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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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宿と親との話し合い

セルビアとおかみさんが話をした翌朝、宿に来たのは父親だった。


「ああ、来たみたいだね」


珍しくおかみさんに迎えられた父親は、その第一声に違和感を覚えて、恐る恐る尋ねる。


「お世話になっております。あの、何か……」


慌てた様子ではないから、セルビアに何かあったわけではないようだが、他に問題が起きたのかもしれない。

何を言われるのかと、警戒していると、そこにセルビアがやってきた。

父親がセルビアに声をかけようとすると、それを遮るようにおかみさんが言った。


「ああ。今日はお父さんの方が来たようだね。ちょっと話があるんだけどいいかい?」

「もちろんです……」


いつもとは違って気さくな感じのないおかみさんの空気に気圧されながら父親がうなずくと、おかみさんはセルビアに言った。


「セルビアちゃんの部屋でもいいかね。あまりここで話す内容ではないからね」

「わかりました」


セルビアは簡単に了承したが、父親が心配して再度確認する。


「セルビア、部屋を使わせてもらうみたいだけどいいのか?」

「うん。お父さん。もちろんだよ」


もしかしたらおかみさんに言われて断れなかったのではないか、もし、セルビアが嫌なら自分が断ろうと思っていたが、本人は気にしていないらしい。

その上、セルビアは随分と落ち着いた様子だ。

そこから、セルビアがおかみさんからすでに何か説明を受けていることが察せられた。


「じゃあ、行こうか」


おかみさんの一言で三人はとりあえずセルビアの部屋に向かって歩き出した。



「おかみさんも話があるって言ってるから、一緒に入ってもらうからな」


部屋の前に着くと、セルビアがドアを開ける前に父親が再度、部屋を使うことを確認した。


「ここで話すんだよね。わかった」


セルビアはそう言うとドアを開けて二人を中に招き入れた。

通された二人は座るわけでもなく、とりあえずドアが閉まったところで三人は立ち止まる。

あまりに聞きわけのいいセルビアに、おかみさんは罪悪感を覚えたのか、肩を落とした。


「ごめんよ、セルビアちゃん」


そう言ったおかみさんに、セルビアは言った。


「昨日の話ですよね?」

「ああ、今日明日とはいかないだろうけど、早めにお願いしたくてねぇ」


二人は顔を見合わせて話をしているが、自分だけが分からない。


「あの、何の話でしょう?」


父親が尋ねると、おかみさんは大きくため息をついてから、それに答えた。


「悪いけど、ちょっと早めに退去をお願いしたくてね。事情があって、集落を出てきたって話を聞いてるから、こんな話をするのは心苦しいんだけど……」

「何かご迷惑をおかけしたのでしょうか?」


単刀直入に父親は切りこんだが、おかみさんはどう説明すべきか困った様子を見せる。


「いやね、セルビアちゃんと、グレイはいい子なんだけど、ああ、ちょうどいい、外を見てもらえるかい」


おかみさんが目をやった先に何か見つけたのか、そう言うので、父親とセルビアが外に目を向けた。


「これは……?」


父親からすれば前に自宅の庭で見たのと似たような光景で、今は見える木々にびっしりと鳥たちが並んでこちらを伺っていた。

それを見たグレイが外に出たがって窓の近くで鳴いているが、今はそれどころではない。

鳥たちも部屋の異変に気付いたのか様子を伺っているようだ。

多い時は窓の近くにも動物が寄ってきているらしいので、今日は離れているし少ない方だが、セルビアが原因でこうなっているとしたら、確かに迷惑だ。

グレイはともかく、他の動物はこの状況にさぞ怯えることだろう。


「なんかね、最近うちに泊まっているお客さんのための庭にたくさん動物が来るようになってしまってね、グレイがかまってるみたいなんだけど、それでも増えてきちゃってるみたいなんだよ。セルビアちゃんも懐かれやすいみたいでねぇ、セルビアちゃんが出ていくと動物たちが寄っていくんだ。最初は微笑ましいなって思っていたし、偶然だと思ったんだけど、このところ毎日でね、餌付けとかはしてないのは見てるから知ってるし、ビーストテイマーとかいう仕事の資質があるなんていいことだって思ったんだけど、動物たちはセルビアちゃんに呼ばれているわけではなくて、一方的に懐いてる感じみたいなんだよ。でもそれだと、セルビアちゃんではこの事態を収拾できないってことだろう?」


おかみさんはもしセルビアがこの状況をどうにかできるのなら、宿に近付かないようにしてもらえれば生活してもらっても構わないと思っている。

けれど制御不能な動物たちをたくさん集められては困る。

目の前の光景を考えたら、これがセルビアのせいではないと立証するのは難しい。

宿に長期滞在しているのがセルビアだけなのだからなおさらだ。

これは苦渋の決断だというおかみさんの説明を聞き終えると、父親はすぐセルビアに確認した。


「セルビアはどう思っているんだ?」

「確かに帰ってって言ったら帰ってはくれるけど、グレイ頼みになってるかな。特に餌をあげたりしてるわけじゃないし、私のところに来ているというのも、本当のとことは分からないんだよ。でも私の部屋に動物がくるみたいだし、私が部屋を代わっても同じことが起きないとは言い切れないから……」


諦めたように答えるセルビアに、おかみさんは申し訳なさそうに言う。


「セルビアちゃんはいい子だからさ、本人と、あとグレイもね、いてくれるのは歓迎なんだけど、他のお客さんの動物がこの状況を怖がってしまうし、長く続くと変な噂が立ってお客さんが減って、宿を続けられなくなっちまうかもしれないんだよ」

「それは、そうですが……」


これでは旅に連れている動物たちが警戒してしまって休まらないだろう。

動物を受け入れる数少ない宿だからグレイも一緒に受け入れてもらえたし、また同じような条件の宿を探すのは至難だ。

父親がどうしたものかと口ごもると、おかみさんがため息交じりに言った。


「本当はすぐにってお願いしたいんだけどね、いきなり追い出されても困るだろうから、行くところを早めに探してほしいってことを今日は伝えたかったのさ」

「退去するのは決定ということですか」


即日退去ではないが、出ていくことは決定事項らしい。

強制しないのが温情なのかもしれないが、こちらとしては住まいの代わりに長く滞在することを条件にしていたのだから寝耳に水だ。

またセルビアの滞在先を探すところから始めなければならない。


「まあ、そうしてほしいとは思っているね。前金でもらってるから申し訳ないけど、退去のタイミングで日割りでお金はもちろん返すから、早めにしてもらえるかい」


早めにと言われてもここを探すのにもそれなりに時間がかかった。

しかもこの街の宿はすでに探していていくつか候補に挙がっていたけれど、今回の宿はその中で一番条件が良かったところなのだ。

他の候補の宿に移動すれば、当然条件が下がってしまう。

しかしそのどこかで妥協をしなければならないのだろう。


「そうですか。すみませんが少しお時間はいただきます。ですが、次の行き先が決まるまではどうかお願いできませんか?」


とりあえず最終候補だった宿から再度検討する方向だが、そうすんなりと決まるものではない。

だからあえて宿を探すところからと言って時間を稼ぐことにしたが、それでも長くはいられないのだから、真剣に考える必要がある。


「それはいいよ。そのくらいしかできなくて申し訳ないんだけどね」


おかみさんが申し訳なさそうに言うのを聞いて、父親はとりあえず了承したとうなずいた。


「わかりました。セルビア、何かあったら教えるんだぞ」

「うん……」


良い印象を持たれていない状況の中、この宿に置いておくのは不安だが、今すぐ連れ出しても行く場所がない。

おかみさんも次が決まるまではいてもいいと言っているし、いきなり追い出したりせず、こうして話し合いの場を設けてくれたくらいなのだから、セルビアを邪険には扱わないだろう。

今はそのおかみさんの善意を信じるしかない。


「では私は失礼して、とりあえず妻と話をして、新しい場所探しをさせてもらいたいと思います」


父親が頭を下げると、新しい場所を探すという言葉を引き出したおかみさんは、とりあえず退去には応じてもらえると分かって安堵したように言った。


「ああ、それは助かるよ……。すまないねぇ」

「いえ……。こういう話になってしまったらセルビアも長くいるのは居心地悪いでしょうし」


父親がそう言いながらセルビアを見ると、セルビアは首を横に振った。


「私は大丈夫だよ。それより、お母さんと話をしなきゃいけないんでしょ?」

「そうだったな。それじゃあ失礼します」

「ああ、頼んだよ」


父親はとりあえず家に戻って母親にこの話を伝えると、早々に宿から出て言った。

セルビアもサーカスのテントで仕事があるので、のんびりはしていられない。

おかみさんにそう言うと、分かったと言って、いつも通り仕事に戻って行った。

そしてこの話を引きずったまま、セルビアはサーカスのテントに向かうのだった。

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