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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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新しい生活

宿での生活を始めて数日、特に夜はさみしく感じることもあったが、それを察してか、グレイが横に寝てくれていたので、 セルビアはさみしさを紛らわしながら過ごすことができていた。

グレイは番犬としても優秀で、宿の部屋を間違えた酔っ払いなどが来て、鍵のかかった部屋のドアに苛立ち蹴飛ばしていくような客が来ると、ドアの 向こうにも聞こえる大きな声で吠えてくれる。

すると、その声を聞いたおかみさんが、酔っ払いを本来の客室に案内するためやってくる。

ドアの外から、悪かったねとおかみさんは声をかけてくれるので、セルビアも大丈夫だとそれに答える。 奥の部屋とはいえ一階の部屋であるため、食堂から階段もなくたどり着いてしまうからそういう深夜の迷い人が来るのは仕方がない。 最初は怖いと思ったけど、鍵を壊されることはないし、何よりグレイがいてくれるので安心だ。



そうして宿での生活が始まってからというもの、両親のどちらかは約束通り毎日宿に顔を見せに来てくれた。

そして、部屋で色々話をしたり、足りないものを確認したり、持ち込んでくれたりして、名残惜しそうに帰っていく。

もしかしたら一緒に住んでいた時より話をしているかもしれない。

そうしてセルビアは宿の生活に馴染み、落ち着いたところで、とりあえず宿の手伝いを率先して行うようになった。


「セルビアちゃん、こっちはちゃんと宿代もらってるんだから、そんなことしなくていいんだよ?」


食堂で遅めに朝食を取ったセルビアが、後片付けの手伝いをすると申し出て、何となくおかみさんが頼んだところ、それを毎食、毎日行うようになっていた。

数回の好意ならありがたく受け取るが、長期利用をしているお客さんに毎日そんなことはさせられない。

それにこのままだと宿の従業員に間違われかねず、他の客に絡まれてしまう可能性もある。

セルビアは宿からすればあくまで客の一人なのだ。


「でも、これからしばらくお世話になりますし、グレイの出入りがしやすいように一階の端のいいお部屋にしてもらっちゃってるし、ひと月まとめて支払ってるからって少し安くしてもらってるって聞いてるし、少しくらいお手伝いしないと申し訳ないですよ」


母親にも、長くお世話になるのだからできることは手伝った方がいいと言われている。

すでに家の手伝いは一通り叩きこまれていたので、こういう作業はお手の物だ。

お金をもらっての仕事としてはわからないけど、お手伝いとしては役に立てると自負している。

すでに生活空間になってしまっているので自分から申し出て部屋の掃除は自分でしているけれど、それ以外は今のところ食堂の掃除は食事の後片付けのついで程度のことしかしていない。

ただ普段からセルビアが女の子であることを理由に、細かいところまで気を使ってもらっている事を知っていることに感謝しているので、こうしてできることがあるのは嬉しいのだ。

今もセルビアは、布巾を借りてテーブルの汚れを落としているだけだし、洗い場に入り込んだり調理を手伝ったりしているわけではない。

食堂は家より広いし、もちろんテーブルの数も多いけれど、でもそれだけで、この程度の事は毎日していることだ。

それに手伝いをできるのは最初のうちだけだ。

仕事が決まって宿から働きに出るようになったら、あまりできなくなる。

だからこれは今しかできないし、感謝の気持ちなのだとセルビアが伝えると、おかみさんはため息をついた。


「ひと月まとめ払いは他の旅の人たちにもしてることだし、気にしなくていいんだよ。まあ、こっちは助かるからいいんだけどね」


こういう気遣いはありがたいが、同時に申し訳ないという。

おかみさんの言葉に、セルビアは自分が迷惑になっていないか心配したけれど、そうではないらしいと分かると、継続を希望する。

家でも手伝いをさせられていたので何もしない方が落ち着かないのだ。


「邪魔じゃなければお手伝いするので言ってください。お仕事が見つかるまでの間になっちゃいますけど……」

「じゃあ、お言葉に甘えようかね」

「はい!」


そうしてセルビアは客でありながら、宿の従業員の一部のような居場所を手に入れたのだった。



そしてセルビアは落ち着いてから始めたのは、街の散策だ。

今まで買い物に来ても常に両親が一緒だったので、欲しいものを伝えて、それがある店に連れていかれるか、元々予定していた物を購入するくらいしかできなかった。

だから他の子たちが買い物のついでにお店に立ち寄ったとか、買い食いをしたという話を羨ましく思っていたのだ。

セルビアは制限を受けていたためにできなかったそれらを叶えながら、同時に仕事探しも始めていた。

求人の出ているところは歩く度に発見しているが、どうせなら多くの情報を見て選び、良いところで働きたい。

両親の話では、セルビアが働き始めるまでは援助があるという。

しかし逆に考えれば一度働き始めたらそれがなくなる可能性が高ということだ。

それでもセルビアが集落に戻れる可能性は低いので、宿を継続して利用することになる。

つまり、職についてから仕事が合わないからとすぐに辞めてしまったら、生活が困窮する可能性もあるのだ。

だから求人情報に書かれていることだけを鵜呑みにせず、仕事探しは慎重に行おうと、セルビアはグレイを連れて毎日違う区画に足を向けては求人を探して回った。

どうもグレイは良い店と良くない店の区別が付くらしい。

ダメなところで立ち止まっていると早く行こうと服を加えて引っ張ってきたり、良さそうなところで立ち止まっていると、すり寄って機嫌よく尻尾を振っていたりする。

時にはセルビアが見落としている求人が気になるのか、そういうところがあると足元をぐるぐる回って足止めをしようとしたりする。

護衛のつもりで連れてきているけれど、グレイは野生の勘で求人まで気にしてくれる。

セルビアはできるなら街を歩く時はグレイと一緒にいたいので、グレイとの出勤を許してくれるところがいいと考えていた。

だからこそセルビアは、自分だけではなくグレイが良いとアピールしている職場から選ぶつもりだ。

日数はかかるけれど落ち着いて比較するため、即決することなく、それらの情報を歩きまわって集めて行くことにしたのだった。


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