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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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草原の夜

とりあえずハリネズミのハリィがサーカスのメンバーとして新たに加わったが、特に大きな変化はなく、サーカスは旅回りを続けることになった。

これまではどうにか一日で次の街まで移動できていたが、次に向かうところは距離があり、この大所帯だと一日で移動が難しいということで、初めて森の近くの牧場のお世話になることが決まった。

当然この人数と動物たちなので、牧場主の家でお世話になるわけにはいかない。

そこで、サーカス団一行は牧場主の家の近くに広がる放牧用の草原の一角を借り、そこにテントを立てさせてもらうことになった。

大人がテントを立てている間に、女性や子供は生活用品だけを馬車から降ろす作業をする。

グレイは少し離れた草の上で体を丸めて日向ぼっこをしているし、ハリィはそんなグレイの体によじ登ったり草の上を転がったりして楽しんでいる。

セルビアはそんな様子を眺めつつ、ニコルと降ろされた荷物をテントの近くまで運びながら話し始めた。


「草原に泊まるなんて初めてだよ。これも野宿っていうのかな?」


セルビアが言うと、ニコルは笑いながらそれに答えた。


「これが野宿だったら、街の中でもテントにいるのは全部野宿になっちゃうんじゃないかな。宿を使ってないから」

「確かにそうだね」


今はまだ昼なので外は明るい。

草も茂っていて緑がきれいだし、奥には森も見えていて、とても落ち着く光景だ。

けれど先のことを考えたのかニコルは不安そうに口にする。


「ただ、街の中と違って真っ暗になりそうだね……」


ちょっと怖いかもと続ける前に、セルビアが言った。


「そうだね。その分、星がたくさん見られるかも」

「星?」


セルビアも怖いと同意してくれると思っていたところに、想定外の答えが返ってきたこともあり、ニコルは驚いて反射的に聞き返す。


「うん。私、町じゃなくて集落の出身でしょう?夜は門とか外壁の周辺以外、街みたいに明るくなかったから、たくさん星が見えてたんだよ」


セルビアが街ではないところから来たことは聞いていた。

草原ではなかったかもしれないが、もともと明かりの少ないところにいたのなら、確かにその恐怖は薄いだろう。

そして暗い夜に何があるのかを、セルビアは知っているのだ。


「そっか。そんなこと考えたことなかったなぁ」


暗いから怖い、テントから出ないようにしようとしか考えてなかったニコルには到底できない発想だ。

ニコルが思わず感心していると、セルビアが言った。


「夜ご飯を食べたら出てみよう。たぶんテントから顔を出しただけでいつもよりたくさんの星が見られると思う」


別に無理に外を歩く必要はない。

ただテントから顔を出すだけでいいというのなら、自分にもできるだろう。

それにセルビアが一緒ならきっと大丈夫だ。


「うん。楽しみ!」


ニコルはそう答えると足取り軽く動き始める。



そして荷物運びが終わって夕食を待つ間、少しテントに近づいたところに転がっているグレイとハリィを見つけたニコルが言った。


「ハリィとグレイはすっかり仲良しだね」

「わうわっ!」

「ぴー」


ニコルの言葉にグレイとハリィが答えると、セルビアが思わず苦笑いした。


「返事までそろってるよ……」


あきれたように言うセルビアにニコルが笑う。


「いいことじゃない」

「そうだけど……」


なんとなく腑に落ちないとセルビアが複雑な表情をすると、ニコルがセルビアを突っついた。


「セルビアちゃん、やきもち焼いてるの?」


からかい半分でニコルが聞くと、セルビアは首を傾げなら真面目に答える。


「そういうんじゃないんだ。なんかハリィはずっと前からここにいたんじゃないかってくらい馴染んでて、違和感を持たない自分が変なんじゃないかなって思っちゃって」


グレイより付き合いの短いハリィはすっかりここに馴染んでいるし、テントの中で一緒に寝ていても違和感がない。

自分は来た当初とても緊張していたのに、ハリィはそうではないのだろうか。

そんなことを思いながらハリィを見つめるセルビアに、ニコルは言った。


「早くなじむのは悪いことじゃないと思うけどね。ただ、もしやきもちなら、セルビアちゃんには私がいるよって言おうと思ったんだ」


グレイを取られて寂しいと思っているのなら、それは違うし、セルビアにはニコルという友がいるではないかと言おうとしていたのだが、その必要はなさそうだと少し残念そうだ。

そんなニコルにセルビアは笑顔で答える。


「うん。ニコルちゃんのことはいつも頼りにしてる」

「そう……?改めて言われると照れるね。とりあえず移動しようか」

「うん!」


励ますつもりが逆に励まされてしまった。

ニコルはちょっと恥ずかしくなってそれを隠すように足を速めた。

そんなニコルの後ろをセルビアはついていくのだった。



夕食を終えた二人は、念のため大人たちに声をかけてからテントの外に出た。

外に出て明かりのない森の方を見ると、暗闇にどうかした木々の上に満天の星が輝いている。


「すごい!こんなにたくさんの星、初めて見た!」


不安そうにしていたニコルだが、セルビアが外に出たのを追うようにテントから出ると、驚きの声を上げる。


「ニコルちゃんでも見たことない景色があったんだねぇ」


星空を見上げたままセルビアが言うと、ニコルは真剣な顔でセルビアの方を見た。


「あるよ!まだまだたくさんあると思う。だって世界は広いんだもん。行ってない場所があるんだから知らないものもたくさんあるはずだよ」


直前まで暗闇を怖がっていたとは思えないニコルの興奮具合に、セルビアは嬉しそうだ。


「そうだよね。とりあえずニコルちゃんが怖くなくなったみたいでよかったよ。私はいつもニコルちゃんに教えてもらってばっかりだから、ニコルちゃんは何でも知っててすごいって思ってたけど、そんなニコルちゃんでも知らないことがあるんだなってちょっとびっくりしたんだ」


自分の言葉にそこまで過剰反応されると思っていなかったとセルビアが言うと、ニコルは感動が冷めないのか、目を輝かせている。


「教えてばっかりなんてそんなことないんだけど、今日のこの景色の先生は間違いなくセルビアちゃんだよ。セルビアちゃんに言われなかったら夜に外に出て空を見上げようなんて考えなかったもん。暗くて怖いなってことしか思ってなかったから」


暗くて怖いという先入観でこんな素晴らしいものから目をそらしていたのかと愕然とするニコルに、セルビアは言った。


「遠くに行くなら怖いけど、ここなら怖くないでしょ?テントに皆がいるんだし」


まだ大人たちが起きている時間のため、テントからはかすかに話声が聞こえてくる。

それも二人の安心材料だ。


「そうだね。またこういう場所に泊まることになったら、空を見上げてみようと思う。なんかずっと見ていられる気がするよ」


多くの星々を見ていると吸い込まれそうだ。

それに同じものを見ているはずなのに見飽きることがない。

何より心が穏やかになる。

ニコルが言うと、セルビアはうなずいた。


「そうなんだよね。嫌なことがあってもこうして星空を見上げてたら、少し気持ちが落ち着くから、集落ではいつもそうしてたんだ」


集落の話が出て、ニコルは嫌なことを思い出させたのではないかと不安になった。

確かセルビアには友達と呼べる人がそこにはいなかったと言っていた。

きっとそこであった嫌なことというのは人間関係のことだろう。

だからそれとなくニコルはセルビアを励まそうと言葉を選んで伝えた。


「そっか。でも今は一緒に見られて私は嬉しいと思ってるからね」

「うん。私も、ニコルちゃんと一緒で嬉しい」


ニコルが気にするほどセルビアは集落のことを気にしていない。

しかしニコルが気を使ってくれたことは理解している。

だからニコルの方を見てセルビアは素直な感想を述べた。

思わず二人は顔を見合わせると、何も問題なさそうだと互いに判断し、また星空を見上げるのだった。

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