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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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別れの時

どうにか気持ちを切り替えたニコルは、翌日からセルビアと普通に接した。

セルビアも最初は心配そうにニコルの様子を伺っていたけれど、朝食で話しかけられていつも通りとわかると、調子を取り戻す。

そうしてセルビアとニコルは通常通り仕事をこなした。

たまにセルビアは牧場や両親と面会したりしていたので、ずっと一緒にいられたわけではないけれど、夜はテントに戻ってきて、もうすぐ最後となるテントでの生活を優先してくれた。

だからいつもより意識してニコルはセルビアと一緒にいることができた。



いよいよこの街での興行も最終日を迎えた。

その日の夜は皆でいつも通り円になって食事を囲む。

本当なら宿に泊まれる人たちも集まって、皆がセルビアとの別れを惜しんだ。

同じように最後の一夜を明かして、朝食も囲む。

興行テントの積み込みなどはすでに終わっているので、食事を終えたあとは、生活用のテントを畳んで乗せるだけだ。

食事の時間が終わり、大人たちがその作業に取り掛かることになったため、セルビアとニコルは邪魔にならないよう隅によってその準備を眺めていた。

二人になったけれど何を話していいかわからず、しばらく黙って並んでいたが、ニコルがセルビアに声をかける。


「セルビアちゃん……」

「なに?」


セルビアがニコルの方を向くと、覚悟を決めたのか真剣なまなざしを向けて言った。


「今度近くに来たらお家に遊びに行っていい?」


ニコルの申し出にセルビアはこわばった表情を緩めてうなずいた。


「もちろんだよ。良かったら泊まってって!ここからだと遠いけど、お休みの前の日とか、宿の代わりに使ってくれたら嬉しいよ」


ニコルがお別れしても友達でいてくれることに安堵したセルビアがそう言うと、ニコルも離れたことで友情が途切れるのではないかと心配していたのか、セルビアの泊まりに来てほしいという言葉に笑みを浮かべた。


「手紙も書くよ!」

「待ってる。私から出しても届けばいいんだけど……」


定住するセルビアのところに手紙を出すのは簡単だ。

けれど旅をして動き回るテントに手紙を届けるのは難しい。

本当なら近況をやり取りしたいが、ニコルからの一方通行になってしまいそうだとセルビアが肩を落としていると、そこにいつの間にか近くにいたマダムが言った。


「それならニコルの手紙に私たちがいつどこにいるかわかる限り書いておけばいいんじゃないかい?手紙を出すときにそこまでどのくらいかかるのか聞いて、タイミングを合わせて出す必要はあるだろうけどね」


興行の日程はかなり先々まで決まっている。

ついて歩くだけでいいセルビアたちはそこまで考えていなかったが、団長はかなり前から依頼を受けているはずだし、決まっていなければ興行先の宿の予約もできていないはずだ。

宿が決まっているなら、興行期間中に届くように手紙を出して、そこで団員の誰かに受け取ってもらってもいいということになる。

多少早く着いても、後に到着することが分かっている客人宛の手紙なら預かっていてくれるはずだ。


「そっか。さすがマダム。そうするよ。そのくらい大したことじゃないもん」


出す時にどのくらいで届くかは確認できるから、もし間に合わないのなら次の街に宛先を変えて出せばいい。

それだけでニコルとやり取りができるなら、その程度の手間は些末なことだ。


「そうかい。ニコルに手紙が届いたら、ここにいる皆がセルビアちゃんは元気にしてるってわかるから、ちゃんと受け取れるようにするさね」


内容を見なくても手紙が届けば元気にしていることはわかるし、きっと手紙を読んだニコルが食事の時間に喜んで皆に近況を伝えるだろう。

だからその宿にニコルが泊まっていなくても、サーカス宛にしてくれたらちゃんと届くはずだとマダムは言う。


「うん。あと、マダムの料理、いつもおいしかったよ。ありがとう」


食事の時に言いそびれていたと思い出し、慌ててセルビアはマダムにそう伝えた。


「嬉しいこと言ってくれるねぇ」


マダムはニコニコしながら少し寂しそうにしている。


「皆も親切にしてくれてありがとう」


片付けを終えてこちらの様子を見ている団員の大人たちにもセルビアは改めてお礼を伝えた。


「セルビアちゃんはもう家族でしょ?テントにだって遊びに来ればいいし、この町にいる時はまた売り子してくれてたら嬉しいな」


ニコルの言葉に周囲の大人がうなずく。


「ありがとう」


セルビアがそう言って頭を下げたところに、団長が手綱を持ってやってきた。


「そうだセルビアちゃん、こいつにもお別れをしてやってくれるかい?」

「トラさん!」


頭を上げるとそこにはトラがいた。

お別れを理解しているのか、セルビアに近づくとセルビアの体に顔を摺り寄せてくる。

そんなトラの頭をなでながら、セルビアはトラに話しかけた。


「トラさんとキキが私と皆をつないでくれたんだよね。寂しいけどまた会いに来るからね」


セルビアがそう言いながらトラとの別れを惜しんでいると、団長が言った。


「もしこっちに来る余裕があったら、セルビアちゃんのところの敷地を貸してもらえるかい?さすがに興行をそこでするわけにはいかないし、興行中は難しいが、牧場の空いているところに住居テントを立てさせてもらえたら、数日は一緒に過ごせるだろう。街に入る前か後の数泊になるが、皆の休暇に合わせればゆっくり過ごせる。場所を使わせてもらう代わりに皆で力仕事を手伝えると思うし、ご飯くらいテントで一緒に食べたらいいさ」


全員でセルビアの家に押しかけるのは無理だから、今日までのようにテントで円になって一緒に食べようと団長は言う。


「本当に?そうしてくれたら私も嬉しいな。でも辞めちゃってるのにテントに入っていいのかな……?」


テントは団員しか入れない決まりだ。

例外として団長が許可した客人などが入ることはあるけれど、セルビアの家族ですらテントの中には入れなかった。

そのくらい厳しく制限しているところなのに、辞めたセルビアが入っていいのかと不安そうに言うと、ニコルが驚いたように声を上げる。


「いいに決まってるじゃん。ダメなんて言う人、ここにはいないよ!」


ニコルの言葉に周囲を見回せば、皆が同じ意見だと首を縦に振っている。


「うん、ありがとう」


セルビアはここを辞めてもサーカス団のメンバーに家族の一員として扱ってもらえるらしい。

目の前のトラのおかげで素晴らしい家族が増えていたのだなと、セルビアは思わずトラに抱きついた。



トラと一緒に動物たちを移動させる檻に向かったセルビアは他の動物たちとも別れの挨拶をした。

トラがそこに乗せられて、人間が出発のために馬車の荷台に乗り込んでいく。


「またね!」


ニコルは動き出してからも荷台から顔と手を出して、大きく手を振っていた。

セルビアも負けじと体を大きく使ってそれに答える。

そうしてセルビアは空き地で街を去るサーカス団を見送った。



見送りが終わるとそこには空き地と、足元のグレイたちが残された。

寂しい気持ちはあるけれど、それに浸っている時間はない。

セルビアは荷物を持って牧場に近い街の門に向かう。

そこで両親のどちらかが待っていて、これから生活する牧場までついてきてくれることになっているのだ。

こうしてサーカス団を離れたセルビアは、新しい生活拠点となる牧場へと向かうのだった。

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