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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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ビーストテイマーの定義

サーカスの一団と行動を共にするようになってから、特にたくさんの動物たちが寄ってくることはなかった。

しかしセルビアに懐いている、というべきかグレイのところに遊びに来ているハリネズミだけはところかまわず現れる。

このままではサーカスに紛れてついてきてしまうかもしれない。

そこで仕方なく、セルビアは団長に彼らのことを相談することにした。

ハリネズミが来たら話がややこしくなるため、グレイたちを自分に割り当てられた部屋に置いてきたので一人で団長のもとを訪ねる。


「団長、相談があります」

「珍しいな、何かあったかい?」


団長に先を促されたセルビアは体を固くしながら真剣に言った。


「実はこの街に来てからずっとなんですけど、ハリネズミさんに懐かれてしまったみたいなんです」


セルビアが言い切ると、団長は少し目をそらして、セルビアの足元、少し後方にいるグレイの方を見ながら言った。


「なるほど。もしかしてあそこにいる子かい?」


団長の言葉に驚いて振り返ると、そこには置いてきたはずのグレイと、その横に姿の見える形で並んでいるハリネズミの姿があった。


「え、ほんとだ。こんなところまでついて来てる……」


団長から意見をもらおうと思ってせっかく勇気を振り絞って一人で来たというのに、本人たちが来てしまった。

このテントに入り込んでいる時点で本当はいけないことなので、もし団長に思うところがあってハリネズミが駆除されたりすることがあったら、寝覚めが悪い。

けれど見られてしまったのだから仕方がない。

セルビアはため息をついて言った。



「あの、なんか、前に宿のおかみさんに、びいすとていまあ、とかいう職業なのかって聞かれたんですけど、それとあの子って何か関係あったりしますか?もちろんあの子を私が呼んだわけではないんですけど……」


ハリネズミをちらちら見ながら気まずそうにセルビアが団長に尋ねると、団長は目を瞬かせた。


「ああ、ビーストテイマーか。セルビアちゃんは動物達を自分で呼んだり、命令したりできるのかい?」


もし命令ができるのなら少なくともここにハリネズミはいないはずだ。

本当の希望は家に帰って自分たちのところには来ないようにってことだったけれど、ハリネズミに家に帰るように言った結果、宿には来なくなってもテントに来るようになってしまった。

言い方が悪かったわけではないだろうし、解釈が違うというわけでもないだろうから、この子が命令を聞くとは言い難い。

それはたくさん現れるようになった動物たちも同様だ。


「いえ、そういうことはしたことがないです」


セルビアが少し考えてからそう答えると、団長は笑いながらうなずいた。


「じゃあ、ビーストテイマーではないだろうな」


ハリネズミがここにきていることがセルビアにとって不本意であることを理解していたのか、団長はそう言う。



「あの、そもそも、その、ビーストテイマーって何ですか?」


宿でも簡単な説明を受けたが、どうもセルビアにはしっくり来ていなかった。

ただ確認する機会を逸したので、そのような名前の職業があるという理解にとどめていたが団長は詳しそうだし、知っておいた方がいいかもしれないと口を開いた。


「ビーストテイマーっていうのは、動物とか虫とか、そういった生き物を使役することができる能力を持っている人のことだよ。かなり珍しくて貴重な能力だけど、同業の団長なんかで持ってるのはたまに見るな。能力を使って活動するなら、動物と触れ合う仕事をする方がいいから、こういった仕事がもってこいなんだ。ただ、能力で動物に強制的に行動させることができるらしいから、動物を大事に扱ってくれる人がその能力を活用してくれるのならいいんだが、そうじゃないと、危険だな。ただ、能力の差というのもあるらしくて、動物もずっとその命令を聞かなきゃいけないかというと、ほとんどの使い手が一時的にそうさせるのが手一杯らしい。だから動物が好きならこの能力を活かした仕事をするし、嫌いならなかったことにしたり、避けるためだけに使ったりするそうだ。知ってるのはこのくらいなんだが、こんな説明じゃあ、理解するのは難しいよなぁ」


実際にビーストテイマーには会ったことがない。

だから本当にできることというのは不明だし話に聞いた程度だ。

一般的な定義は今話した通りだが、皆が同じようなことができるのか、それが広義を指した職業なのかは人によって解釈が異なる。

詳しく説明できないと言いながら、知っていることを伝えると、少し具体的なイメージを掴めたのかセルビアはうなずいた。


「いえ、大丈夫です。どんなものかはわかりました。でも私はそういうのないんですよね。ただ寄り付かれるだけなんですよ。本当に言うことを聞いてくれるのなら、来たら困るって言ったら、あの子だって姿を隠してくれると思いますし」

「そりゃあそうだな」


見つかる前に相談しようとしてわざわざグレイまでおいて一人で来たのに、自分が話をする前にハリネズミがここに姿を現したことはセルビアの反応で明らかだ。

団長がそちらに目をやると、グレイもハリネズミもその場から動くことなく事の成り行きを見守っている。

団長がどうしたものかと考えていると、セルビアが言った。


「団長もそれを使ってるんですか?」


サーカスの動物たちは皆いい子だ。

団長はいい人だし、動物たちも家族として大事にしているけれど、団長がその能力を活かしてこのサーカスの活動を維持しているのではないかとセルビアが疑問を口にすると、団長は即座に否定した。


「いや、使ってないよ。そもそもそんな能力は持っていないしね。動物たちとは人間と同じように良い関係を築くよう努力して、彼らに認めてもらって、それで手伝ってもらっているんだよ」


動物と言葉を交わすのは難しい。

けれど一緒にいればそれなりの意思疎通はできるようになる。

すべてを理解してあげられないからトラが脱走するような事件を起こすことになってしまった。

あくまで手伝ってもらっているだけ。

そういう意味ではセルビアとグレイの関係に近いものだと団長が言う。


「あの、もしあの子みたいに他の子とかがまたついてくるようになっちゃったら、私、辞めなきゃいけないですか?」


セルビアがハリネズミの方を見てそう言うと団長は穏やかな口調で理由を尋ねた。


「どうしてだい?」

「だって……」


ハリネズミが来るようになったことがきっかけでまた動物たちが自分たちのところに集まるようになったら、サーカスに迷惑が掛かってしまう。

皆は事情を知って大丈夫だと言ってくれたけど、集落だって宿だって追い出されてしまった。

今度はここを失うかもしれない。

セルビアは覚悟を決めて団長の判断を待つのだった。

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