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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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サーカス観覧

サーカスが行われるという広場にはすでに多くの人が詰め掛けていた。

空き地だったはずの広場には、地面を覆わんばかりのテントが張られていて、中からは歓声が聞こえてくる。

まず、数日前まで空き地だったはずの場所に、こんな大きなものが短期間で作られたことに、セルビアは驚かされた。

そしてそれらを少しでも見えないかと思っている人たちや、気になるけれど入場するのを躊躇っている人たちが、入口が動く度中を覗こうと躍起になっていたり、次のショーで中に入るために列を成して待っている人がいたりでごった返していた。

そんな中でも目立つ元気な声が、当たりに響く。


「次の回をお待ちの方は、こちらにお並びくださーい!」


こちらという声を聞いて、セルビアたちは顔を見合わせると、その声に誘われるようにそちらへ向かった。

すると声を出していた女性以外にも案内をする人の姿があり、三人は迷わず列に並ぶことができた。


「すごい人だね」


列に並んだら後は入れ替えの時に前の人に続いて進むだけだ。

ようやく落ち着いてセルビアが当たりを見回すと、父親は苦笑いを浮かべた。


「滅多に見られるもんじゃないからな。貴重な機会を逃したくないのは皆同じなんだろう」

「そっか」


サーカスというのは、多くの人が珍しいと思うものなのだろう。

母親は会話に入る事もなく周囲を見回したり、テントの方を見たりしては今か今かと待ち遠しい様子でそわそわしている。

グレイはこの人ごみを見ても動じる様子はなく、大人しくセルビアの横にくっついて、時々体を足にすりつけてくるだけだ。



しばらく待って案内に従い中に入ると、そこには街とは違う空間が広がっていた。

昼間なのに太陽の光がないからか灯りが灯されていて、お客さんが座る席が用意されていた。

少し離れた一角にはテーブルのある席があって、そこでは食べ物も出されているらしい。

食べ終わる前に始まってしまわないか気になっているのか、テーブル席の人たちは飲み物や食べ物を片手に談笑しながら時折ステージの方を気にしている。

食べ物は決まったカウンターで購入して、テーブルに自分で運んでいく仕組みのようで、開いたテーブルにはすぐ次の人が座る大混雑だ。

席にはすでに荷物だけが置かれているところがあるので、買い物をしている人たちは事前に荷物を置いてキープしているのだろう。

そして購入した人の中には、テーブルを使うのを諦めたのか、席に持ってきて食べている人もいる。

そういう人たちは飲み物だけだったり、片手で食べられるようなものを持っている。


「セルビアも何か食べるか?」


父親に聞かれて、セルビアが答えようとすると、母親が言った。


「もうすぐ始まりそうだから、飲み物だけの方がいいかもしれないわ。サーカスが終わったら、ここを出て食事の方がいいわ。せっかく三人で久々に会っているんだもの。ゆっくりしたいじゃない」

「そうだね。私も飲み物だけでいいかな」


セルビアも少し喉は乾いている気がするけど、お腹がすいているわけではない。

なので母親の意見に賛成した。

すると父親は席を取っておいてほしいと二人を残して、いいところを見せようと張り切ってカウンターへと走って行くのだった。



父親が飲み物を持って席に戻るとほどなく演目が始まった。

三人は飲み物を片手に、それらを食い入るように見つめる。


「本日はようこそお越しくださいました。存分にお楽しみください」


そんな男性の前振りが終わると、すぐに男性と女性が踊り始めた。

その間に何か後ろの方で準備がなされているので、彼らの踊りが終わったらきっと動物達が出てくるのだろうと、客席にいる誰もが期待に胸を膨らませる。

そうしてダンサーが退場すると、そこに残されたのは二人の人間だった。

彼らは色のついたロープを持って立っている。

そこに今度は着飾ったサルが出てきて、人が両手に持って張ったロープの上を器用に歩き始めた。

端から反対の端に向かいながら、そこで飛んだり跳ねたりしている。

その度に感嘆の声が客席から漏れる。

サルは端まで渡り終わると、人間のように礼をして、今度は回されたロープの中に入ると器用にそれを飛び始めた。



こちらがそれらに見とれている間に、次の演目の準備ができたらしく、サルが退場すると、人間の背丈よりも高い所に貼られたロープの上にいつの間にか華やかな衣装をまとった人が乗っているのが見えた。

ロープは建てられた柱にくくりつけてあるので、人間も押さえているが、それは補助的なものだと分かる。

そして皆の注目がそこに集まったのを確認してか、今度は先ほどのサルと同じような動きを人間がして見せた。

そしてパフォーマンスをしながら張られたロープを渡り切ると、今度はそこに用意されたロープにつるされた棒のようなものにぶら下がって、離れたところにある似たようなものに乗り変え始めた。

その際もただ手を離して移るのではなく、大きく体を回転させたり、とにかく動きが華やかだった。



その後も色々な動物が出てきた。

ソウと呼ばれる鼻の長い動物が、その鼻で玉を転がしたり、重たそうな車輪の継いだ台車を引っ張ったりする芸を披露し、馬が大きな玉に乗ったり、馬の上に犬が乗って、さらにその上に先ほどのサルが乗ったり、なぜかそこに突然鶏が現れて、犬の上でサルと喧嘩になり笑いを誘ったりと、アクシデントなのかショーなのか分からない場面もあったが、どれを見ても目を奪われる楽しいものばかりだった。



「こちらが最後の演目です」


そう案内があると、ほどなく大きなトラが出てきて、用意されているつるされた銀色の輪を器用にくぐった。

それだけでもすごいと感心していると、視界をしていた男性が火のついた松明のようなものを持ってきてその輪に近付けた。

すると輪は一瞬で炎に包まれる。

客席がそれに驚いていると、彼はトラに、先ほどと同じようにその輪をくぐるように指示を出した。

皆がトラの方に注視し、会場は一気に静かになる。

注目を浴びている事を理解しているのか、気迫のようなものがより増したところで、トラは助走をつけて火の輪に飛び込んで行く。

そうしてトラがその火の輪を臆することなく潜り抜けると、会場からは大きな拍手が響くのだった。

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