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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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団長からの提案

セルビアが友人に自分の事情を相談した翌日。

宿に戻ろうとしていたセルビアに、団長が声をかけた。


「セルビアちゃん、ちょっといいかな」


突然呼ばれたセルビアは、自分が仕事で何かやらかしたのではないかと不安に思いながら返事をした。


「何でしょう?」


不安そうにするセルビアに、団長は笑いかけながら言った。


「立ち話もなんだから座って話そうか」


団長の言葉を聞いて先に反応したのはグレイだ。


「くぅ~ん?」


セルビアの足元少し前に立って顔をあげたグレイが首を傾げるような仕草をしながらじっと団長を見上げている。

団長はそんなグレイを見て、すぐに頭を撫でるとこう言った。


「グレイも気になるなら一緒に来るか?」

「わぅわぅ!」


グレイがもちろんと言わんばかりに元気な返事をしたので、セルビアはグレイに後押しされる形で団長についていくことになった。


「わかりました」


そうしてセルビアは団長と話をする事が決まった。



セルビアがどこに行くのか分からず緊張しながらついていくと、先ほど営業を終えたテントの売店の前のテーブルに案内された。

自分は店の周辺を片付けたら帰ってしまうのでこの時間にテントに来るのは初めてだったけれど、ショーを担当していた人たちはまだテントに多く残っていて、明日の確認や、片付けや掃除などを手分けして行っていた。

セルビアは皆が良いパフォーマンスを披露するため、日々努力しているのだなと、そちらに目を奪われていると、団長に早速座るよう促された。

とりあえずセルビアが着席すると、団長はその向かい側に座る。

それからグレイがセルビアの足元でまるまった。

改めて団長と向かい合わせになったセルビアは、現実に引き戻されて身を固くした。


「ここなら人の目があるから不安じゃないだろう。それに片付けで忙しいから彼らに話を聞かれる心配もない。って、そうか、ゆっくりとか言ったから説教かと思われたかな?そう言う話じゃないし、悪い話をしようとしているわけじゃないからもっと気楽にしてもらっていいよ」


団長の前置きを聞いたセルビアは思わず目を丸くした。

てっきり何かあったのだと思ったのだ。

しかしそれならばなぜ、団長の口調が固いのか分からない。

セルビアは不思議に思ってたが、次の一言でそれを理解した。


「小耳にはさんだんだが、もし行くところがなくて困っているんだったら、サーカスの巡業について来ないかい?そういう選択肢もあるって話をしようと思ってな」


団長からの思わぬ提案にセルビアは驚いて素っ頓狂な声を出した。


「え?いいんですか?」


セルビアにとっては嬉しい提案だ。

そして心配した友人が団長に話をしてくれたのだろうと察する。


「両親と仲違いをしているわけではないようだけど、宿に長期滞在しているってことは、何か家に帰れない事情があるんだろう?」


両親とはいたって仲がよさそうだった。

けれど、セルビアと一緒に住むことができないらしい。

毎日宿に顔を見せに来ているという話だから、仲が悪いわけでもないし、家が遠いわけでもないのだろうが、その理由は不明だ。

ただ、家庭にも色々事情がある。

セルビアが話したくないような事ならあえて聞く必要はない。


「そうなんです。ちょっと周囲と折り合いが悪くなっちゃったというか……」


セルビアの言い方だと両親というより、周辺環境の問題らしい。

そう言われたら何となく合点がいく。

住まいを変えなければならなかったくらいなのだから余程相性の悪い人間がいるのだろう。

ただその程度なら、ここでは瑣末なことだ。


「まあ、ここは訳アリの奴らも多い。だから互いに深いことは聞かないことにしてる。セルビアちゃんがその事情を話せる日が来たら、その時、話したい人に話せばいいし、逆に無理に他の人の事情は聞かないでもらいたい。ここで守ってほしいのはそのくらいだよ。セルビアちゃんがいい子なことはここでは働いてもらってよくわかったから、これからもそのままでいてくれたらいい。一度ご両親とも話をして、親御さんが問題ないというのなら、ということにはなるけどね」


セルビアの人となりは、一緒に働いていた期間で充分見てきたし、この子がサーカス団に入ったところで悪影響を及ぼすことはないことは分かっている。

それだけで充分だ。


「もちろんです。これからまたこの街で別の宿を探すのは大変だし、あまり同じところに長くいないほうがいいような気がするので……」


事情を聞かれない代わりに事情を聞かない。

それがここでのルールだという。

自分が周辺で不可思議なことが起こるという、周囲に信じてもらえそうもないような事を抱えているので、相手の事を聞かなければ自分の事を詮索されないというのはありがたいとセルビアは考えた。


「詳しくはわからないが、そういうことなら、一緒に来られるようご両親と話してみよう。事情によっては、力に慣れることも知恵を貸す事もできるかもしれない。一度ご両親に来てもらうか、こちらから伺って話をすることはできるかな?」


ひとところに長くいられない、犯罪者が逃げている時のような発言だが、セルビアに犯罪歴がないことは見ていればわかる。

そうだとすると、よほど粘着質な何者かにつけ狙われて困っているのかもしれない。

セルビアは器量もいいし、何よりいい子だ。

そこを変な者に目をつけられてしまったのなら、こちらでかくまってあげることくらいできるだろう。

もしかしたらグレイはそういう輩からセルビアを守ってきたのかもしれない。

そんなことを思った団長はちらっと視線をグレイの方にやったが、グレイはそちらを見向きもせず体を丸めて微動だにしなかった。



一方のセルビアは、団長の提案を前向きに考えていた。

サーカス団には多くの動物たちがいる。

もちろん、彼らは自分よりどう部たちと長く過ごしているし、動物というものについても博識だ。

もしかしたらセルビアの事情にも明るくて、ここにいる間にその対処法も身に付けられるかもしれない。

そうなればセルビアは集落に戻る事もできるし、ひとところに落ち着いて生活できるようになるかもしれない。


「はい。話してみます。よろしくお願いします」


セルビアはとりあえずサーカス団を頼ってみることに決めたのだった。


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