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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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門出の応援

少し落ち着いて考えれば、これまでだって多くの人が出入りしてきた。

セルビアは事情があって一緒に来ているけど、本当なら両親だって元気で健在なんだし、いつ退団したっておかしくない。

向こうの受け入れが整って引き取りたいと言われたら、おそらくセルビアはここを去ってしまう。

それは当初からわかっていたけれど、まさかそれ以外の形で分かれる可能性があるということは考えていなかった。

家族とは暮らさないけど近くに家を買うなど、ニコルの想像の範囲を超えていたのだ。


「とりあえずセルビアちゃんはこの街にいる間、いつも通りこっちを手伝ってくれる。次の街に行く時について来るかどうかを決めるのはセルビアちゃんだ。その後だって、もし牧場の仕事が辛くて行き場がないなんて話になったら合流してもいい。迎えに来るのは難しいかもしれないが、この街にはまた来ることもあるし、ここで興行しなくても通ることだってある。全く会えなくなるわけじゃないよ」


別に退団したからといってこれまでの関係が壊れるわけではない。

前にいた団員だって、関係悪化が原因で辞めたわけでなければ、その街に興行に行けば率先して手伝いに応募して働いてくれることが多い。

セルビアだって、売り子の手伝いを終日、全日一緒にするのが難しくても、半日、半分の日程くらいなら手伝ってくれるかもしれないし、別に仕事で来られないなら、休みの日にニコルがセルビアを訪ねてもいい。

通ってもらえるなら、こちらから通うことだってできる。

気持ちを切り替えられたニコルはようやく前向きに今回の件を捉えられるようになった。


「うん。セルビアちゃんが決めたことなら応援しないとだめだよね」


ニコルが言うと、団長は申し訳なさそうに言う。


「しばらくニコルには負担をかけることになると思うが」


セルビアと二人で長くやってきて問題がなかったので、余程大きい街に行って人手不足が予想されない限り、売り子を雇うことはしていなかった。

せっかく仕事に慣れた人が育ってニコルの負担が軽減したのに、再び逆戻りすることになる。

つまりニコルはまた、新しい街に行くたび、慣れない売り子に仕事を教えたり、二人でしていた準備を一人で進めたりしなければならなくなる。

搬入の日に売り場に持っていくものを運ぶくらいは大人が手伝うことができるが、当日、一緒に売り場に立つのは難しい。

そのため、セルビアが抜けた分、ニコルに興行中の負荷がかかってしまうのだ。


「大丈夫だよ。前に戻るだけだもん。また新しい売り子を違う街で募集して……」

「そうだな」


誰もいないよりいた方が助かるのなら、採用するかは別として、とりあえず求人は出すつもりだ。

もちろん街に求人を出す手続きはニコルがするわけではなく団長がする。

興行先で臨時雇用する場合、興行に呼んでくれた相手に先に伝えておくと、たいてい手配してくれるのだが、それは大人同士の話でニコルの知らぬところで進められる話だ。


「忙しくなったらきっと考えなくて済むし、私にはみんなが家族だもん。セルビアちゃんもそうだけど、家族だから幸せになってほしい」


セルビアがここまで言い出せなかったのは決まっていなかったからだけではなく、話しにくかったからだろう。

それに自分はここで前の生活に戻るだけだけれど、セルビアは牧場経営という新しい仕事と慣れない環境での生活が待っている。

自分より不安が大きいはずだ。

でもセルビアはそこに挑戦しようとしている。

本当の友人ならば新しい門出を応援すべきだろう。


「ああ。いずれはセルビアちゃんもニコルも家族ができたらどこかの土地に根を張って暮らすことになるかもしれないだろう。それが結婚という形ではないだけ、少し早く独立しただけだ。それにニコルは、セルビアちゃんがこの街に残ることを決めても、ここを出ずに団に残るんだろう?」


もしニコルが望むなら、セルビアに頼んで一緒に住まわせてもらうこともできるだろう。

女の子一人より、女の子であっても二人の方がより安心できるかもしれない。

セルビアよりニコルの方がサーカスに長くいるし動物の扱いも心得ている。

きっと牧場でも即戦力になれるはずだ。

セルビアとニコルが喧嘩などをしない限り、ニコルにもここに残るという選択がないわけではない。

しかし団長に指摘されるまで、ニコルにその考えはなかった。

それは考えるまでもなく、ニコルがここに残ることを前提として話をしているからだ。

自分がサーカス団から離れないのに、セルビアには両親から離れろと言っているのと同じだ。

これじゃあ、ただの我儘になってしまう。


「うん……。そっか、そうだよね。私がここを家だと思って過ごしてるのと同じだよね。セルビアちゃんは新しい家を買って定住するだけだもんね」


ニコルだって、生涯どこかの街に根を下ろして生活することになるかもしれない。

これまでの大人たちのように、自分が家庭を持てばそうなる可能性は高いと思う。

ニコルはまだ子供なので、決まった相手がいるわけではないが、そういういつかだって来ることだろう。



ただ、もし定住先を自分の独断で決められるなら、長く暮らした故郷の孤児院のある街か、セルビアのいるこの街がいい。

長く暮らした故郷は、何年も離れていて戻れていなくても、やはりいつかは帰りたい場所だし、孤児院を出た子たちも、多く残っているはずだ。

街の様子が全く変わっていないとは思わないが、それでも勝手のわかることも多いし、顔見知りが多いのは心強い。

本当に困ったら孤児院を頼ることもできなくはない。

一方のこの街は、セルビアが近くにいれば一緒に住むことは無理でも、会いたい時に会えるようになるし、わからないことはセルビアに教えてもらえそうだ。

ある程度歩き回ったし、治安も悪くないことはわかっている。



見知らぬ街でも、気に入ればそこに定住する可能性はある。

過去に食べ物や環境が自分に合っているからここに残りたいと、休日、街を歩いて戻ってくるなりそう決めて辞めていく団員もいた。

自分はそういう街に足を踏み入れたことがないけれど、もしかしたら今後、そう決断させるような街を訪ねることだってあるかもしれない。

そうなれば自分だって新しい環境で生活を考えなければならない。

仕事や住居だって、セルビアの場合、大人たちが間に入って決めているくらいだし、大変そうだ。

でもそれが自立で大人の一歩になるかもしれない。

一人で新生活ができるというのは自分が大人になった証のように感じるし、これまで自分だけの部屋を持つ経験がないので、憧れだってある。

宿ではなく自分の家。

妄想してみれば、そういう生活も悪くなさそうだ。

ニコルはそんなことを考えるのだった。

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