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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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別れの決断

とりあえず牧場のことに関して保留にしてもらったが、父親が言いたいことも理解できたセルビアは、無言でテントに戻ってしばらく考えこんでいた。

そんなセルビアを心配してニコルが仕切りの向こうから声をかけてきた。


「セルビアちゃん、どうしたの?大丈夫?」

「ニコルちゃん……」


ニコルが心配する声を聞いて、セルビアはニコルにここまでの話を打ち明けることにした。

とりあえず中に入ってもらう。

仕切りは目隠しにはなるが声は筒抜けになるのだが、それでも話をするならそばでと思ったのだ。


「あのね……」


そうしてくっついて隣に座ったニコルにこれまでのいきさつを話すことになった。



「そうなんだ。そっか……」


両親がこの街の近くに集落に住んでいて会いに行くと言うので、きっと久々の再会だし楽しんでくるのだろうと思っていたが、話はそれだけではなかったらしい。

しかもその話に団長も絡んでいたことにニコルは衝撃を受けていた。

確かに一緒に出掛けて行ったけど、率先して話を進める側に回っているとは思わなかったからだ。

同時にこれまでセルビアが悩んでいた内容についても理解できた。

しかしこれまでは悩んでいるだけだったのに、セルビアはこうして話を切り出してきた。

それは悩んでいた今回の件の答えがセルビアの中ですでに出ているからだろう。

そして話しにくそうにしているのは、ニコルにとって良い話ではないからだ。

ニコルが別れを覚悟しながら微笑むと、セルビアは迷っているのだとそう口にする。


「でもニコルちゃんと一緒にいたい気持ちもあるんだよ。せっかく仲良くなれたし、これからも一緒にいろんな街に行って、一緒に見て回って、たくさん思い出を作りたいって」

「うん」


迷っていると言いながら、これからのことを話すセルビアの言葉からやはり結論が出ていることが察せられた。

このまま話を続ければ、本当はすでに結論が出ているということに自分で気付くことになるだろう。

次の言葉でそれが決定的となった。


「でも、お父さんとお母さんは残ってほしいんだと思う」

「それは、そうだと思う……」


集落の外に出たい。

サーカスに同行できることになってセルビアのその願いはすでに達成された。

もちろん、まだまだ行ったことのない場所なんて数えきれないほどあるし、サーカスに残ればそういうところに足を運ぶ機会もあるだろう。

何より、ここにはニコルがいる。

行ったことのない場所を二人で散策する休暇も、時に利用する宿屋での夜もニコルと一緒だからこそ楽しめた。

だからこの生活を続けたいと思う気持ちは大きいけれど、両親のことを考えると自分だけが幸せでいいのかと思うところがある。

自由のない生活に苦しんだのは確かだけれど、両親だってセルビアの体質のせいで陰でいろいろ言われていたはずで、苦しんだのが自分だけではないと分かるし、街で生活をしていた時だって心配して足を運んでくれていた。

セルビアが街を離れてからのことはわからないけれど、少なからず心配はかけていただろう。

それならば残ることが親孝行になるのではとそういう方向に気持ちは傾いていた。


「まだまだ時間はあるって思ってたのに、こんなに早く決断しないといけなくなるなんて思わなかったんだよね」


ヒツジを受け取ることになってから、いつかはそういう日が来ると思っていたけれど、まさかそれから数か月のうちにこんな物件が出てくるとは思わなかった。

しかもセルビア以外が非常にこの話を好意的に捉えているのだ。

あの場で勝手に話が進んでいたのはさすがに困惑したけれど、それを否定しきれなかったのは、おそらく自分もその方がいいと思っているからだ。

そういう話が出始めたらニコルに相談してみようと悠長に構えていた結果、前振りもなくいきなりこんな形で話を切り出すことになってしまった。

セルビアにとってはそこが後悔のひとつとなっている。


「でもセルビアちゃんが私にこの話をしたってことは、もうどうするか決めたってことだよね?残るんでしょ?」

「うん……」


ニコルの言葉に、セルビアはうなずいた。


「そっかぁ……。私もいつかセルビアちゃんがご両親と一緒に過ごせたらいいなって思ってはいたけど、こんなに早くお別れになるなんて思わなかったなぁ」


ずっと一緒にって思ってた。

こういう日が来ることを理解していたとはいえ、それでもそれがまだ先のことだと思っていたのはセルビアだけではない。


「なんか、ごめん」


謝罪の言葉を口にしたセルビアにニコルは明るく言った。


「何で謝るの?セルビアちゃん悪くないじゃん!」

「うん」


確かに誰かが悪いという話ではない。

誰も想定していなかったことだ。

それでも、一言でもこういう話が出ていると伝えていたら、もう少し心構えが違ったかもしれない。

ニコルにすれば寝耳に水の話になってしまった。


「でもちょっと混乱してきたから、頭冷やしてくる」


ニコルは話を聞き終えると立ち上がって出て行った。

きっと次に対面した時、ニコルはいつも通りふるまってくれるだろう。

それを自分ができるかはわからないけれど、ニコルを引き留めたところで今の自分にできることがないことは理解している。

だからこそ、セルビアは去っていくニコルを見送ることしかできなかった。



「わぉーん」


セルビアが気落ちしながらニコルの出て行った方を見ていると、これまで隅っこで丸まっていたグレイがセルビアの横にやってきて体を摺り寄せながら小さく鳴いた。


「グレイ、心配してくれるの?ありがとう」


セルビアが座ったままグレイに抱き着いて体を撫でていると、グレイの横から別の声がした。


「ぴぴぃー」


そちらを見れば、グレイだけではなくハリィも近くに寄ってきてセルビアを心配そうに見上げている。


「ハリィもありがとね」


セルビアがそう言ってハリィを撫でると、珍しくラビィがハリィの横に並んでセルビアを見上げた。

そしてハリィを撫でている手に自ら頭をこすりつける。


「ラビィも心配してくれたのかな。ありがとね」


セルビアがそう言うと、ラビィは手から頭を外してセルビアを見上げて首を傾げると、再びその手にすりよった。

心配してきてくれているとは思うが、もしかしたらラビィは自分だけ撫でてもらえないのが寂しかったのかもしれない。



これから新しい生活へと踏み出さなければならないのに落ち込んではいられない。

ここを出てもこの三匹とはおそらく一緒に生活できる。

少なくともグレイはずっと一緒だ。


「これからもよろしくね」


そう言ってセルビアは、左手でグレイを、右手でハリィとラビィを撫でると、グレイはより体を摺り寄せ、ラビィはセルビアの膝の上に移動して丸まり、ハリィはその場でぴぴぃと元気に返事をした。

三種三様の反応に、これがこの子たちの個性らしい。

いつも通りの三匹を見て安堵したセルビアは、ようやく少し、いつもの調子を取り戻したのだった。

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