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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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出立

「準備はいい?忘れ物はない?」


玄関先とも言える場所で、出かける前の確認をする母親にセルビアは元気よく返事をする。


「うん」

「もし宿で荷物を広げてみて足りないものがあったら言ってちょうだい。しばらくは毎日宿に行くようにするから、その時に言ってくれたら持っていくわ」


そもそも本人が希望して家を出るわけではない。

ましてや準備も間に合わない急な事態だし、何よりまだ子どもであるセルビアを一人、外で生活させなければならないというのは心配でならない。

宿を使うからある程度安全とはいえるが、いざという時自分たちが駆けつけることができないのだ。

そんな理由で、しばらくは両親のどちらかが一日一回、宿に様子を見に行くという。


「ありがとう」


自分のせいでこんなことになっている可能性が高いのに、気を使ってくれる両親に感謝の言葉を伝えると、母親は首を横に振った。


「お礼なんていいのよ。本当ならあなたはここにいていいはずなのに、こんな形で出ていかなきゃいけなくなってしまったんだから、せめてそのくらいはさせてほしいわ。それに、いつまでも子ども扱いして、ちゃんとこういうことになるかもしれないと伝えなかった私たちが悪かったのよ」


本当は両親も分かっていたのだ。

セルビアは手伝いもできるし、お使いくらい簡単にこなせる事を。

そして聞き分けのいいセルビアに甘えて、説明もせず我慢させてきた。

本当なら説明すれば済んだかもしれないのだ。

それをまだ子供だからと、都合のいい理由をつけて説明しなかったことを、この一件で深く反省したのだと、何度も謝る。


「確かに知ってたら一人で外に言ったりはしなかったと思うけど、それじゃあ何の解決にもなってなかったと思う。それにいつかはこうなってた気もするし」


もしそこで説明されてセルビアがそれを聞きわけて外に出なかったら、それはそれで問題だ。

大人になっても何もできないままになっていたかもしれない。


「本当にごめんなさいね。せめて子供たちがセルビアにあれこれ言わなければ、不愉快な思いをさせずに済んだかもしれないのに、それすら止められなかったわ」


本人は希望もしていたしできる能力もあったのに、こちらの事情でそれを止めていた、

それによってセルビアが嫌がらせを受けていると知ったのも、かなりの時間が経過してからだった。

今回、それもあって補償を勝ち取ったわけだが、それをセルビアは知らないし、そこで得たものはこれからのセルビアの生活に使われるものだし、セルビアの傷を癒すものではない。


「もういいよ、言っても仕方がないことでしょ?」

「それはそうだけど……」


後悔を口にすればきりがない。

このままではいつまでも終わらないと判断したセルビアは、両親を安心させるように宣言する。


「とりあえず毎日遊びに来てくれるんだし、夜はさみしいかもしれないけど私も頑張るから。宿に慣れたらすぐ仕事も探すし。それより早く行かないと日が暮れちゃうよ」


玄関先で荷物を持って話し始めて随分と時間が経っている。

このままだと夕方に出発することになり、帰りは真っ暗になってしまうだろう。

セルビアがそう言うと母親が同意した。


「そうね。一人で買い物どころか、それを一足飛びにいきなり就職させなきゃいけないなんて、本当にふがいないけれど、セルビアなら大丈夫だと信じているわ。じゃあ行きましょうか」

「うん。荷物いっしょに運んでくれてありがとう。また、戻ってこられたらいいな」


セルビアがそうつぶやくと、父親もそのために努力をすると言う。


「戻ってこられるようにするさ」

「お父さん……」

「せめてここでお見送りさせてくれないか。それにしても、本当に大きくなったんだな……」


もう買い物に行けないような子どもではない。

そこに少し寂しさを感じながら父親が言うと、セルビアは笑いながら言った。


「お父さんも落ち着いたら宿に遊びに来てくれるんでしょう?」

「ああ、もちろんだとも」


こんな父親でも行けば喜んでくれるらしい。

それならば通おう。

セルビアの一言でそう決める。


「じゃあ大丈夫だよ。とりあえず行ってきます!」


深く考えたわけではないけれど、セルビアがそう言うと、帰ってくるからこそ別れの言葉を使わなかったのかと、父親は深読みして笑って出かけていく二人を送り出す。


「いってらっしゃい。気を付けるんだぞ」

「はーい」


父親に送りだされたセルビアは、母親と一緒に家を出た。

別れの挨拶をするのでグレイと一緒に街に行くのかと思っていたけれど、セルビアが安全に森を抜けられるのか不安があるし、お世話になる宿に挨拶もしておきたいということで、母親が同行することになったのだ。

当然のように母親と一緒に歩いていれば何も起こらない。

そしてすっかり人に慣れたグレイが、母親の反対側、セルビアの横にぴったりとくっついて歩いている。

そしてセルビアは、生活するとはいえ最小限の、自分で運べる量の荷物を自分で持って量脇を守られるように移動することになった。

そして母親は宿へのご挨拶のためにと用意したものと、当面セルビアが困らないようにと比較的簡単に食べられる食料を抱えている。

もし消費する前に帰ることになったら食べ切ってしまうなり人にあげるなりすればいいだけだ。

その荷物の量は、セルビアがすぐに戻れる事を信じていることの表れだ。

そうして長くはない道のりを、各々が色々考えながら進み、ついに目的の宿に到着するのだった。

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