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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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夜更かしの準備

「まだ皆が来るまで時間があるなぁ。ここでお話ししててもいいし、街に出てもいいんだけど、セルビアちゃんはどうしたい?」


荷物を置いて一息ついたところでニコルがセルビアに聞いた。

大人の団員たちは興行用のテントの設営をして、人によってはリハーサルまで終わらないと宿には入らない。

セルビアたちが設営に参加していないから、こうして早い時間に移動できただけだ。

挨拶をしようと話はしたが、大人たちの到着を待っていたら夕方になってしまう。

だから疲れていて休憩したいのならこのままでもいいけれど、もし出かけるつもりなら早く出た方がいいとニコルが提案すると、セルビアは街に行くことを選択した。


「せっかくだから街を見ておきたいな。お昼を食べてからでもいいけど、前みたいに屋台とかでおいしそうなものがあったらそっちも食べたい」

「わかった。じゃあ、買い物して、お昼もそこで済ませようか。夜にゆっくりしゃべるんだったら、ここで食べるお菓子を買ってきてもいいね」


昼食とは別に夜の分のお菓子を買わないととニコルが言うと、セルビアは首を傾げた。


「夜は食べながらしゃべるってこと?」


おしゃべりをしていたらのどは乾くと思っていたけれど、お腹が空くとは思っていなかった。

普段夜更かしすることもなければ、友人と夜通し話をするという経験もない。

セルビアからすれば初めてのことばかりだ。


「そう。ずっと起きててしゃべってたら、たぶん途中でお腹が空いちゃうと思うんだよね。でも冷めちゃうのわかってるご飯を置いておくのも違うし、夜だったらお菓子がちょうどいいんだよ」


ニコルがお菓子について力説していたので、それを聞いてセルビアは妙に納得した。


「確かにそうだね。これまで夜は一人だったし、すぐに寝ちゃってたから、お菓子とかは寝起きの朝、小腹が空いた時につまむくらいだったかも」


セルビアも手元にお菓子を置いていないわけではない。

けれどそれを食べるのは夜ではなく朝が多い。

夜は早々に眠れてしまうから困ったことがなかったのだ。


「じゃあ、今日はちょっと夜更かしだね」

「うん。お菓子を食べながら夜更かしとか、したことないけど、楽しそう」

「じゃあ、街に行って色々見て、ご飯食べてお菓子を買ってこよう。日が落ちる前には他の団員も宿に入るはずだから、それまでに戻ればいいね。中心街からなら、テントよりここの方が近いから時間もたっぷりあるし、荷物が増えたら一回置きに戻ってこられるよ」


ニコルからすれば大層なものではないが、

とにかく友達とするあらゆることが初めてのセルビアにとって、今日の夜更かしはもはやイベントだ。


「でも買ったものはここを出る時テントに運ばないといけないから、前みたいに買いすぎないように気を付けるよ」


最初の街ではたくさんの買い物をしてしまって、運ぶのに苦労した。

あれからいくつもの街を歩くようになって必要最小限のものしか買わないようになったセルビアだけれど、今はこれからの夜更かしが楽しみでついいろいろなものを買い込んでしまいそうな勢いなのだ。


「次がいつになるかわからないし、次の街で手に入るとも限らないから、本当に欲しいものは買っておいた方がいいと思うんだけど、セルビアちゃんの自由でいいと思う。とりあえず欲しいものがあるかどうかお店を見てみないとわかんないよね。お昼ご飯も食べたいし、そろそろ行こうか」


ニコルとならばいつまでも話していられそうだけれど、ここでこの話をしていたらどんどん時間が過ぎてしまう。

せっかくニコルがお菓子を食べながらという提案をしてくれているのだから、最低限お菓子だけは買っておきたい。

準備段階である、お菓子を選ぶことを考えるだけでも心が躍った。


「そうだね。今日はたくさんおしゃべりできるんだもんね」


そんな話をしながら、二人は特に行き先を決めるわけでもなく、宿を出発した。



街に出ると、開いたばかりの屋台が調理を開始しているところだった。

二人は混雑する前に食事を済ませると、街の中を見て回る。

そして買い物の最後に焼き菓子を購入して部屋に戻った。


「結局ずっと外になっちゃったね。疲れてない?」


街は堪能できたけれど、結果、ずっと歩きっぱなしになってしまった。

普段立ち仕事をしているし、疲れは休めばとれるだろうけれど、座ったら急に疲労感に襲われた。

これは二人とも同じだった。


「ちょっと疲れたかも。でも楽しかったよ。それにお菓子をこんなにたくさん買ったの初めてで、夜も楽しみだよ」


座ってから根が生えたように動けなくなっているセルビアを見て、出ずっぱりになったことを気にしたニコルが尋ねた。

そう言ったニコルも立ち上がる気分ではなくなっているようだ。


「よかった。残ったらテントに持ち帰って食べてても大丈夫だからね。みんな結構夜中に小腹が空いた時用にお菓子持ちこんで一人で食べてるんだ」

「そうなんだね。一度寝たら朝まで寝られちゃうから、夜にお菓子を食べるなんて考えたことなかったよ」


ニコルだけではなく、団員にも夜中の空腹を訴える者がいると聞いて、セルビアは驚いた。

皆が目を覚ましても、セルビアは寝ているから、そんなことをしていたなんて気づかなかったのだ。

テントでは、仕切りの代わりに布一枚を隔てているだけだから、隣が何をしているのか、起きていれば察せられる。

でも彼らが集まって夜更かしをしてしゃべるようなことはない。

一応夜中は寝ている人に配慮して、目が目ても一人でひっそりと過ごすのだ。


「夜中に起きない方が健康的でいいと思うよ。あ、大人たちが到着したみたいだね」


小さく壁伝いに聞こえたドアの音を聞き取ったニコルがそう言うと、セルビアは首を傾げた。


「どうしてわかるの?」

「隣の部屋に人が入ったみたいだから。ドアの閉まる音がこっちからしたでしょう?」


そう言われてもセルビアにはよくわからない。

セルビアがグレイの方を見ると、グレイは気が付いていたようで、隣の壁に視線を送っていたが、少しすると何事もなかったように体を丸めた。


「すごいね。私には全然わからなかったよ……」


ニコルはグレイの外出にも気が付いていたし眠りが浅いのかもしれない。

セルビアがそんなことを思っていると、ニコルが重い体をどうにか叱咤して立ち上がった。


「大人たちが着いたってことは、そろそろ夕食の時間だね。お腹に入るなら部屋に声をかけに行ってそのまま食堂で夕食食べちゃおうか」

「ニコルちゃんは食べられるの?」


街でちょこちょこ買い食いをしていたため、空腹感はない。

セルビアがニコルは普通に食べられるのかと聞くと、ニコルは平然と答えた。


「食べられるよ?セルビアちゃんはお腹いっぱい?」

「一食くらいなら食べられると思うけど、これからお菓子食べると思うと……」


空腹というほどではないけれど、食事が食べられないほど満腹ではない。

でもこの後に食べるものがあることを考えると、食べなくてもいいかもしれないと感じられた。

セルビアが躊躇っていると、ニコルは笑いながら言った。


「お菓子は残せばいいんだよ。優先するのは食事だよ。健康第一だからさ」


食事をしないでお菓子だけを食べるのは体に良くないし、お菓子は小腹が空いたら食べればいいのであって、食べないと夜更かししながら話ができないわけではない。

それにここで食事に行かないければ、宿泊している団員に挨拶をする機会を失してしまう。


「そうだね。大人たちにも挨拶しておきたい」


セルビアの答えにニコルはうなずいた。


「じゃあ決まり。グレイはどうする?」

「くぅーん」


そう一鳴きすると、グレイはベッドの足元に移動して丸まった。

食事より睡眠が優先らしい。


「お留守番でいいの?まあ、食堂だからね。後でご飯持ってくるよ」

「わぅわぅ!」


セルビアが確認するとそれをグレイが肯定したので、とりあえず留守番役としてグレイを部屋に残して、ニコルとセルビアは隣の部屋を訪ねた。

するとニコルの言う通り、女性の団員が到着していて、荷物を整理しているところだった。

女性たちに確認すると、宿で教えてもらった通り、並びの部屋には男性の団員もいるという。

話の流れから、夕食を皆で食べようということになり、結局夕食は宿泊している団員で集まって取ることになった。

普段と席も違うし、配膳を自分でしないのが久々で、思わず挙動不審になったセルビアだけれど、楽しいひと時を過ごせたのだった。

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