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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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グレイの友達

セルビアがグレイと一緒に檻の中に入ると、トラは格子から離れて、セルビアの近くに寄ってきておとなしく座って体を丸めた。

グレイはトラの正面、顎の近くまで歩いて、足と足の間まで移動すると、そこに座ってセルビアを振り返る。


「グレイ、そこに行けばいいってこと?」

「わうわう」


セルビアがそう言うとグレイはそうだと返事をする。


「わかったよ」


厳密にどこに行けばいいか分からないので、とりあえずグレイの隣、トラの正面にセルビアが立つと、トラは顔を摺り寄せてのどを鳴らした。


「トラさん、元気そうでよかった」

「わぅわぅ!」


顔を寄せてきたトラの顔をもしゃもしゃと撫でていると、グレイも元気な声をあげてトラのお腹辺りに顔を寄せる。

どうやらグレイもトラとの再会を喜んでいるようだ。


「グレイもふわふわだけど、トラさんもふわふわだ」


顔から首周りを撫でまわしているとトラが気持ちよさそうに目を細めた。


「ぐるぅ~」


セルビアはそんなトラの様子に安心しながら、首輪を見た。


「首輪も緩めだし、傷は、ちょっと毛がはげちゃってるけど、きれいに治りそうでよかったよ」

「ぐるぅ」


セルビアが傷を避けて首元を撫でてると、ゴロゴロと喉を鳴らす。

こうなると人懐っこい大きな猫だ。



「トラさんはグレイと仲良くしてくれてるの?」


時折グレイの方に顔を向けたり、何やら意思疎通を図っているように見えたセルビアが、答えが返ってこないことを知りながら尋ねると、二匹はセルビアの方に視線を向けて声を揃えた。


「がうぅ~」

「わうわう!」


セルビアはそんな二匹を見て、とりあえず肯定してくれているのだと察して声をかける。


「そっか、よかった。よく考えたら、今までグレイに友達いなかったもんね。私が連れて歩いてるから周りは人間ばっかりだったし」

「くぅ〜ん」


セルビアがそう言うと、グレイはセルビアを気にかけるようにしょんぼりとした声を出した。

グレイはセルビアが好きだから一緒にいるので気にしていないのだが、セルビアとしては自分が集落を出てしまった時、尋ねて来ていた動物の友達と引き離してしまったと気にしていた。

もしかしたら自分についてきてくれたけど、仲間と交流ができる環境の方が良かったのかもしれない。

でもグレイが残っていることで集落に動物が来てしまったら、自分の疑いは晴れるかもしれないけど、その代わりにグレイも捨てられてしまっていたかもしれないので、一緒に出てきたのは正解だったと思っている。

実際、動物たちはセルビアに会いに来ていてグレイは追い払うために吠えていたのだが、セルビアからは違うように見えていたのだ。

だからグレイにこうして会いに来られる友達ができたことを喜んだ。


「トラさん、これからもグレイをよろしくね」


セルビアはそう言うと、トラとグレイをそれぞれ片手で撫でたのだった。



二匹と会話をしているセルビアを微笑ましく見ていた団長が、この街に来る前から不機嫌だったトラの機嫌がすっかり良くなったのだとセルビアに感謝を伝えた。


「こいつはセルビアちゃんたちに会ってからずいぶんと機嫌がいいんだよ。それと、あれから、もしかしたらかなり前から苦しいのを我慢させてたのかもしれないなあって反省して、他の動物たちのも確認した んだ」


サーカスの動物たちは野生のこと区別する意味もあって首輪をつけている。

基本的にはそこにリードをつけられて行動が制限されているようだけれど、ショーの時やこうして檻に入っている時は首輪だけにしてもらっているらしい。

でも首輪は付けっぱなしになっているので、きつくなっても外されることはなく、動物が我慢していたこともあって気付けなかったようだ。


「他の子たちは大丈夫だったんですか?」


今回、最初助けを求めてきたのはトラだったが、他の子も同じ状態だったと聞いたら心配だ。

セルビアが尋ねると、団長は問題なかったと丁寧に説明した。


「ああ、でもちょっときつくなりそうなのもいたから、緩めたのもいるんだけど、傷になったりはしていなかったよ。でも、確認しなかったら同じようなことになってたかもしれない。こいつに関してはしばらく機嫌が悪かったにもかかわらず気付いてあげられなかったんだ。本当にありがとう」

「いえ、私だってトラさんが脱走してこなかったらわからなかったし、教えてくれたのはおさるさんやグレイだから」


そもそもサーカスから帰る時、サルがグレイに伝えなかったら自分がトラと会うことはなかった。

グレイに無理矢理引っ張っていかれたから、正面からトラと向き合うことになったのだ。


「ああ、そうだな」


団長がグレイに感謝を伝えようとすると、横から元気よく団長に何かが飛びついた。


「キッキー」


その声ですぐに来たものが何か分かったセルビアは、檻の中から団長の方に乗っているサルに声をかけた。


「あ、おさるさんも来たんだね。こんにちは」

「キー!」


サルは返事をしてくれたし、今日もちょこちょこと動いていて元気そうだ。

そんなことを思いながらふと、先ほどの話を思い出す。


「おさるさんも、グレイとお話できるのかな。しばらく毎日来るからよろしくね」

「わぅわぅ!」

「キッキー」


どうやらセルビアの考えは正しかったらしく、こちらの二匹も意思疎通が図れるらしい。

ここに来ている間、彼らとグレイが少しでも一緒にいられたら、もしかしたら退屈しないで済むかもしれない。


「そうか、トラだけじゃなくて、うちの動物たちとグレイは仲良くなってくれたんだな。ショーの時はこの辺にいられても出入りが多くて邪魔になるかもしれないから困るけど、休憩の時なんかはグレイもこっちに来ていいぞ。その方が退屈しないだろう」


団長がそう言うと、グレイはセルビアの方を見上げて首を傾げた。


「いいんですか?」


グレイの代わりにセルビアが尋ねると、団長がうなずいた。


「何なら仕事前と仕事上がりに二人で会っていけばいい。グレイはセルビアちゃんの側がいいみたいだからな」

「わぅわぅ!」


返事の感じでは、どうやら団長の意見の方がグレイにとっては最適解らしい。

トラも喉を鳴らしているし、サルも団長の方に乗っかって飛び跳ねてるので、きっと喜んでくれているのだろう。

仕事の時間に合わせて来るとゆっくり面会できないので、早く宿を出発することになるけど、それでグレイが喜んでくれるなら早く出るくらい大したことではない。

セルビアは翌日から団長に言われた通り、早めに来て、グレイと一緒に動物たち控室を訪ねることを決めたのだった。

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