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命名グレイ

とりあえず灰色の子犬と帰宅したセルビアは、さらにミルクを入れて子犬に与えてみることにした。

そして自分もコップにミルクを入れて一気に飲み干すと、それに合わせるかのように子犬も出されたミルクを勢いよくペロペロとなめていた。

よく考えたら家を出てから帰るまで、そして子犬も森で出会ってからここに来るまで、何時間も飲まず食わずだったのだから、感じていなかっただけで体は水分を欲していたのだろう。


「おかえりなさい。無事に買い物はできた見たいでよかったわ……。それにしても……」


嫌がる様子はないが、母親はセルビアの連れてきた子犬を見て困った表情になる。


「ねぇ、この子うちで飼えないかな?すごくいい子なんだよ。これからもお手伝いするし、お小遣いでご飯も用意するし、ちゃんと面倒見るから」


セルビアが子犬を飼いたいというと、両親が顔を見合わせる。


「でも、ここではちょっと……ねぇ」


セルビアが物心つかない時に起こった出来事が懸念される。

見る限り犬がいい子なのは間違いなさそうだけど、受け入れていいものなのか悩む。

母親が夫を見ると、家主であるセルビアの父親は窓の外を見た。


「そうだな……。だけどとりあえず今日はもうすぐ日没だ。夜の森に放つのはかわいそうだから今日は仕方がない。この話は明日にしよう」


引き離すのも酷だと感じたため、とりあえず外が暗くなる事を言い訳に、滞在を許可すると、セルビアは目を輝かせた。


「ありがとう」


とりあえず明日まで猶予ができた。

それまでにこの子を飼う許可が出れば、ずっと一緒にいられるということだ。

セルビアが気合を入れると、母親が今日だけだと強調し、釘をさす。


「仕方がないわね。とりあえず今日だけと言ってもあまりにも迷惑をかけるようなら、すぐに追い出さなければならないから、ちゃんと面倒を見るのよ」

「わかった!」


セルビアが元気よく返事をすると、母親は表情を緩めた。


「じゃあ、夕食の時間まで部屋で過ごしてなさい。子犬ちゃんは何を食べさせればいいかしら?」


母親がセルビアに尋ねると、セルビアは足元にいる子犬にその質問をそのまま投げかけた。


「お前何を食べるのかな」

「くぅ~ん?」


子犬が首を傾げるそぶりを見せ、セルビアは困ったような表情をする。

飼いたい、面倒をみると言ったのに、ご飯に何をあげればいいのかすら分かっていない、その事に気がついたのだ。

その様子から察したのか母親が、ため息交じりに言う。


「とりあえずミルクと、作ったものを少しずつ出してみて、食べるようならそれをあげればいいかしら?」


母親が助け船を出すようにそう提案すると、セルビアは子犬に言った。


「じゃあ、私のご飯を一緒に食べよう」

「はぅはぅ!」


セルビアと一緒なのが嬉しいのか、子犬はセルビアを見上げて鳴いている。


「じゃあご飯ができるまで、私の部屋に行こうか。こっちおいで!」

「はぅはぅ!」


セルビアがそう言って歩き出すと、移動することが分かったのか、置いていかれるのが嫌なのか、子犬はセルビアの足元にぴったりと寄り添ってついていく。

セルビアの歩き慣れた様子から察するに、森の中でもきっとあの調子だったのだろう。

セルビアが部屋に戻るのを見送った両親は、揃ってため息をついた。


「とりあえず、今日だけとは言ったけど、あの感じだと、このまま飼うことになりそうね」

「そうだな。とりあえず集落の上の方には事情を説明しておくか」

「その方がいいかもしれないわね」


特に集落で犬を飼うことは禁止されていないが、少し特殊な事情がある。

それに今まで集落で動物を飼う人はいなかった。

そのため許可を取るのがいいだろうと判断した父親は、夕食時、セルビアと顔を合わせる前に報告をしておこうと、ひっそり外出するのだった。



セルビアは子犬を部屋に連れ込むと、その体をわしゃわしゃと撫でた。


「お前はほんとにいい子だねー」

「くぅ〜ん」

「よしよし。夕飯はミルクだけで足りる?」

「くぅ〜ん?」


ちょっとした差ではあるが、先ほどより語尾が上がったので、よくわかっていないのかなとセルビアは思いながらも、さわり心地のいい犬をひたすら撫でまわす。

色々触っていると、胴体や頭に触られるのは良いらしいので、セルビアは触っても嫌がらない所をひたすら触る。

子犬はされるがまま、目を閉じて、時々気持ちよさそうにきゅぃ~んと鳴く。

セルビアはそうして夕食の時間まで温かくてふわふわした子犬の感触を堪能するのだった。



「あんなにあっさり飼っていいなんて、お父さんもお母さんも、さっきはあれだけ渋ってたのにどうしたのかなあ?」

「くぅ〜ん」


夕食時にセルビアが両親に頼みこむと、二人は呆れた顔をしながらも、きちんと面倒をみるならと飼うことを許可してくれた。

もっと長期戦になると思っていたセルビアからすれば、随分と早く許可が下りたので拍子抜けしたのだ。


「まあでも、これからも一緒に居られることになったんだし、いっか」

「わぅわぅ!」


そうだよと同意されていると感じたセルビアが、思いついたように子犬に語りかけた。


「そうだ、それなら名前をつけなきゃだよね……」

「わぅわぅ」


子犬はそう言った後、じっとセルビアを見上げている。

当然名前を考えるのはセルビアの仕事で、子犬は早く決まらないかなと言わんばかりに尻尾だけを動かして待っている。


「そうだなあ……。うーん」

「くぅ?」


唸っているセルビアに合わせて子犬が首を傾げるので、それを聞いたセルビアがその鳴き声を名前にするか聞いた。


「くう?それがいい?」

「くぅ〜ん」


寂しそうに鳴くので、どうやら少し不満らしい。


「違うの?じゃあ……、グレイ、グレイはどう?」

「わぅわぅ!」


セルビアの質問に今度は子犬が元気に吠える。


「グレイ、気に入った?」

「わぅわぅ!」


セルビアがもう一度確認すると、同じように嬉しそうな声で鳴く。

だったら決定でいいだろうとセルビアは子犬をグレイとすることにした。

念のため、名前がグレイということを教え込もうと、セルビアは子犬の名前だけを呼んでみる。


「グレイ」

「くぅ〜んくぅ〜ん」


セルビアに呼ばれた子犬は嬉しそうにセルビアの周りを回ってから、足元にすり寄った。


「そっか。じゃあよろしくね。グレイ!」

「はぅ!」


セルビアがそう話しかけると、子犬のグレイはセルビアを見上げて、ひと鳴きする。

セルビアはそんなグレイをまたわしゃわしゃと撫でるのだった。

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