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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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新しい街へ

グレイの話をして少し落ち込んだセルビアだったが、朝食を終えると、そんなことを気にしている余裕はなくなった。

これから家代わりのテントもたたんで、いよいよ移動を開始するからだ。

ここから次の街への移動距離はそこまでないので、今回は途中で野営するようなことはないそうだが、大所帯で大荷物での移動なので、普通に歩くより時間がかかるという。

テントの設置や撤収を手伝うには力が足りないため、ニコルとセルビアは戦力外だ。

とりあえずセルビアとニコルは片付けの邪魔にならないよう、すでに空いた場所で離れて待機する。

これがセルビアが初めて新しい世界に踏み出す一歩となるのだから、テント片付けが進んでいくと、おのずと気分が高揚した。


「いよいよ出発なんだね」


セルビアが感慨深げに言うと、ニコルがうなずいた。


「そうだね。次の街までそんなに距離はないから、一気に移動すると思う。今日中に街に入って、テントを立てて準備だね。手順はさっきの片付けの逆だけど、私たちはテントができたら、馬車から荷物を運び入れるのを手伝うところからのお手伝いだよ」


ニコルの説明を聞きながら、セルビアはあたりを見回した。

自分がこの街に来た時、確かにここは空き地だったけれど、ここで仕事をするようになって、テントがある方が当たり前となっていたので、完全にテントがなくなってしまうと少しさびしさを覚える。


「またこの街にも来ることがあるよ」


セルビアの感情を察してかニコルはそう言うと、セルビアは小さく返事をして、荷を積んだ馬車と団員たちだけになった空き地を見回すのだった。



そうして準備を終えると、団長の掛け声でいよいよ出発となった。

馬車は荷物と幕をかけた動物の檻を運ぶために使われるため、自分たちは徒歩での移動となる。

グレイは檻の中に入っていないのでセルビアと一緒に歩くことになるが、心なしか嬉しそうで、足取りが軽い。


「グレイはセルビアちゃんとお出かけだから嬉しいのかな?」


歩きながらニコルがそういうと、グレイは元気に声を上げる。


「わぅわぅ!」

「一段と元気……って、そっか、街の中ではおとなしくしてなきゃいけなかったもんね。大きな声で吠えるのも我慢してたんだね」

「わぅわぅ!」


ニコルが褒めていることがわかると、グレイはやっぱり嬉しそうにしている。

そして並んで歩くセルビアとニコルの周りをぐるぐると歩き回った。

どうやら体力も有り余っているらしい。

話をする余裕のあるニコルに対し、セルビアは歩くのに真剣だ。

街から初めて外に出たけれど、そこには草原が広がっていて、あたりに目印になるようなものは何もない。

馬車が通れるような道はあるし、これさえ見失わなければ一本なので迷うことはないだろうが、ここではしゃいで途中で疲れて音を上げて迷惑はかけられない。

街を出た瞬間、真新しい景色に感動を覚えたけれど、やはり不安が募る。


「セルビアちゃん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。みんなが一緒だし、そんなに気を張ってたら到着する前に気疲れしちゃうよ」

「うん……」


ニコルはよく気が付くなと思いながら、セルビアはうなずいた。


「私も最初に自分のいたところから出発したときそんな感じだったからさ、なんかセルニアちゃん見てたら、その時のことを思い出しちゃった」


セルビアより幼い時にサーカスに引き取られたニコルだが、孤児院から離れる時、新しい家族ができた安堵感があったけど、同時に大きな不安があった。

そして彼らに置いていかれたら自分は一人で途方に暮れることになるとついていくのに必死だったのだ。

その時の自分と、今のセルビアはおそらく同じだ。

サーカスの団員たちがセルビアたちを置いていくことはないけれど、それを信じられるようになるまで、時間がかかるのは仕方がない。

自分にできるのはセルビアの不安を取り除くために気を回すことだけだ。

これは同年代で同じような経験のある自分が適任だろう。

ニコルはセルビアの同行を団長に頼み、許可を得た時から、密かにこれを自分の役割と課していた。

団員たちもそれを感じてか、セルビアのことはニコルに任せて様子をうかがっている。

そんなこととは知らず、セルビアは必死に足を進めるのだった。



見知らぬ街に入って真っ先に向かったのは、次のテントを設営するための場所だ。

そこに到着すると、馬車が広場の端に止められた。

セルビアとニコルは大人たちも邪魔にならないよう隅っこに寄る。

ただ、馬車の近くにいると運び出しの邪魔になるため、本当に何もないところに二人でぽつんと立っている感じだ。



テントの設営が落ち着くと、今度は二人の出番だ。

馬車から小者を下ろしてはテントの中に運び込んでいく。

そうするとテントの中はあっという間に見慣れた風景となった。

違うのは外に出た時の景色だけである。


「とりあえず無事に到着できてよかったよ」


必要最小限の荷運びが済んだところで、いつもの休憩場所にセルビアは思わず座り込んだ。


「お疲れ様。長距離歩くのは大変だったでしょう?」

「うん。ここま長くで歩いたことはなかったから……」


ぐったりしているセルビアを、グレイは心配そうに見上げて、体を摺り寄せる。


「グレイもありがとう。大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」

「くぅーん」


自分は元気だけどセルビアは疲れているのかと、しょんぼりするグレイの体を、ニコルがセルビアの代わりになでる。


「グレイはセルビアちゃんと一緒にたくさん歩いて楽しかったんだね」

「わぅわぅ!」


ニコルの言葉をグレイは肯定する。

ちゃんと声を控えめにしているのはグレイの配慮だろう。


「とりあえずここでちょっと休憩してればセルビアちゃんも元気になると思うし、一緒に静かにしてようか」

「くぅーん」


グレイはニコルを見上げてそう鳴くと、すぐにセルビアの横にくっついて体を丸めた。

自分とセルビアは同じだと思っていたけれど、セルビアにはグレイがいるから自分の時とは違ったなと、ニコルはセルビアとグレイを見る。

セルビアは本当に疲れているのかうつらうつらしているし、グレイは体を丸めてからおとなしい。

とりあえず夕食の支度が始まるまでは起こさないようにしようと、ニコルは彼らをそのままに、大人たちの様子を見に行くことにしたのだった。

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