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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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友達との買い物

ニコルが大人たちの様子を見て、この後のスケジュールなどを確認して戻ると、ちょうどセルビアが目を覚ましたところだった。


「ニコルちゃん、ごめん、寝ちゃったみたい」


ずっと緊張した状態だからあまり感じていなかったが、どうやらかなり疲れていたようだ。

座って少し気を抜いただけだったのに、気が付いたら眠っていた。

話も途中だったような気がするけれど、どこまでが現実なのか判断が付きかねる。

とにかく、慌ててセルビアが謝罪すると、ニコルは笑いながら言った。


「休憩中だから問題ないよ」


一度離れたもののすでにセルビアの隣に座っていたニコルがそう答えると、もう元気になったからとセルビアは立ち上がった。


「何かすることあるかな?」


他の人が動いているのに休んでしまった。

その分を取り戻さなければとセルビアが言うと、ニコルはそんなセルビアに座るよう言った。


「とりあえず今日はこっちのテントを立てて、動物たちを下ろしたら終わりだね。ちなみに明日は興行用のテントを立てて、ショーの練習をして終わり。練習って言っても新しいことをするわけじゃなくて、道具の安全確認をするためだから、お客さんが入るのは明後日からだよ。それで私たちは明日のほとんどがお休みになるんだけど、よかったら一緒に街を見に行かない?」


すでにこの先のスケジュールは確認済みだから問題ない。

それよりせっかくの休みだから一緒に出掛けようとニコルが誘うと、セルビアは驚いて言った。


「いいの?」


まさか、初めての街に来て早々、街を見て回る機会をもらえるとは思っていなかった。

しかもニコルも一緒だという。セルビアが想定外のことに驚いていると、ニコルは照れたように続ける。


「うん。今まではこういう時間を一人で過ごしてたんだけど、今回からはセルビアちゃんがいるから、一緒に出掛けられたら嬉しい」


セルビアだけではなく、ニコルも友達と街歩きをした経験はほとんどない。

孤児だった時には金銭に余裕はなかったし、サーカス団に入ってからは一人だったのだ。


「私も、初めての街だから一人で出かけるのは不安だし、友達と一緒に買い物したことないから、そういうことができるのも嬉しい」


セルビアもニコルとは違うが友人と街を歩く経験がない。

集落から街に行く時は基本的に両親が付き添い、最低限しかいられないから街を見て歩くことさえ許されなかったし、一人で行った時も寄り道はだめだと強く言われた。

宿を拠点に生活するようになっても、やはり買い物は両親が一緒だったし、近くに友人と呼べる人はいなかったから、仕事探しのために一人で街に繰り出すことはあっても、誰かと一緒にという経験はない。

集落ですでにお使いをこなしていた子供たちの中には、そのご褒美としてお小遣いをもらって街に出かけている子もいた。

けれど、セルビアにそれが許されることはなかったのだ。

それが原因で他の子たちからは馬鹿にされ、相手にされなくなってしまった。

当然何度も両親には許可を求めたけれど、当然認められることはなかったし、自分の体質を知った今となっては両親の気持ちはわかるけれど、それでも、自分だけが同年代の子供たちの輪から外されなければならなかったことが、今でも傷として残っている。

相手がどう思っているかはわからないけれど、そういう事情もあって、少なくともセルビアから見れば、集落にいる同年代の子供は友達と呼べる相手ではなくなっていた。

だからこうして友達ができたことも嬉しいし、友達と出かけることができるなんて夢のようだとセルビアは喜んだ。


「じゃあ決まりだね。そのためにもここの荷物の整理を頑張って終わらせておかなきゃ。明日に持ち越したらその分、休みが減っちゃうからさ」


興行用のテントでの仕事はまだできないけれど、住居用のテントでの仕事はまだある。

大半は終わっているけれど、こちらを進めておけば明日は興行用テントでの作業だけで済む。

そうすればその分、明日の自由時間が増えるとニコルが言うとセルビアはうなずいた。


「わかった。頑張るよ。それより明日のほとんどってことは、少しは仕事があるってことだよね?」


何をすればいいのか全体をつかみ切れていないセルビアに、ニコルは簡単な説明をする。


「テントができたら、そこに明日からの販売に使う物を運んでおかないといけないんだ。食べ物とか、道具とか、容器とか」

「そっか」


商品を販売するために必要な道具にはまだ手を付けていない。

自分たちの仕事の道具は自分たちで準備する必要があるということだ。

食べ物についてはどれを持ち込んだらいいかわからないけれど、道具と容器は仕事で使っていたからわかる。

ショーの準備ができていても自分たちが販売品の準備をしていなかったら、売店が成り立たなくなってしまう。

だから明日はテントができたらその準備があるのだとセルビアは理解した。


「でも私たちにできるのはそのくらいだから、暗くなる前に戻ってくれば問題ないし、焦る必要はないよ。ずっとテントができるのを眺めて待ってても、近くにいるだけで邪魔になっちゃうから、むしろ作業が始まったら、このテントでおとなしくしてるか、出かけてるしかないんだよね」


これまでは邪魔にならないよう作業に加わらないのが自分だけだった。

最初はテントで作業が終わるのをずっと待っていたけれど、だんだんと作業時間がわかってきて、テントにいる必要もないことに気が付いた。

加えて、あちらこちらの街に行くうちに、新しい場所を過剰に怖がる必要はないと思えるようになっていった。

だから最初は大人たちが出かける時だけ一緒について行ってたけれど、こういう長い待ち時間のある時は一人で出かけるようになった。

そうして一人で街に行くようになったけれど、それはテントで黙って時間をつぶしているよりは退屈しなくて済むからであって、一人歩きが好きだからというわけではない。

本当は一人でいると少しむなしくなる時もあったのだ。

だから自分と同じように、作業に参加しないで時間を持て余す人がいるなら一緒に過ごしたいと思ったのだ。

そんな経緯もあって、ニコルはセルビアを誘った。

本当は自分が寂しかったからなのだが、ニコルはそれをセルビアに悟らせないよう、おどける様に肩をすくめて見せたのだった。

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