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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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友達

「あのさ、もうすぐサーカスはここを離れて移動しちゃうと思うんだけど、もしまたここで興行することになったら、働いてくれる?」


セルビアは、ここで働き始め、その環境に慣れてしまったことで忘れかけていた事を、彼女の言葉で思い出した。

ここでの仕事にも慣れてきたし、何も言われないからずっといられるような気になってしまっていたけれど、サーカスはいずれこの場所から別のところに移動してしまう。

そうなれば街に残るセルビアとサーカスの皆とはそこでお別れすることになる。

そもそもお試しでの採用だったし、その後も他で職を得る際に有利になるようにということで、継続して働いて仕事というのが何たるかを学ばせてもらうことになっただけなのだ。

働くのに夢中だったため、そのことを意識していなかったセルビアは、その現実を思い出すと、すぐに頭を冷やした。


「それは、団長さんに聞かないとわからないよ」


セルビアが冷静な口調でそう言うと、彼女はうなずいた。


「確かにそうだよね。もうすぐ戻ってくるから聞いてみればいいね。それで、セルビアちゃんとしては働く意思があるってことでいい?」


もしもまた、サーカスがここに来たら働いてくれるのかと、再度同じ内容で意思の確認をされたセルビアは、とりあえずそれを受け入れることにした。


「うん。その時どうなってるか分からないけど、できたら嬉しい」

「わかった」


サーカスの仕事が終わったらセルビアはまた仕事探しをしなければならない。

今度は短期間の仕事ではなく長期間の仕事に着く必要があるため、慎重に選ぶことになるけれど、さすがにサーカスの興行が次にこの土地に戻る時、セルビアはどこかしらで定職についていることだろう。

彼らが戻ってきて、また自分を受け入れてくれると声をかけてもらえたのはとても嬉しいけれど、その時に働いている職場がそれを認めてくれるかどうかは別だ。

ここで約束をすることはできない。

それに、その時団長が自分を受け入れてくれるかどうかわからないし、もしかしたら次回は応募が殺到して、そもそもセルビアの手が必要ないかもしれない。

けれど声を掛けてくれたことは、自分がここでしている仕事が認めてもらえたということなのでとても嬉しいと感じていた。



そしてそれとは別に、セルビアには思うところがあった。

でもこれは自分のわがままかもしれない。

ずっと言い出すタイミングを見計らっていたけれど、なかなか言葉にできなかったことがある。

正直、こんなことを言われても迷惑なのではないかとも思ったが、次にいつ会えるか分からないし、ここで話しておかなければまたタイミングを逃してしまうかもしれない。

せっかく巡ってきたチャンスなのだからと、セルビアは勇気を振り絞って彼女に打ち明けた。


「実はね、私、今まで、同年代の子に友達がいなかったんだ。集落では色々あって、こうやって話をすることができなくて。だからここにいる間だけでも友達でいてくれたら嬉しいな」


近々離れることになってしまう相手だから、ずっとというわけにはいかない。

彼女は話上手だし、あちらこちらの街にセルビアのような話相手がいることだろう。

だけど今だけでいいから、友達として接していきたい。

セルビアはそう願ったのだが、彼女は一瞬何を言われたか分からないといった感じだったが、少ししてその内容を理解したのか笑いだした。


「何言ってんの?もう私たちは友達だよ。だから、ここにいる間って言うけど、離れて立って会えないだけで友達だし、またここで興行する時、もし別の仕事をしてて働くのが無理でも、遠慮しないで会いに来てほしいな」


彼女はセルビアが別の仕事を始めたらここで働けない事もきちんと理解してくれていた。

その上で、また、一緒に働けたら嬉しいし、働けなかったとしても友人として自分に会いに来てほしいという。


「わかった。それを楽しみに待ってることにする」


今まで友達と呼べる相手がセルビアだけれど、離れても彼女はずっと友達でいてくれるらしい。

自分は集落かこの街から動くことはできないので、待つことしかできないけれど、待っていてもいいと言ってくれるのは心強い。

セルビアがそんなことを思っていると、彼女ははしゃいだ声で言った。


「でもよかった!私からすればサーカスの団員は、皆家族だけどさ、セルビアちゃんと同じで同年代の友達っていないんだよね。短期間で働きに来る人の大半が、セルビアちゃんのお母さんと同じくらいの年の女性でさ、こうやって毎日話をしたくてもなかなか話が合わないし、友達って言うのとも違うなぁって。皆いい人だし、子供みたいに可愛がってくれるんだけどね。だから本当に同じ年くらいの子が一緒に働いてくれるって聞いて嬉しかったんだよ」


彼女の言葉をきいて、サーカスの環境を思い起こすと、確かにそうかもしれないとセルビアは感じた。

サーカスが興行している時間、ほとんどの街の人が仕事をしている。

どうしても手が空いていて仕事に意欲的なのは、家庭の事情で仕事を離れた主婦層になってしまう。

そして彼らは本人より、自分の両親との方が年齢が近いのだから、相手も親目線で話をしてくることが容易に想像できる。

親とまでは行かなくても、やはり相手の方が年長者になるし、彼女の立場では手伝ってもらっているというスタンスになるので、悪い人ではなくても、あまり居心地はよくないのだろう。


「そうだよね。私もよくしてもらってるけど、他の団員さんは年が離れてるから、友達って言うのは違うなって思ってたよ」


今回はセルビアが手伝いに入っていたのもあって、他の手伝いの人は採用していなかった。

だからセルビアが通常採用されるだろう人たちと話すことはなかったけれど、それよりも年齢が近いだろう団員の人たちを思い浮かべれば、彼女の気苦労が容易に想像できた。


「本当はセルビアちゃんといろんなところを回れたら楽しそうだなって思ったけど、セルビアちゃんは事情があって今は離れて生活してるとはいえ、この街の近くにちゃんと家族がいるんだもんね」


自分と同じように、行くところがないのなら一緒に回ろうと誘いたかったんだけど、と、彼女に言われたセルビアは、今後の事を思い浮かべながらため息をついた。


「うん。でもいつになったら一緒の生活に戻れるか分からないし、集落から街に来たのも初めてのようなものだったんだけど、他にもたくさんの街があるんだって聞いたら、いつか他の街にも行ってみたいなって思ったよ」


ここにいると他の街の事を耳にする機会が多い。

前の街はこうだったという雑談もそうだが、次に行く街についての情報なども飛び交っている。

セルビアはそんな団員達の話をこっそりと聞いては彼女にいろいろと教えてもらっていた。

そして街に行くことだけにこだわる集落という環境が、いかに狭く浅いものだったのかを理解したのだ。


「そうなんだ。いつか叶うといいね」

「そうだね」


サーカスと別れても、自分が自由に動けるようになったら、もしかしたら自分が初めて行く街で彼らとで会えるかもしれない。

そんな楽しみが増えたとセルビアが語ると、二人で顔を見合せて笑うのだった。

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