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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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みんなでごはん

「さあ、ごはんだよ。手伝っとくれ!」

「はい!」


マダムの掛け声で集まってきて座って談笑していた団員達が動き出した。


「どうしたらいいのかな?」


一斉に動き出した団員達を見て、慌てて立ち上がったセルビアに、ニコルはとりあえず座るよう言った。


「とりあえず、今日は見て覚えてくれたらいいよ。だから座ってて。物の場所は説明したけど、それをどこに置くかもわからないでしょう?一回見たらわかると思うから、お手伝いは夕食からで。夕食は人数多いから運ぶ数も多いからさ」

「うん。わかった」


確かに何をしていいか分からない状態の自分が出ていっても、邪魔になるだけだ。

今日はショーをしていないから、時間に制限はないだろうけど、ニコルが一度見た方がいいと言うのなら従うべきだろう。



いつもは手伝いに参加するニコルだが、今日はセルビアの隣に座って動かない。

けれど団員たちはニコルが説明のために参加していない事を知っているからそれに関して特に何かをいうことはない。

そのため団員たちは一人、人手がないものとしていつも通り準備を進めていく。


「食器類の場所は毎回変わるから、今回はここねって感じで皆で決めるから変わるんだけど、こうやって皆で円になって食べるのはどこに行っても変わらないんだ」


基本的に皆の顔が見渡せるように中心を開けて円形に座るのが基本らしい。

自然とそういう形に座ったのかと思っていたけれど、食事の時はそうすることになっているため、習慣でその辺りに座るようになったらしい。


「人数で円の大きさが多少変わるんだけど、皆何となくこの辺に座るって身についちゃってて、決まってるわけじゃないけど、座る位置は大体同じところになることが多いよ」


誰がどこに座るかを覚える必要はないけど、今セルビアのいる位置からどの辺に座るかは覚えた方がいいと言う。

つまりニコルの隣に座るのが無難ということだろう。


「それで、あの辺にお鍋を置いて、隣に食器とか置くんだ。準備ができたら並んで配膳を受け取って自分の場所に戻るって感じだよ。だから運んだ後で何人か配膳の手伝いもするんだ」


団員たちは手際よく食器や鍋などを運んでくると、ニコルの説明の通り、彼らは動いていく。

そうしてあっという間に準備が整った。


「さあ、みんな、取りにおいで!」


マダムがそう声を張ると、マダムの前に団員達が並んでいく。


「準備ができたら、まず、トレイを持ってマダムの前に並ぶんだ。それから、横にずれていって、配膳の人が入れてくれたのを受け取るの。自分で入れるんじゃなくて最初は配膳してる人から受け取るだけだよ。あんな感じで」

「わかった」


流れるように列は進んで行き、最後の物を受け取ると、すぐにその場から離れて定位置らしい自分の場所に戻って行く。

セルビアが感心して見ていると、ニコルはセルビアを列に誘って立ち上がった。


「じゃあ行こうか!私達も並ばないと。ご飯食べるんだから」

「うん」


ニコルに圧倒されながら、セルビアは立ち上がってニコルの後ろに並んだ。

そして配膳されたものを受け取ると、ニコルについて歩いて元の場所に戻って座った。

ちなみにセルビアの横にいたグレイは、二人が並んでも動かず丸まっていたので、目印のようになっている。



そこに動物用の皿と肉を持った団長がやってきた。

自分の食事を取る前に、それをグレイの前に置いて声をかける。


「遅くなったが、グレイ、ご飯はこれでいいかい?こっちで用意するって約束だったからな。動物たちのところに行かせるか悩んだけど、今日は持って来たから皆と一緒に食べような」

「わぅわぅ!」


グレイが嬉しそうにそう鳴いて尻尾を振ると、団長はグレイを撫でた。


「ありがとうございます。後で聞こうと思ってたんですけど……」


お給料から引くけど食事は用意できると聞いていたので、セルビアはタイミングを見計らって確認しようと思っていたのだが、とにかくニコルから受けたたくさんの説明もあって、頭の整理が追い付いていなかった。

グレイはそこまでお腹がすいていないのか、何も訴えて来なかったのも後回しになった理由の一つだ。


「だから、遠慮しなくていいって言ってるのに。グレイだってもうサーカスの一員なんだからさ」


自分のことで手いっぱいで聞けなかっただけだが、ニコルはセルビアが遠慮して聞けなかったのだと気にかけてくる。


「うん、ありがとう」


セルビアがお礼を伝えると、今度は団長が確認したいと声をかける。


「セルビアちゃん、グレイはここで一緒に食事をした方がいいかい?あとで動物の食事の場所を教えるから、今後グレイは食事の時にそこに行くか、ここで食べるか決めればいい。グレイはここで食べても問題なさそうだから、どちらでもいいよ。今までも一緒に食べていたんだろう?」


孤児だった子供ならともかく、セルビアは意図的に親方引き離された子だ。

その分離れた寂しさを強く感じているに違いない。

ならばせめて、グレイを側に連れてきて、それを紛らわせてくれたらいいというのが団長の考えだった。


「はい。宿の食堂にも一緒についてきてました。でも食事の準備、私がした方がいいと思うので、教えてほしいです」

「そうだね。お願いしようかな」


そうしてグレイは皆と一緒に食事の場所を囲む一員となった。

そしてセルビアには新たにグレイの食事の準備という仕事が加わる。

でもそれは、贔屓された客人としてではなく、団員の一員として扱われた証だ。

セルビアはそれが嬉しかった。



「よし、皆揃ったな。じゃあ早速食べよう。いただきます」

「いただきます!」


団長の声にセルビアがその場を見回すと、セルビアたちが話をしている間にマダムを始め、さっきまでは依然していた団員たちも、きちんと自分の食事を持って円の中に入っていた。

団長の掛け声に、声を揃えて答えると皆が一斉に食事を始める。

セルビアは一息遅れて挨拶をすると、一口、食事を口にしてから、ふとつぶやいた。


「なんか、こうやって誰かとお話ししながらご飯食べるの久しぶりかも」


食事のトレイを見ながらそうつぶやいたセルビアを、ニコルは心配そうに見つめて言う。


「そうなの?」

「うん。宿では部屋で一人で食べてるか、食堂を使っても、いるのは知らない人ばっかりだからお話しすることなんてなかったんだ」


たしかにおかみさんは気にかけてくれた。

けれど基本的に宿に来ているのは一元さんだし、親しくなる人たちではない。

しかもセルビアは女の子なので、迂闊に話しかけられて乗っかってしまうと、あらぬ誤解を招きかねない。

特に夜は酒の入った客もいるので危険だ。

そんなこともあって、セルビアは食堂の終わり間際、人の少ない時間を狙って食事をして片付けを手伝って部屋に戻っていたのだ。


「そっか」


確かに宿だとそうかもしれない。

ニコルは一人で宿に泊まることがなく、利用する時は複数人の団員と一緒だからそういう心配をする必要はなかったが、確かに夜には酔っ払いもいたし、あれを一人で対処するのは難しいかもしれないなと、そんな事を思い出していた。


「家にいる時は三人でご飯を食べるのが普通だったんだけどね。だから家を出て、サーカスでご飯食べた時が最後かも」


セルビアがそういうと、話を聞いていた団長が申し訳なさそうに言った。


「そりゃ悪いことしちまったな」

「団長?」

「悪いことって何ですか?」


セルビアは別になにもされていない。

むしろ助けてもらってばかりで、悪いことなど何もないのに、どうしてそんな謝罪をされるのか分からない。

セルビアが尋ねると、団長は自分の気が利かなかったなと反省の弁を述べる。


「出てくる前にそういう時間を設けてやればよかったのに、こっちの都合ですぐに引き離すことになっちまった」


出発の日が迫っていたとはいえ、今日一日あったのだ。

ここには入れられないが、売店の前の場所くらいは提供できた。

そこに配慮がなかったと言うのだ。


「いえ、連れてってもらえるだけで感謝してます。それに、改めてそんな時間ができたら、悲しくなっちゃうかもしれないです」


あそこで別れたから寂しさを感じずに済んだと思う。

もし別れを惜しんで最後の食事なんて場を設けられたら、かえって離れがたくなっていただろう。


「まあ、手紙のやり取りはできるようにするし、距離は離れてしまうけど、帰るのだって、いつでもできる。会えなくなるわけじゃないからな」


団長が付け加えるとセルビアはうなずいた。


「はい。ありがとうございます」


話が落ち着いたところで、団長が自分の食事を始めたので、セルビアも食事を再開した。

グレイも団長と話をしていた時は出された肉にかぶりつくのを止めてセルビアを見上げていたが、セルビアが食事を始めたのを見ると、再び目の前の肉に向かう。

そんなセルビアとグレイを見たニコルは、自分のご飯を食べながら、二人は本当に仲良し何だねと小さな声でつぶやくのだった。

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