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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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宿の異変

「グレイ、これって集落にいる時と同じ感じかな」


基本的に集落では家にいることが大半だったので、動物をよく見かけたし、その都度対処もしてきたが、今回は少し事情が違う。

どうやらいない時にもここに来ているらしいのだ。

だから動物たちが、セルビアがいると思ってきているのか、この場所が気に入っているから来ているのかは分からない。

ただ、セルビアがいる場所を動物が気に入ってしまうということはあるのかもしれない。

おかみさんに聞かれた内容について部屋に戻って考え始めたセルビアが、近くにいるグレイにそう声をかけると、グレイは落ち込んだ様子で鳴いた。


「くぅ~ん」


何となく最初の時に庭から追い払っていたから間違いないと思っていたけれど、やはりグレイは、これがセルビアがいるから起きている現象と判断しているらしい。

だからこそ、先日庭に来た動物たちを懸命に追い払ったのだろう。


「そっか、やっぱりそうだよね。でも私にはどうする事もできないんだよなぁ……」


そう言ってため息をついたセルビアのところにグレイは寄ってきて、セルビアの手に顔をすりよせた。


「くぅ~ん」


グレイは何があっても側にいてくれるらしい。

セルビアはすり寄ってきたグレイの頭をなでながら言った。


「グレイがいてくれてよかったよ。とりあえずお父さんかお母さんに宿の事を相談しなきゃいけなくなっちゃったね」

「くぅ~ん」


セルビアがそう言うと、もっと頭をなでろとグレイが首を振って催促した。


「わかったわかった。ありがとね」

「わぅわぅ!」


セルビアはグレイの催促に応じるように、体をかがめると、頭だけじゃなくて全身をわしゃわしゃとなでまわした。

グレイは気持ちよさそうに目を細めてじっとされるがままだ。

そのためセルビアはしばらくそれを続けて、とりあえず気持ちを落ち着かせることができた。



そうしてついに、おかみさんから話をされる時が来た。

おかみさんが、動物たちがやってくる原因はセルビアたちにあると判断したのだ。

こうなる予感はしていたけれど、それが現実のものとなったことにセルビアはがっかりすることになる。


「セルビアちゃんが悪いってわけじゃないんだけどね、こう、他の部屋の動物たちに提供するための庭を、他の動物たちがずっと占拠するような状態だとこっちの影響が大きいんだよ。もちろんすぐにとは言わないけど、どこか新しい行き先を考えておいてくれないかい?」


全ての部屋の客が入れ替わっても動物たちはやってくる。

こうなってしまうと原因は長期滞在をしているセルビアにあるとしか思えない。

もともと動物も一緒に泊まれる宿を売りにしているので、そこまで目くじらを立てるものではないと思っていたけれど、宿泊客の動物達に不愉快な思いをさせるわけにはいかない。

ここにやってくる動物たちが、他の動物にちょっかいをかけているわけではないが、数が多かったり、あまりそういったものと接することなく生活している動物にとって、他の動物はいるだけでストレスがかかってしまう。

動物にもしっかりと休息を取らせるには、宿泊客と関係ない動物たちが来ないようにしなければならないのだ。


「私ではどうしていいかわからないので、両親に相談していいですか?」


ここを出て行くにしても両親への相談が必要だし、次に行くところを探さなければならない。

急な話だし後ろめたいところはあるものの、これまで努力してこの条件を勝ち取ってくれた両親のためにも路頭に迷うわけにはいかないし、何より自分には勝手に出て行くことを決める決定権がないのだ。


「ああ、それはそうだね。しっかりしてるからつい忘れちゃうけど、セルビアちゃんはまだ子供なんだよねぇ。もしセルビアちゃんがいる時間に話せるんだったら、一緒の席にいたらいいよ。知らない所で自分の話を勝手に進められるのは嫌だろう?」


おかみさんは、セルビアの申し出を受け入れて、とりあえず話は親を巻き込んで話をするという。

相手は子どもなのだから、本来ならばすぐ追い出すこともできる。

しかし一方的にセルビアを責めずにいてくれるのは女将さんの良心だ。

セルビアもグレイも悪いことはしていないので、責められても困るだろう。

これで、彼らが動物たちに餌付けしたりするようなら別だけど、そうはしてないし、グレイに至っては追い返す側に回っている。

どちらかといえばクレームを出さないだけで、迷惑がっているのは明らかだ。

それにもし、セルビアにだけ伝えて追い出したとして、本当に解決する話かどうかわからない。

あくまで、他に原因が思い至らないというだけなので、もし間違いであったら、宿に起こった事象の責任を客の一人になすりつけた宿ということになってしまうし、後々両親から訴えを起こされるかもしれない。

とりあえず、親と話をして、最低でも合意の上で退去してもらうのが、一番穏便に済ませる方法だろうと考えたのだ。


「すみません」


自覚のあるセルビアとしては、根拠はない者のこの事象が起きている原因が自分にないと強く否定することはできない。

結局それが原因でこうして宿の生活を強いられている。

ただ、今回のことを知られたら、ますます集落に帰る道は遠のいてしまうのは間違いない。


「いや、こっちこそ悪いね。セルビアちゃんたちに遊びに来てもらうのはいいんだけど、こう連日続くと、さすがに他のお客さんが離れていっちゃうことになってね、つぶれちまったら困るんだよ」

「そうですよね……」


さすがに自分のせいではないですよねとしらを切り通せるほどセルビアは強くはない。

大人たちにお前のせいだと言われてしまったら、それに反論する力はないのだ。


「そういう訳なんで、ご両親のどちらかは毎日ここにきてるだろう?セルビアちゃんはサーカスの仕事に出かけちゃうかもしれないけど、ご両親のどちらかが来たら、ちょっと話をしてみていいかい?」


おかみさんの中では、とりあえず親と話をすることが決定事項になっているらしい。

そもそもこの宿を決めたのは両親だし、お金を支払っているのも両親だ。

滞在している自分で決めたことは何もないのだから、大人たちで話しあってもらった方がいいだろう。


「はい。お願いします。私では決められないし、どうしたらいいか分からないので、」


今すぐ出ていけという話にならず、セルビアはとりあえず安堵したが、退去はほぼ確定しているので、行くところを探さなければならない。

仕事も見つかっていないしどうするのがいいか。

セルビアは新たな悩みを抱えることになるのだった。

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