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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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宿到着

「うちの子がお世話になります」


セルビアとグレイを連れて無事に宿に到着した母親は、入口で出迎えてくれた宿のおかみさんにそう言って頭を下げた。

それに習ってセルビアも礼をする。

グレイはくぅんと一度挨拶代わりに小さく鳴いてから、じっとおかみさんを見上げて大人しくしている。


「事情は聞いてるよ。とりあえず荷物もあるんだ、部屋に案内するよ。一緒に来ておくれ」


セルビアを部屋に案内するとおかみさんが先に歩き出そうとしたところで、母親が声をかけた。


「あの、私も……」


母親は自分が宿泊者ではないので入っていいかどうかわからないと躊躇っていたが、それを察したおかみさんがいち早く答えた。


「ああ、これからしばらく、お嬢さんが使うことになる部屋なんだから、場所も知っといた方がいいだろう。中に入る時に声をかけてくれるんだったら、別にいつ様子を見に来てくれてもいいからね。とりあえず」

「ありがとうございます」


おかみさんは母親の希望にいち早く気がついて、子どもが心配なのは当然のことだから遠慮することはないという。

そして周囲に人がいないのを確認すると、おかみさんはため息交じりに言った。


「動物を飼うことを集落で反対されて追い出されたんだろう?聞いてるよ。ここは動物を連れた旅人が多く泊まる宿だから、安心して一緒に過ごしておくれ」

「ありがとう、おかみさん」


本当はそういうものではないのだが、犬を連れていることもあり、滞在の理由をそういうことにしたのだろう。

セルビアは空気を読んで、素直におかみさんにお礼を伝えた。

おかみさんは満足そうにうなずくと、セルビアの足元にくっついている灰色の犬を見下ろし、少し品定めをするように観察してから、問題なさそうだと判断してこう付け加える。


「ああ、それと、きれいに使ってくれるんだったら、この子も部屋まで上げていいからね。あとは周りのお客さんに迷惑をかけないでくれたら充分だよ。この子が外にいる仲間と一緒のほうがいいっていうんだったらまぁ、最初から外でもいいけどさ」


おかみさんはグレイを部屋にあげていいという。

女の子一人の宿泊は危険が伴うこともあるため、もし番犬として役に立つというのなら、犬を部屋の中に入れておいたほうが、彼女の身も安全だし母親も安心するだろうと配慮しての申し出だ。

セルビアはそれを聞いて、素直にグレイに質問を投げかけた。


「グレイ、どうする?」

「くぅ〜ん」


聞かれたグレイはセルビアの足に体をこすりつけ、じっとセルビアを見上げて近くにいたいと訴える。

その仕草が捨てられそうになっている子犬のようで、体は大きくなったけれどまだまだ寂しいのだろうことが察せられた。

その様子を見たおかみさんは賢い子だと言いながら大きく笑った。


「この子はお嬢ちゃんと離れたくないようだね。じゃあ、いい子にするんだよ!」

「わん!」


おかみさんが一緒にと言ったのを聞いて意味を理解したのかグレイが元気にひと鳴きすると、まるで会話が成立しているようだとおかみさんは嬉しそうにグレイに話しかける。


「いい返事だね。じゃあ部屋に案内しようか」

「はい、お世話になります」


おかみさんがグレイから視線を上げてセルビアたちを見てからついてくるように言うので、母親とセルビアとグレイは周囲を確認しながらおかみさんの後を追うのだった。



「しかしまあ、集落の連中もまあ、ビリビリしてるねぇ。犬くらいいいと思うんだけど。うちは番犬になるような犬とか、馬車の馬とか 一緒に過ごせる宿だから、気兼ねなく過ごすといいさ。ただ、他の動物たちともうまくやってもらわないといけないけどね。もちろん、 危害を加えるような動物は中に入れないから安心しとくれ」


街から離れた場所にある集落の事情は理解できるとはいえ、犬を連れているくらいで追い出すなど、彼らの心は狭い、嘆かわしいといった様子でおかみさんは言った。

同時にこの宿なら旅人が護衛代わりに、狩人が相棒として犬をよく連れてくるから、他のお客さんの連れてきた子たちとうまくやってほしいという。


「はい。動物さん好きなので大丈夫だと思います」

「そうかい。それで部屋はここだよ。長期滞在するんだったら奥の部屋のほうが落ち着くだろう。一階だけどこの一の部屋は窓が 二つあって明るいしね。宿の入口から一番遠いし、そっちの窓から庭に出て犬と遊んでもいいからね。ああ、でも施錠は忘れない。 ようにしとくれよ。他の動物が庭から入り込むかもしれないからね。まあ、その動物が人間だったら、声を上げてくれたら私が叩き 出してやるよ。そういう客には容赦しないから遠慮するんじゃないよ」


困ったことがあったらいつでも声をかけてくれていいとおかみさんは言う。

できるだけ迷惑はかけないように気をつけるつもりだけれど、こう言ってもらえていると本当に困った時は頼っていいのだと安心できる。


「ありがとうございます」


セルビアがお礼を口にし、母親も頭を下げる。

おかみさんは、そもそも宿をやるならそのくらいのことができないと言いながら、頭を下げてから自分の後をついてくる母娘と犬を見る。


「まあ、この犬は番犬として優秀そうだし、大丈夫だと思うけどさ。この子……」


犬とずっと呼んでいたので名前を知らない。

聞き忘れていたことに気がついて言葉を止めると、セルビアが犬の名前を伝えた。


「グレイっていいます」

「そうかい。グレイ、お嬢ちゃんをしっかり守るんだよ」

「わぅわぅ!」


おかみさんがグレイを頼りにしていると分かったらしく、グレイは嬉しそうに尻尾を振って任せてと言わんばかりに元気に吠えた。


「本当にいい返事だ。いい子だねえ」


何となくおかみさんもグレイの言いたいことが分かってきたらしい。

その上でグレイいい子だと褒めてくれるのでセルビアは親ばかのようなことを口にする。


「はい。グレイはとってもいい子なんです」


ちょうど部屋の前に就いたので、セルビアの言葉をおかみさんは申し訳なさそうに断ち切って、説明を始めた。


「お部屋はここを使ってもらうことにしたよ。それで、これが部屋の鍵だ。せっかく部屋に案内したところ悪いんだけど、荷物を置いたら鍵をかけて出てきておくれ。他の場所も案内するから」


部屋を一通り見るのは後、二人が食料や荷物を抱えているので場所の案内がてら部屋を最初に案内したけれど、ここで長く生活をするのなら水場や食堂の場所、使用時のルールなども教えておかなければならない。

鍵を手渡してからそう言うと、すぐに案内するため、廊下にいるから荷物だけを置いてきてほしいという。


「お願いします」


母娘はそう言うと、おかみさんによって開けられたドアの向こうに入っていった。

軽く見まわして二人は問題なさそうなところに荷物を下ろす。

グレイはドアのところに立って二人の邪魔にならないようじっと様子を伺っている。

そして数分もかからないうちに部屋から出ると、セルビアが使い方の確認を兼ねて部屋に鍵をかけた。

それを確認したおかみさんは、問題なさそうなら行こうと、次の場所への案内のため、前を歩きだしたのだった。

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