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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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団員の権利

そうして宿の利用なども経験し、再びテント生活に戻ったセルビアだったが、旅を続けていくうちに再びその機会を迎えることになった。

前の宿の時のように、動物が一緒に滞在できるところだから、希望を出してみたらどうかと、ニコルが提案したのだ。


「結局あの一回しかまだ宿を使ってないでしょう?皆も今回の宿はセルビアちゃんに一部屋使ってもらった方がいいじゃないかって」


今回の宿の情報が伝わると、ニコルだけではなく他の団員からも同じ意見が上がったという。

セルビアは皆が自分を気にかけてくれたことに感謝しながら、お言葉に甘えるとニコルに伝えた。


「じゃあ、マダムに言っといてね。皆には私から伝えるね。他にもいくつか部屋があるはずだから、これからそこを誰が使うか決めなきゃ」


伝えることは伝え終わったとニコルが立ち去ろうとしたため、セルビアは慌てて引き留めた。


「今回、ニコルちゃんは一緒じゃないの?」


セルビアが尋ねると、ニコルは首を傾げた。


「あー、わかんないな。今回の宿は二人部屋じゃないみたいだから、団員皆で決めることになると思う。でも私この間も宿使っちゃったから、他の人に譲ることになる可能性が高いかな」

「そうなんだ」


確かにこの前の街でニコルは宿を利用していた。

さすがに二回連続は特殊な事情がない限り希望しにくい。

さすがのセルビアもそこは理解できた。

おそらく一緒に慣れないだろうとがっかりしているセルビアをみたニコルは、セルビアが一人で宿に入ることを不安に思っているのだと感じたのか、励ましの言葉をかけた。


「セルビアちゃんなら大丈夫だよ。どうしても心配なら宿泊決まった団員と一緒に、ここから移動してもいいと思うけど」


前はニコルと一緒に早い時間に出て、宿に荷物を置いて街を楽しんだが、別にそうしなければならないわけではない。

テントに荷物を置いたまま街に出て、一度戻ってから宿に向かっても特に問題はないのだ。

その場合、テントが完成していたら翌日の準備くらいはしていくことになるだろうが、そうしているうちに大人たちが宿に移動を始めるから、そのタイミングで一緒に行くのも悪くはないと思うとニコルは言う。

けれどそれだと、宿に入る時の手続きは大人たちがやってくれることになる。

せっかく教えてもらったのに、自分で挑戦しなければ、いつまでもできるようにはならないだろう。

きっと一度できれば不安も解消されるはずだ。

落ち込んでいた中には、ニコルと一緒に、お菓子を食べたりするような夜を過ごせないことも含まれていたが、とりあえずニコルにこれ以上心配させてはいけないと、セルビアは一旦話を終わらせることにした。


「これも練習だと思って頑張ってみるよ。どうしてもだめだったら戻ってくるかもしれないけど……」


朝から出かけて、宿に行って、もし自分で部屋に入ることができなかったら、不安で宿に入ることを躊躇するようなことがあったら、その時はテントに戻ってくればいい。

そしてニコルが提案してくれた通り、大人たちと一緒に向かえばいいのだ。

ここまで言った以上、一度街に出てからテントに戻ってきたら失敗したってことになるけど、それも経験だと考えるしかないだろう。

絶対に一人で対処しなければならないわけではないので、無理をする必要はないと考えれば、それだけでセルビアは気持ちを落ち着けることができた。


「私は心配してないけどね。とりあえず、早く部屋を決めちゃいたいから、みんなのところに行ってくるね。マダムのところはよろしく」

「わかった」


セルビアがそう言うと、今度こそ大人たちのところに戻ると、ニコルは飛び出していった。

その場に残されたセルビアは、その姿を見送っていたが、足元にいたグレイがすり寄ってきたことで我に返る。


「ニコルちゃんはみんなと話をするのに興行用のテントに行っちゃったし、マダムのところに行ってから運び込みに行こうかな」

「くぅ~ん」


相手がいないためグレイにそう言うと、グレイは自分がいるから大丈夫とばかりに体を摺り寄せてきた。

セルビアはそんなグレイを両手で撫でて気持ちを落ち着かせると、マダムのいる入口に向かうのだった。



「マダム……、次回、宿の利用をさせてもらうことになりました」


マダムを見つけたセルビアが申し訳なさそうにそう言うと、マダムはちらっとセルビアの方を見てから言った。


「なるほど、次回の宿ならグレイも一緒に泊まれるからだね。到着した日の食事はどうする?」

「朝は食べます。それでお昼から街に出てそのまま宿に行こうと持っているんですけど……」


セルビアが様子をうかがいながら言うと、マダムはセルビアに笑いかけた。


「いいんじゃないかい?ゆっくりしておいで」

「ありがとうございます」


セルビアがどうにか報告を終えて胸をなでおろしていると、マダムは続けた。


「セルビアちゃん、そんなにかしこまらなくていいんだよ。皆がそうしたいって言ったんだろう?」

「そうみたいです……」


厳密にいえばセルビアが彼らから直接話を聞いたわけではない。

あくまでニコルが皆がそう言っていると話してくれただけだ。

それもあってあいまいな返事をしたのだが、セルビアはもしかしたらニコルが頼んでくれたのかもしれないし、皆はグレイを連れているから融通してくれたのではないかと思っている。

本当ならサーカスに同行するのにグレイを連れていることを容認されているだけでも感謝しなければならないし、いくら給料からひかれてるとはいえ、グレイのエサは破格の値段で用意してくれている。

なのに宿まで譲ってもらうことに気が引けないというのは嘘だ。

そんな考えを見越してか、マダムが言った。


「セルビアちゃんはもうここの一員なんだから、皆が平等に与えられるべき権利を放棄する必要はないよ。まあでも、集団生活に慣れてしまったことで、もし一人が寂しくなったらここに戻ってくればいい。ああでも、夜中に宿を出て一人で移動するようなことはしないでおくれよ。その代わり、同じ宿に泊まっている団員のとこに行ってもいいんだから」

「わかりました」


最初に宿を利用した時も、何かあったら大人の団員を頼っていいと言われていた。

その日は楽しく過ごせたし、トラブルに見舞われることはなかったため、夕食を一緒に食べた時くらいしか顔を合わせることはなかったけれど、その時と同じで他の団員の誰かは同じ宿にいるのだ。

あまり心配しても仕方がないだろう。

セルビアはそう考えてマダムにお礼を伝えた。

そしてグレイを置いて売店の荷物の運び込みの手伝いに向かうのだった。

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