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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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売り子の募集

「セルビア、何かあったの?」


果物のカップを持ち帰ったセルビアが少し暗い表情をしていたため、それに気がついた母親が心配そうに聞く。

旅周りをしているサーカスですら家族のように過ごせているのに、自分たちはそう見せているだけで離れて暮らしている。

環境が許さなかっただけで、仲が悪いわけでもないし、グレイがいても寂しくないわけではない。

だから少し、常に大勢で過ごすサーカスの人たちを羨ましく思ってしまった。

自分は、これからすぐ、両親と別れて一人の生活に戻らなければならない。

彼女との話でそんな現実を思い出してしまった。

それが不満のようになって顔に出てしまったのかもしれない。

せっかく一緒に過ごしている貴重な時間なのに、もったいない。

セルビアはそんな感情を抑えて、慌てて首を横に振った。


「ううん。何でもないよ。それよりデザートまであるなんてびっくりしたよ」


そう言ってカップをテーブルに置くと、それを見た母親が笑みを浮かべた。


「あら、おいしそう」

「飲み物もらおうと思ったんだけど、こっちをおすすめされたんだよ。一人一個くれるって言われたんだけどお腹いっぱいだし、持てないから二個にしてもらったんだ。二個を三人で分けても多いかもしれないと思って」


実際すでに食事をお腹いっぱい食べていたので、さらに追加でお腹に入れるのはきつい。

でも果物ならさっぱりするし、飲み物の代わりと考えれば入らないことはない。

カップに入っているけれど、フルーツの盛り合わせは見得ている部分だけでも華やかで食欲をそそる。


「本当ねぇ。それにしてもずいぶんといただいてしまったけれどよかったのかしら?」


しっかりと食事を取った上にデザートまで出てきたのだから、不安にもなる。

本当なら軽食を、本当に少しもらったらお暇するつもりだった。

しかし最初の食事の時は団長さんがいたし、遠慮が認められる空気ではなかったので、しっかりと食べることになったのだ。

もちろん皆がこんなにもらうなんて申し訳ないと口にしたけれど、話を聞いているうちに遠慮する方が失礼かもしれないとセルビアは考えるようになっていた。

特に売り子をしている女の子の話を聞いて、自分がもし家族を助けられたら同じようにするだろうと思った事も大きい。


「大丈夫じゃないかな。家族を助けてくれてありがとうって言われたし」


セルビアがそう言うと父親は取りあえず納得してくれた。


「結構しっかりといただいたから、こちらとしては申し訳なく思うところだが、問題ないだろう。それにしても珍しい果物だな」


話を変えようとカップに目をやった父親が、見慣れない果物に気がついてそう言うと、セルビアは売り子が説明してくれた内容を伝えた。


「なんかね、前に立ち寄った街で購入した果物を次の街で出してるんだって。だからきっと次の街では、ここの名産が出されるんじゃないかな」


それを確認する術はないけれど、ここに別の街の珍しい果物が出ているのだから、きっと同じように用意されるだろう。


「なるほどな。客は珍しいものが食べられて、街は宣伝してもらえる。それならぜひ立ち寄ってほしいって彼らに声をかけたくなるのもわかるな」


街でこの広さの場所を提供するのだから、それなりに街にも見返りがなければならない。

客寄せになるのはもちろん、場所代を払ってもらえる以外に、街の宣伝を担ってくれるのなら、歓迎されるのは当然だ。



そんな話をしながら果物に刺してくれたピックを使って三人が果物を食べていると、ショーを終えた団長が三人の方に向かってきた。


「あ、団長さん!」


最初に気がついたセルビアがそう言ったので両親はそちらを向く。

そして慌ててお礼を伝えた。


「お言葉に甘えて、たくさんいただいてしまいました。かえってすみません」


まだ残っているフルーツを一度置いて頭を下げると、追加注文していることに満足したのか、団長は嬉しそうに笑った。


「いえいえ、こちらこそこんなことで済ませてしまって申し訳ないくらいですよ。家族団欒の予定だったのでしょう?」


流れでこちらに呼んでしまったけれど、本当は別の予定があったのではないかと団長が尋ねると、父親が慌てて首を横に振った。


「家族団欒についてはそうですが、ここでゆっくりさせてもらえて助かりました。サーカスがどのくらい並ぶか分からなかったので、その後どこに行くかは決めていなくて、食事をするところもこれから探そうと、そんな話をしていたところだったので」


父親の言葉にウソはない。

だから母親もセルビアもただうなずいていたけれど、その様子をしっかり見ていたのか、団長が安堵して息を吐いた。


「少しでもお役に立てたのならよかったです」



そんな会話を聞きながら、セルビアがあることを思い出して言った。


「あの、団長さん、カウンターにある募集なんですけど……」


セルビアがそう切り出すと、団長はすぐに思い当たったのか、内容を確認する。


「ああ、販売の売り子の件かな?」

「はい。さっきお話を聞いたら一日からでもできるって。私働いたことがないから、経験してみたいなって思って」


セルビアだっていつかは働きに出なければならない。

確かに集落の同年代の子はまだ働き始めていないけれど、さっきの売り子の女の子はどう見ても同年代だった。

自分が働き始めるまで、宿代などの負担を周囲にさせているらしいことは聞いているので、集落の人たちからすればセルビアが早く働いてくれた方がありがたいだろう。

仕事がすぐに決まるとは限らないけれど、その足掛かりになればいいとセルビアは考えたのだ。


「セルビア?」


母親が突然何を言い出すのかと慌てて止めに入ると、セルビアは言った。


「だって、これから私は仕事を探さなきゃいけないでしょう。でも未経験よりは経験者の方が決まりやすいと思うんだ。それに働くってどうしていいかわからないから、とりあえずやってみた方がいいのかなって」


セルビアの主張を横で聞いていた団長は、それならば働いてもらいたいと申し出た。


「そういうことでしたら歓迎しますよ。本当に一日しか来られない人にも手伝いをお願いすることがあるので、不安でしたら一回働いてから続けるか決めてもらってもいいですし、この街で生活しているのでしたら、長くても私達がここを離れる時までになると思いますし」


セルビアが旅周りに同行するのなら別だが、そうではないのなら難しい仕事はない。

仮に一緒に同行するなら、仕事はその中で覚えていけばいいので、どちらにしてもそんなに苦労することはないはずだ。


「じゃあ、まずは一日、お願いします」


セルビアがそう言うと団長はうなずいた。

両親もさすがに双方が合意しているので止められない。

そうしてセルビアは、とりあえずサーカスで一日職場体験をすることが決まったのだった。

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