寄合紛糾
それからというもの、動物たちの訪問は毎日続いた。
動物の種類は変われども、基本的にはセルビアの家の木の周辺に寄りついている。
セルビアは毎日来る動物たちを可愛いなと思いながら見ているが、動物たちもセルビアの様子を見ているだけなのか、グレイが牽制しているからなのか分からないが、今のところセルビアをおそってきたりする様子はない。
グレイが吠えたら窓の外を見たり、庭に出たりして、その動物たちと対面するのは、もはやセルビアの日課となりつつあった。
そして変化はもう一つ。
「そういえば、グレイは随分と大きくなったよねぇ」
「わぅわぅ!」
大きくなってもグレイは変わらずセルビアの横に立って体をすりつけてくる。
体が大きくなったので、顔の位置が足首から膝くらいの高さになっている。
それでも全身の薄灰色の毛は柔らかく、体にくっつくふわふわの接触部分が増えている。
なので不快感はなく、むしろ心地よいくらいだ。
そうしてセルビアとグレイは仲良くのんびりとした日々を過ごしていた。
一方、セルビアとグレイが集落で過ごすようになって数ヶ月が経つ頃、ついに動物の件が集落の問題として寄り合いで取り上げられることとなった。
「最近、この集落に、多くの動物が寄り付いている」
議長がそう切り出すと、非難の声が上がる。
「こいつがセルビアを一人で集落の外に出したからだろう」
当然その声はセルビアの父親に向けられたものだ。
そしてそうなることは想定済み、だからこそ事前に子どもたちの事、グレイの事を伝えたのだ。
「だから事前に買い物の件も犬の件も伝えておいただろう」
そう反論するが、彼らは自分たちの事を棚にあげて責任を押し付けようと躍起になる。
「昔、あんなことがあったんだ。それをわかってて一人で街に行かせた責任は大きいんじゃないのか?」
自分の子どもは自由にさせておいてセルビアにだけ制約を掛け続ける。
それを当たり前として言葉にする男に腹を立て、それを抑えずに反論した。
「それを知っていながら、子どもたちに嫌味を言わせ続けたお前たちに責任はないとでも言うのか!被害者はセルビアの方だ!おまえらの子どもが散々セルビアに嫌がらせをしていたのは知っている。今までは集落の事を考えて、仕方ないと思って黙ってやってただけだ。人の家の事を言う前に自分の子どもの躾をするのが先じゃないか?」
「なんだと!」
言われた男が掴みかかろうとすると、さすがに周囲が止めに入った。
彼の言う通り、セルビアの一件は何度も訴えられてきたことだ。
それに対処もせず、子どもたちのやることだからと黙認したのは事実で、それを持ち出されると刺さるものがある。
確かに彼からは事前に報告も上がっていたし、そろそろ良いのではないかとやんわり許可を出したのも自分たちだ。
本当にダメだと判断したのなら、報告があった時、全力で止めていなければならなかった。
そういった経緯を考えると、さすがに分が悪い。
「お前らはセルビアを集落から出すなと言って閉じ込めておきながら、子どもには出してもらえない無能と罵らせていたじゃないか!それにこの件は偶然の可能性がある。何でも都合の悪いことが起きたからって何でもこっちに押し付けるな!」
そもそも、セルビアを外に出さないようにすべきだというのは集落の総意だった。
セルビアが何も言わないうちは、小さいうちはその方が安全だし、それを理由に失職したら一家が路頭に迷ってしまう。
だからそれに従ったのだ。 それなのに、そんなことを忘れて、棚に上げて、いいだけセルビアを貶めてきた人間から、こちらが一方的に責められるのはおかしい。
本人にはどうすることもできない、生まれ持ってしまったもののために苦労を強いられているセルビアだけれど、セルビアは何も悪いことはしていないのだ。
「まあ、少し冷静になれ。ただ、タイミングとしてはセルビアが集落から出てから増えたのは事実だ。今のところ小動物が多いが、その小動物を追って大型の動物が現れないとも限らない。我々の任は森の先にある国境を見張ることだが、こちらに動物が来るようになれば、国境に背を向けて警備をせねばならなくなる。そうなれば人員を増やさなければならなくなるのだ」
議長が淡々と事実を述べると、その冷たさにますますセルビアの父親の怒りは増す。
「だから、それがうちのせいだと?全ての責任をセルビアに取らせろと?随分と無責任だな!」
前はすぐに収まった。
しばらくすると動物たちが近寄らなくなったのだ。
しかし今回はそれより長い。
これからもずっと続くのではないかと彼らは懸念しているのだ。
「それなら一時、セルビアを別のところで生活させればいいのではないか?それで襲来が止まったら原因はセルビアと特定する。それでどうだ」
議長話を逸らせるためにと新たな提案をした。
父親も提案の意図は理解できる。
しかし一方的に問題があるのはセルビアであると決めつけられ、罪をなすりつけられようとしていることに変わりはない。
確かにセルビアにはそういう体質があると、一緒に生活している自分もそう感じているが、だからといって全ての動物がセルビアに寄りつくわけではない。
ただ一度、森へと出かけたセルビアがたくさんの動物を引き連れる状況が起きただけだ。
それが今回、グレイはともかく、外に出て以降、家に動物が来る状況になってしまっている。
原因がセルビアなのかグレイなのかは分からないが、過去の事を考えると、セルビアと結び付けられてしまうのは避けられなかった。
「それだって偶然の可能性はあるだろう。勝手に特定するな。結局お前たちは何もしないってことじゃないか。本当にはっきりさせたいなら、上に調査を依頼する!今までのこちらに対する不当な扱いについてもだ!」
こちらに不利益ばかりを押しつけて、それで解決したことにする。
ここにいる大多数はそれでいいだろう。
一方的に不利益を押し付けられる方はたまったものではない。
仮にその不利益をこちらに強いるのなら、そちらも同等の不利益を被るべきだ。
これまでもそういうことはされてきた。
セルビアには申し訳なかったが、大人しくしていれば平和に暮らせるはずだと信じたからこそ我慢させてきたのだ。
それを彼らは壊そうとしている。
こうなった以上、その責任を追及してもいいだろう。
セルビアの父親はそう心に決めると、一人、彼らに対峙する姿勢を見せるのだった。