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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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命名ハリィ

親元から離れた遠い旅先でいきなり捨て置かれることはないだろうが、ハリネズミの件はそれを検討されかねない事案だとセルビアが不安に思っていると、団長はそれを否定した。


「前にも言った通り、うちは動物がたくさん所だからね。さすがにあまりに大きい動物とかだったらうちの子が怖がって困るけど、あの子たちは小さいし、勝手に他の動物のごはんを食べたりしないでくれるなら構わないよ」


ハリネズミがここに来たのは自分へのあいさつのつもりなのだろう。

だからグレイと並んでおとなしくしている。

そう解釈した団長がそれとなく許可を出すと、セルビアは困惑しながら言った。


「グレイもですけど、サーカスの役には立ってないですよね。他の動物のように芸をしているわけじゃないし……」


ハリネズミを連れていくことになれば、グレイと行動させてもらっているだけでも申し訳ないのに、そこにさらに自分の連れを増やすことになる。

しかもグレイもハリネズミもサーカスの動物のように団に協力できるわけではない。

グレイの場合はここに来る前から自分の番犬的役割をしていたから許容してもらえたけれど、ここで新参者を迎えるのは、サーカスの家族として扱われていて、ショーに貢献している動物たちにも申し訳ない。

セルビアがそう言うと、団長は問題ないという。


「でも餌代はセルビアちゃんの給料できちんと払っているだろう。ハリネズミはそんなに危険な動物でもないし、気にすることはないさ。うちの子たちと仲良くしてくれるんなら、むしろ歓迎だ。セルビアちゃんが辞めなければなんて思い詰めるほどのことではないから、気にせずこれからも働いてくれるかな」


事情は過去に聞いている。

そういうことがあっても対処すると約束して同行してもらっているし、まだその段階ではない。

それにサーカスは時々人間の同行者だって増える。

それよりはるかに小さく問題を起こさない小動物が一匹増えるくらい何も問題はない。

団長の温かい言葉にセルビアは涙が出そうになる。


「はい。ありがとうございます。グレイが見張っててくれたらいいんだけどなぁ」


とりあえずハリネズミがついていく許可は得た。

自分が面倒を見るのはいいけれど、迷惑だけはかけないでほしい。

そう思いながら、宿に現れた当初からハリネズミに肩入れしていたグレイをじっとりとした目で見ると、団長は笑いながら言った。


「そうだなぁ。頼んだら見ててくれるかもしれないな」

「そうですね。グレイ、大丈夫?」


団長に言われたセルビアがとりあえずグレイに言うと、彼らは元気よく返事をした。


「わぅわぅ!」

「ぴぴっ!」


彼らが揃って返事をしたので、団長はそれを見て目を細める。


「じゃあ、ついてきてもいいから、いい子にしていておくれよ。これまで通り売店近くにいていいから」


団長の言葉に驚いたのはセルビアだ。


「知ってたんですか?」

「もちろんだよ」


気づいていないから何も言わないのかと思っていたがそうではなかった。

団長は気が付いていながら何も言わないでいてくれたのだ。

もしかしたらニコルもそうなのかもしれない。

セルビアは改めて団長に謝罪した。


「黙っててすみませんでした」


セルビアが深々と頭を下げると、団長は頭を上げるよう言った。


「言い出しにくかったのだろうし、ハリネズミとはここでお別れのつもりだったんだろう?気にすることはないよ。それにこの子にとっては脅威になる子の方がうちには多いのに、わざわざ通ってこられるくらい度胸のある子だし、この子がここに通っている間、うちの動物たちに特に変化はなかった。問題があれば騒ぐ子が出てきただろうからね。この子は大丈夫だって、彼らも同じように判断したってことだ」


ここに残るとか受け入れるとか、そんなことは考えていなかったが、このハリネズミがここに来ることは問題ないと、団長は動物たちの勘を信じて黙認していた。

結果、ハリネズミはここに通い詰めていたし、セルビアは気づかれていないと思っていたようだが、他の団員もハリネズミの存在には早い段階で気が付いていたのだ。

だからこれから一緒に行動すると伝えても拒否されることはないだろう。

けれどそれを言うとセルビアが恐縮しかねないので、あえて伝えず、団長は続けた。


「そうだな。このハリネズミはこれから一緒についてくるんだろう?名前はあるのかい?」

「名前ですか?」


セルビアはそもそもここで別れるつもりだったので、名前を付けること考えてもみなかった。

それにそんなことをしてしまったら愛着が強くなって離れ難くなるかもしれない。

サーカスに身を寄せている立場のセルビアとしては、勝手に同行者を増やせないのだから、どうやって置いていくか、グレイと引き離すか、そればかりを考えていたのが現実だ。

団長もそれを理解して聞いたようで、もしこれまでの呼び名があるなら程度の質問だったらしく、すぐに言い方を変えた。


「そうだよ。これからセルビアちゃんがグレイと同じように面倒を見るなら、飼い主になるセルビアちゃんが名前を付けてあげればいい。うちの一員として歓迎するよ」


グレイになついているのだから当然面倒はセルビアが見ることになる。

無理を承知で同行の許可を求めに来たのも自分なのだから、ハリネズミの飼い主も自分と言われたら当然だ。

そして少なくとも団長はハリネズミを受け入れてくれるというのだ。

団長の最後の言葉にセルビアは勇気をもらう。


「そうですね……。考えてなかったですけど……、じゃあ、ハリィ。ハリィでどうかな?」


ハリネズミだからハリィというのは安直な発想かもしれないけれど、セルビアとしてはしっくりくる。

とりあえず本人が納得するかどうかだ。

名前を付けても付けられる側が気に入らなくて反抗的な行動に出たら困る。

少なくとも呼ばれたらそれが自分であると認識してもらわなければならない。

そう考えてセルビアが名前を口にすると、いち早くハリネズミが答えた。


「ぴぴっ!」

「どうやら気に入ったようだね。これから頼むよ、ハリィ」


団長がさっそくセルビアのつけた名前でハリネズミに呼びかけると、これまで動かなかったハリネズミはトコトコと団長の足元に移動した。

そして小さな体で下から団長を見上げると、もう一度元気に鳴く。

きっとハリネズミからすればお礼のつもりなのだろう。

さすがにそれがわかったセルビアと団長は顔を見合わせて笑うのだった。

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