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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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就職活動のアドバイス

そうして数日働くうちに、カウンターで販売をしている人だけではなく、団員とも少しずつ顔見知りになっていった。

団員は年上、大人が多いので、セルビアの友達という訳にはいかないけれど、皆とても良くしてくれている。


「セルビアちゃん、よく頑張ってくれてるし、来てくれて助かってるよ。ありがとう」

「こちらこそありがとうございます。もうすぐ開演ですよね。頑張ってください!」


そんな感じで気易く声をかけてもらえるようになり、セルビアも彼らに手を振って返すまでになっていた。



「ねぇねぇ、本当にはじめてお仕事したの?良く気が利くし、やってなかった人とは思えないよ。結局作る方もばっちりだし、もうここを一人で任せられるくらいだよ」


手の空いた時間、すっかり仲良くなったフードカウンター担当の女の子がセルビアに話しかけてきた。


「そうかな。両親は外で恥をかかないようにって家の手伝いをするよう厳しく言われてたから、それが役に立ってるのかなとは思うけど……」


家の外に出してもらえなかった上、手伝いだけは過剰にさせられた。

それは一人で暮らす時のためと言われてきたし、そうだと思い込んでいたけど、実は仕事でも役に立つスキルだったようだ。

今までは、閉じ込められて家のことをずっとさせられているのが苦痛で仕方がなかったけれど、いざ外に出たら、役に立ってるし必要なことだったので、少し考えを考え方を改めようと思い直した。


「たぶんそうだと思う。でもそれだけできるなら、ここに来る前でも普通に働いたりできたんじゃない?前にさ、集落から買い物にも行かせてもらえなかったって聞いたけど、とても信じられないよ」


前に雑談をしていた時、集落にいる間は街にも一人で行かせてもらえず、それができないことで嫌な思いをしたのだという話をしたことがあった。

その話を聞いて、最初は箱入り娘ならそんなに仕事はできないだろうなどとサーカス側は考えたのだが、それが杞憂だっただけではなく、想像以上にセルビアが優秀だったので、実は驚いていたのだ。

もちろん本人は自分のいない所でそんな話題が出ているとは知らされていないけれど、仕事ぶりを目にすれば、充分役に立っていることはすぐ理解できた。

だから逆に、なぜ両親がそこまでセルビアに集落から出ることを禁じていたのかが分からない。

もしかしたら病弱だったとかそういう理由かもしれないが、現在のセルビアはすでに一人で暮らしながらこうして働いているし、買い物も一人でしているようだ。

だからできないことを理由にしたものではないと思われる。

そのギャップの大きさに眉をひそめているものも多いのだ。


「事情があって、今まで集落から長く出て歩くことができなかったんだ。でも今度は一人で生活しなきゃいけなくなっちゃって」


まさか森に行ったら動物たちが大量に押し掛けてくるようになったとは言えない。

宿にもグレイを飼うことを反対されたため集落を追い出されたことにしてあるので、ここでもその言い訳を使った方がいいだろうとセルビアは考えて、その内容で説明する。


「へぇ~。なんか極端だなぁ。色々大変だったんだね」

「うん」


曖昧な部分の多い説明をしたにもかかわらず、彼女はそう言って特に深くは追求しないでくれた。

サーカスにいるメンバーは色々な事情を抱えた人が多いからあまり互いを詮索しないのだと聞いていたけれど、本当にそうなのだとセルビアは安堵する。


「まあ、細かい事情は置いといて、とにかくそのくらいできるんだったら、お食事処の給仕とか、そういったところでも働けると思うから、心配しなくてもいいと思うよ?」


もともとサーカスには職業体験のような形で入ってきている。

しかもトラを助けたという縁があってのものだ。

だからセルビアに至らない所があってもサーカスの人たちはセルビアに注意ができないのではないかと内心思っていた。

それにセルビア自身、他の仕事の経験がないので、自分のしていることが仕事として問題ないのか心配していたところだったのだ。


「本当?」


思わず聞き返すと、彼女は繕う様子もなく答えた。


「うん。やったことがないから不安って言ってたけど、それだけやってくれたら充分だと思う。ここでも軽食作るのを手伝ってもらったし、他のところで働く時は、その事も話したら調理の方にも入れてもらえるかもしれないよ」


セルビアなら給仕の仕事と、簡単な調理補助の仕事ならできるだろう。

そして、前歴を聞かれたらここで働いてた時に、カウンターで給仕に似た仕事をし、中で調理もしていたと伝えると、採用されやすいのではないかという。

初回はともかく、前歴を説明するなら嘘のない程度に誇張した方がいいし、セルビアみたいに謙遜するのは損だという。


「そっか。とりあえず働いていけそうってことが分かってよかった。それにしても詳しいんだね」


セルビアが感心していると、彼女は笑った。


「そりゃあね。だってここで仕事を教えるのが私の仕事でしょう?当然、前歴のあるっていう人もたくさん来るんだけど、その人たちの言ってた内容とか聞いてさ、それから実際に動いてもらうから、彼らがどのくらい誇張してくるかはよく分かってるつもりだよ。大変はできない人が多いんだ。だからセルビアちゃんみたいに本当にできる人が来るとありがたいなって思う」


同じくらいの年齢だけど物心ついた時からここにいて、いろんな町のたくさんの人を見てきた。

だから人を見る目はそれなりに養われているという。

その自分が太鼓判を押すんだから堂々としていてほしいと彼女が言うので、さすがに褒めすぎではないかとセルビアが照れる。


「そうかな……?」

「だから自信を持っていいんだよ!」


彼女が元気にそう言うのでセルビアも前向きに考えることにした。


「わかった。次の時は頑張ってみる」


もし集落にいたら、ここで職業体験をさせてもらえていなかったら、いつまでも自分は何もできないと思って、なかなか仕事を前向きに探せなかったかもしれない。

それに集落の同年代の子たちは、買い物自慢はしているけど実際に働いている子はいないので、彼らといてもそういった話は出て来ない。

仮にそういう子が出たなら、おそらく本人が周囲に自慢するだろうし、あの狭い集落の中ならあっという間に広まって、さすがにセルビアの耳にも入っているはずだ。

元々仲がいい訳ではないので、どちらにしても本人と話すことはなかったかもしれないけど、全く比較できるものが何もない状態だったのだ。

それが急にこのような話になって不安だった。

でも今は違う。

こうしてちゃんと自分を認めて、その評価を教えてくれる人がいるのだ。

厚かましいと思いながらも、あの時、勇気を出してここで働けるようお願いして良かった。

セルビアはそんなことを思うのだった。


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