その言葉に引きずられるように、セルビアがマダムのところにふらふらと歩み寄る。
ニコルはそれを心配して後ろからついてくる。
「ニコルもここにいるんだよ」
「うん。もちろんだよ」
マダムは二人の子供を自分の両脇に座らせると、片方ずつしっかりと腕の中に抱え込んだ。
マダムに肩をトントンと叩かれ、落ち着きを取り戻したセルビアは、呼吸を整えると口を開いた。
「団長、外で何が起きてるんですか?」
「暗くてよくわからないが、森で動物が争ってる。おそらく人間を狙った動物がこちらに向かってきたのを、グレイたちが阻止してるんだろう」
セルビアが団長に尋ねると、団長も暗くて詳細はわからないという。
けれどここで自分たちが出て行くのは悪手だし、興味本位で近づくべきではないため、警戒しながらも距離を置いている。
それが現状だと伝えると、セルビアは首を傾げた。
「グレイが?えっと、グレイたちって……」
グレイがここを守るため最前線にいることだけではなく、そんなグレイに協力してくれる仲間がいるらしいことにもセルビアは驚く。
少なくともセルビアはグレイの仲間を見たことがない。
森で自分についてきた時から、グレイは一頭だった。
逆に仲間がいたら、最初の段階でグレイは森に放置していたに違いない。
いないからこそ飼っていたのだ。
団長の言葉を聞いて、セルビアは、もしかしたら最初に仲間がいなかったのは偶然で、本当は仲間がいたのに自分が連れて行ってしまったばっかりに、グレイと仲間を引き裂いてしまったのかもしれない。
確かに森から勝手についてきたのはグレイだけど、もう少し注意深く確認しておけばちがったのかもしれない。
セルビアは少し罪悪感を覚えたのだった。




