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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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ビーストテイマーという仕事

セルビアの感じていたことが現実になるのにそう時間はかからなかった。

サーカスで働くようになり、宿での生活にも慣れた頃、宿の庭に小さな変化が現れた。

集落の庭の時のように、部屋の近くに動物が訪ねてくるようになったのだ。

グレイが一度追い払ったその日以降、そこにセルビアがいることを発見した動物たちが尋ねて来ている、そんな感じだ。


「ねぇ、セルビアちゃんの連れはグレイちゃんだけだよね?」


おかみさんに突然そう尋ねられたセルビアは、きょとんとして質問に答えた。


「そうですけど……」


そう答えてからセルビアが足元のグレイを見ると、グレイもセルビアを見上げている。

一度互いに顔を合わせると、セルビアとグレイは意思疎通でもしたかのようにおかみさんに視線を向けた。


「いやね、お客さんの部屋の前をうろうろしてる動物を見かけたんだけどね、誰も飼ってないっていうからさ、セルビアちゃんのところの子かもしれないと思ったんだけど、違うんだったら、やっぱりどっかから紛れ込んできただけってことだね。もし宿泊してるお客さんの子を間違って追い出しちゃったらまずいからさ。悪かったね、引き止めて」


もちろんセルビアの連れはグレイだけなので、グレイの事を申告してあるが、他の動物の事は関係ない。

だからおかみさんも、黙って招き入れたりはしてないだろうとは思っていたそうだ。

当然それは他の宿泊客に関しても同じことだけれど、まれに宿を取った後で連れが増えても申告し忘れている人がいるらしい。

そんな中、セルビアが最後の確認になったのは、セルビアが長期滞在をしていて、他の動物を中に入れたのを見ていないからだ。

要は疑われていなかったのである。

しかし今後、それらの動物を、積極的に追い出すという対応を取りたいから、念のためセルビアを含め全員に確認してるんだと、大きく笑いながらおかみさんが言うので、セルビアも自分にできることはしますと答えた。


「いえ、大丈夫です。私も見かけたら、できるだけ帰ってもらうよう頼んでみます」


そんなセルビアの言葉に、おかみさんは感心しながら言った。


「なんか、こう、セルビアちゃんに言われたらそれに従って帰っていくなんて、たまに語られるビーストテイマーとかいう職業の人みたいだね」


確かにセルビアが帰ってほしいと言うと、その言葉を理解しているのか、すぐにそこにいた動物たちが離れていく。

でもそれは彼らが聞きわけて行動してくれているのであって、セルビアに特別な力があるわけではない。

動物たちが賢いだけだとセルビアは思っている。

サーカスの子たちは団長さんや団員の指示に従って芸を見せることができるし、セルビアの一番近くにいるグレイも場をわきまえることができる賢さを持っているので、他の動物もグレイほどではなくともそういう理解ができるものだと考えるようになったのだ。

その話はともかく、セルビアは初めて聞いた職業に驚いて、それが何かと尋ねた。


「びぃすとていまぁ、って何ですか?」


取り合えずその職業について教えてほしいと頼むと、おかみさんもあまり詳しくないと言いながら、知っている事を話してくれた。


「私も本当にその職業だって名乗っている人には会ったことないんだけどね、何でも動物たちを従えることができる職業らしいよ」


動物たちを従えるというと芸を仕込んでいるサーカスのイメージに近い。

本当にそうだとしたら、もしかしたら自分も団長さんたちのように、動物たちにステージで芸を見せることができるようになるのかもしれない。


「そんな職業があるんですね」


セルビアは少し認識違いをした状態で納得していたが、おかみさんがその勘違いに気付くことはなかった。


「セルビアちゃんは動物に好かれるみたいだから、もしそういう職の人の弟子になったら、大成できるかもしれないね」


職業というのだから、技術を磨くためには、どこかに弟子入りが必要になるかもしれないという。

それこそまさにサーカスのイメージだ。

サーカスでは団員と言っているけれど、彼らも動物たちと一緒に生活しながら、先輩に世話の仕方や芸の見せ方なのを学んでいくと聞いている。

そうして団員はステージに出られるようになって一人前ということだ。

ちなみにステージに立たない面々、売り子たちはそういったことはしないらしいけど、希望すれば学ぶことができるらしい。

しかし彼らは、ステージに立つことはなくても、ずっと一緒にいるので動物たちとの関係は良好だし、面倒をみる事もあるそうなので、動物に関わる機会は他の仕事より圧倒的に多くなる。

だから動物たちも家族だとサーカスの皆が口を揃えるのだ。

もしこの街にそういう職の人がいたら、そこで働きたい。

そうしたら次にサーカスの皆がこの街に来た時、もっと役に立つことができる。

何より動物が好きなセルビアには合っていそうな職だ。


「初めて聞いたので想像つかないですけど、もしそういう仕事があるんだったら考えてみたいと思います」


働けても売り子や食堂の給仕等の仕事になるだろうと思っていたセルビアにとって、サーカスもかなり目新しいものだったけれど、他にもそういったあまり知られていない職業があるらしい。

たくさんのお客さんを見てきたおかみさんだからこそ、そういう知識が豊富なのだろう。


「まあ、そもそも噂程度にしか聞かない職だからね。本当にいるかもわからないし、その人がそう名乗るのかどうかも分からない。珍しい職業だから隠しているかもしれないからね。現実的ではないかもしれないけど、セルビアちゃんを見てたら何だかそんな噂を思い出しちまったよ。時間取って悪かったね」


おかみさんはそういうと、仕事に戻っていった。



それからも頻繁に動物たちは宿にやってくるようになった。

そしてどういう訳か、最初はいろんな部屋の前に現れていた動物たちがセルビアの部屋を特定したのか、セルビアの部屋のドアの前や、庭に出るための一番近い窓当たりに集中するようになってきたのだ。

最初は好意的に見守っていてくれた宿のおかみさんも、流石に連日のことになると良い顔をしなくなっていった。

セルビア達が部屋にいる時は、気がついたらすぐにグレイが追い払っているので、長時間滞在させることはないし、一定の対処できているけれど、どうやらいない時も動物たちは宿にやってきているようで、その時はおかみさんや、他の動物を連れた宿泊者が対応しているらしい。

いないときに来ているのがセルビアのせいかどうか定かではないが、やってきた動物たちがセルビアの部屋の周辺をうろついていることから、セルビアが原因ではないかという憶測を生むことになるのだった。

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