動物たちの訪問
無事グレイを飼うことが決まった翌日、朝ごはんだと呼ばれたセルビアはグレイと一緒に食卓に向かった。
「グレイはミルクね」
そう言ってセルビアは昨日と同じさらにミルクを入れて床に置く。
そして自分はテーブルに用意された食事を食べるため席に着いた。
そこで子犬が名前で呼ばれていることに気が付いた母親が、セルビアに聞いた。
「もう名前をつけたの?」
母親に問われたセルビアは、よくぞ聞いてくれましたとばかりに答えた。
「うん。グレイにしたの。この子も気に入ったみたいだよ」
「わぅわぅ!」
グレイがセルビアの声に呼応するように鳴いたので、母親は感心した様子でグレイを見た。
「あら本当、嬉しそうね」
「そうでしょう?」
母親に言われたセルビアが得意げにそう言うと、母親は体をかがめて、ミルクを飲むのを止めて自分を見上げている灰色の毛玉を撫でた。
「グレイ、セルビアをお願いね」
「わぅわぅ!」
グレイはそう返事をして嫌がることなく母親に体を撫でられる。
どうやら自分を受け入れてくれた母親には体を触らせてもいいと思ったらしい。
そして母親の方は、想像以上に毛並みのいいグレイのさわり心地が良かったのか、なかなか撫でるのを止めない。
グレイも吠えたり抵抗したりしないで大人しくしているから、母親も撫でっぱなしだ。
「ちょっとお母さん、それじゃあグレイがミルクを飲めないよ」
いつまでもグレイを撫でている母親に、同じタイミングでご飯を食べているセルビアが苦言を呈すると、母親は笑いながら言った。
「そうね、ごめんなさい。たくさん飲んで大きくなってちょうだいね」
母親はそう声をかけると、家事に戻っていった。
するとグレイはすかさずミルクを飲み始める。
「ごめんね、お母さんがご飯の邪魔しちゃって」
「くぅ~ん」
先に食事を終えたセルビアがグレイの横にしゃがみこんで声をかけると、グレイはセルビアの足に体を何度かすり寄せて、再びミルクに口をつけた。
グレイとしては特に問題ないらしい。
確かに食事を取りあげられたわけでも暴力をふるわれたわけでもないし、母親のしたことが好意からくるものだと理解しているようだ。
とりあえずグレイが家族と仲良くやってくれそうならいいかと、セルビアはグレイがミルクを飲み終わるまでその様子をじっと待つのだった。
「わぅわぅ!」
食事を終えてしばらくするとグレイが庭に向かって吠えだした。
「どうしたの?」
グレイの声を聞いたセルビアが様子を見に行くと、グレイがセルビアの部屋の窓から見える木の上に止まっている小鳥を見上げて吠えていた。
まあ、犬なので小鳥が気になっているか、威嚇しているか分からないけど、そういう事もあるだろうと思いながらセルビアはグレイと小鳥を交互に見る。
そうしているうちに、その気にはどんどん小鳥が増えていく。
「わぉ~ん」
とグレイが鳴くと、小鳥たちもせわしなく鳴き出す。
その様子は強者が弱者に怯えているというわけでも、喧嘩をしているわけでもなく、仲良く会話をしているだけのように見える。
「グレイ、あの子たちと仲良しなの?」
セルビアが聞くと、グレイはセルビアにすり寄った。
すると小鳥がピーピー何かを訴えるように鳴きだして、グレイがそれを諌めるように、ひと鳴きする。
そうしている間にも、木の上には鳥がたくさん集まってきて、ついには一本の木が鳥で覆い尽くされるまでになった。
「グレイ……、グレイが呼んだんじゃないよね?」
増殖する鳥の数がさすがに異常だと感じたセルビアが、鳥とやり取りをしているグレイに尋ねた。
するとセルビアに疑われたと思ったからか、グレイはしょんぼりとした声を出す。
「くぅ~ん」
「あー、ごめんごめん、グレイが悪いとか思ってないから……」
よしよしとグレイを撫でてなだめると、上から鳥の声が大量に降ってくる。
その声に驚いてセルビアが木を見上げれば、並んだ鳥たちは一斉に黙ってセルビアを見下ろす。
「鳥さんたち……、どうしたいのかな?」
セルビアが困惑していると、急に上の方にいる鳥から一斉に飛び立ち始めた。
グレイが吠えたわけでもないのになぜかと不思議に思っていると、やがてその正体が姿を現す。
見えない所で、木にリスやイタチ、タヌキのような動物が登ってきていたのだ。
彼らも先ほどの鳥たちと同じように、木の上からじっとセルビアを見下ろしている。
「わぅわぅ!」
グレイは彼らにも鳥たちと同じように声をかけるかのように吠える。
彼らも時折何か答えているのか、それとも反抗や威嚇なのか分からないけれど、グレイの声に反応を示す。
そうしてしばらく時間を過ごすと彼らはいなくなった。
それからは、多くの訪問者たちが入れ替わり立ち替わり、木の枝の上に集まっては、グレイに吠えられて、少ししてからいなくなる。
そんなことが繰り返された。
彼らはここに来るだけで特に悪さをするわけではない。
ただ、グレイとセルビアの見える位置に来ては、一定の距離を取った状態でこちらをじっと見ている、そんな感じだ。
木の位置と窓の位置がちょうどいいだけかもしれないが、なんだかそれが絵の変わる絵画を見ているようにセルビアには感じられた。
もちろん、グレイが対応しているのでセルビアも何もせず見ているだけだ。
最初に鳥たちの集まった木とグレイの位置が良い距離感だっただけかもしれないが、皆がその木に来るのは、何だか決められた事のようで面白い。
グレイの隣にいれば、今日は庭の木にたくさんの動物たちが来るのかなと、そんなことを思いながら、セルビアは身をかがめてグレイの背中を撫でながら、そうして入れ替わり立ち替わり訪問してくる動物たちを楽しそうに眺めるのだった。