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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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宿の利用

そうしてセルビアが団員として加わってからも、これまで通りサーカス団はいくつもの街に立ち寄っては興行を成功させていく日々を送っていた。

最初は緊張していたセルビアも、すっかりサーカス団の一員として皆と打ち解けていたし、懸念していたような事件も起こらなかった。

そうしてすっかり馴染んだ頃、ニコルから提案があった。


「セルビアちゃん。今度の街の宿、動物も一緒に泊まれるらしいから、グレイと一緒に使ってみたら?」

「いいの?」


今の生活環境に慣れたので、特に宿に泊まることにこだわりはないし、新参者の自分が宿を使いたいというのはおこがましいのではないか。

セルビアは不安そうに言うと、その言葉を聞いていたマダムが言った。


「そうしな。遠慮してるだけじゃないんだろうけど、ここに来てからずっとテントで泊ってるだろう。グレイだって、たまにはそういうところで休ませてもいいんじゃないかい?」


テント生活は豪勢な野宿といった環境で、やはり建物の中とは違う。

けれど慣れてしまえばどこでも寝られるセルビアはにとっては問題なかったし、ニコルと買い物をした日に購入したアイテムのおかげでテントの中での生活がかなり快適になったので、特に希望を出す予定はなかったのだ。

ただ、グレイが宿の方が落ち着くかもしれないと言われたら、その方がいいかもしれないと、セルビアはグレイを見下ろした。


「そうかなぁ」

「くぅーん?」


そんなセルビアを見上げてグレイは首を傾げた。


「グレイはどっちてもいいみたいだね」

「わぅわぅ!」


グレイは飼い主に似ているのか、セルビアがいればどこでもいいのかわからないが、どちらでもいいらしい。


「でもたまには柔らかいベッドで体を休めるのも大事だからね。あと、テント以外の食事もとれるし」


ニコルの言う通り、確かに宿のしっかりしたベッドの方が疲れは取れるかもしれない。

それにテントの食事がいつでも食べられることを考えたら、確かにその土地の宿の料理を楽しめるのは魅力的だ。

しかしそう言われても、いまいち決心がつかない。

セルビアが返事に悩んでいると、マダムが提案した。


「だったら二人部屋で宿に入れるように頼んでみな。そしたらセルビアちゃんも不安じゃないだろう?ニコルはグレイが一緒でも気にしないだろうし」

「ニコルちゃんと一緒?」


セルビアがそう言ってニコルの方を見るとニコルは笑顔で答えた。


「それいいね。最初にテントに来た時以来の同室かぁ。今度はもっと時間とれるし、ゆっくり話せるいい機会かも」

「そっか。あの、私が使っていいなら、お願いします」


セルビアがマダムにそう言うと、マダムは大きく笑った。


「セルビアちゃんは謙虚だねぇ。わかった。後で団長に聞いといてやるから任しときな!」


本当ならば自分で頼みに行けと言いたいところだが、自分で頼めと言ったらセルビアはきっと言い出さずに終わるだろう。

これまでも不平不満を言わずずっとテントで過ごしてきたのだから、このくらいわがままでも何でもないのだが、セルビアはまだ新参者だからと遠慮がちなところがある。

それにこの一回を利用したら、次からは自分で言い出せるようになるかもしれない。

マダムはそんな期待を込めて団長にこの件を伝えることにしたのだった。



マダムがすぐに団長に話を通してくれたらしく、すぐに二人が宿に泊まることは決定した。

団員達からも特に異論はでなかったらしい。


「ニコルちゃんありがとう」

「いいよ。私も宿に泊まれて嬉しいし」

「それならいいんだけど……」


ニコルを巻き添えにしたのではないかと不安に思っていたセルビアは、そう言われて小さく息を吐いた。


「さっきマダムも言ってたけど、セルビアちゃんずっとテント泊しかしてないでしょう?確かに早く環境に慣れた方がいいとは言ったけど、ずっとそうしないといけないってわけじゃないし、前にグレイも一緒ならって言ってたからさ。あと、マダムも皆も、セルビアちゃんの体が休まらないんじゃないかって気にしてたんだと思う」


少なくともずっと自宅と宿にいたセルビアがいきなりずっとテント泊をすることになるのは想定外だったし、家や宿のベッドに比べたら、テントの方が環境がよくないことは一目瞭然だ。

いきなり悪環境に放り込まれたのだから、休めていないのではないかと周囲に心配されていたが、当の本人はそうでもなかった。


「そうでもないよ?ここで一緒に生活してわかったことだけど、私、割とどこでも寝られるみたいだし」

「そうだね。セルビアちゃんがそういうタイプで安心したよ。ちょっと不安だったからさ」

「私もびっくりしてるよ」


確かに初日、一緒に寝ることにしたけれど、セルビアは一度寝たら朝までぐっすりと眠っていた。

ニコルがグレイの外出に気が付いたのに、セルビアはそれに気付くことがないほど寝入っていたのは間違いない。

初日は疲れていたからかと思ったけれど、それからもグレイの行動を見る前に寝てしまっているらしく、朝になってセルビアが本当にグレイが毎晩外に行っているのかと首を傾げているのをニコルは何度も見ている。


「そうなんだ。まあ、それなら使ったことのない宿でも、きっとよく眠れるよ」


ここで指摘を受けるまで本人に自覚はなかったらしい。

でもセルビアがそういうタイプだからこそ、この旅についてこられているのは間違いない。


「そんな気がしてる。でもせっかくニコルちゃんと同室なのに、寝ちゃうのってもったいないなって思うけど……」


初日、同じ部屋に友達がいるというだけですごく嬉しかった。

またあの時と同じように、ニコルと過ごせると考えるだけで楽しみだ。

なのに、ただ寝るだけになるのは惜しい。

セルビアがそんな思いを伝えると、ニコルは笑いながら言った。


「宿を使うのは疲れをとるのが目的だし、話は寝る前とか、夕食前にすればいいんじゃないかな。部屋で過ごす時間は長くとれるし、寝る時はしっかり寝なきゃ」

「そうだよね。ありがとう」


確かに話をするのは寝る前でなくてもいい。

ここにきてから宿を使うのは初めてだから、手順などはわからないけれど、さすがに寝るだけのために宿を使うわけではないみたいだし、宿を使う時は、夕食や朝食を宿でとることになっているらしいので、その前後は部屋で過ごすことになるのだ。

時間はたくさんあって、話す時間も寝る時間もしっかりとれるとニコルが言うのだからきっとそうなのだろう。

もちろんそれは次の街での話だから、あと数日先のことだ。

しかしセルビアは、その日がとても待ち遠しくて仕方がないのだった。

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