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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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勝手な盛り上がり

セルビアたちが家の見学をしている間に、男性たちの中で話は大筋合意となった。

家の価格についても、家畜についても、この先の引継ぎについてもほぼ決定だ。

それらが決まれば自分たちがすることはない。

男性たちは、そのままそれぞれの職業について語り合い談笑を始めていた。

そこに案内を受けて家を一回りしてきたセルビアたちが戻ってくる。


「なんか皆、すっかり仲良くなってるね」


素面だが、すっかり意気投合し盛り上がっている彼らを見てセルビアがそう言うと、奥さんが笑いながら言う。


「そうだね。幸いなのは酒が入っていないことですよ」


昼間から宴会になってたらさすがに怒るところだと、穏やかな牧場主の奥さんが珍しく語気を強めると、旦那さんは笑いながらそれに答えた。


「さすがに仕事に来た相手にいきなり酒は出さんよ。次に来た時はそうしたいがな」

「全く調子のいいことを」


ため息まじりで奥さんはそう言うと、セルビアたちに椅子を勧めてくれた。


「それで、どうだい?気に入ってくれたかい?」


牧場主はさっそくセルビアにそう尋ねた。

しかしセルビアとしては決め手に欠けている状態だったため、いきなり答えに詰まる。


「えっと……」


そんなセルビアにお茶を用意した奥さんが助け舟を出す。


「急かすものじゃないわよ。それに今日決める話じゃないってことだったでしょう?でも、気に入ってくれていたら嬉しいわ。これどうぞ」

「はい」


お茶を受け取りながらセルビアはとりあえず返事をした。

確かに自分が長年住んでいた場所を気に入ったと言われたら嬉しいだろう。

しかしその場所を気に入るのと、実際に住むのとでは話が大きく変わる。

遊びに来るにはいいかもしれないが、定住については悩むというのが本当のところだ。

現に彼らの親族は近くにいながらここに住むことを放棄している。

セルビアが黙り込んでいると、父親が言った。


「もしセルビアがいいなら、ここからテントに通ったらどうだ?生活に早く慣れるにもいいし、ここなら気兼ねなく会いに来られる」


父親は乗り気だからそういう話になるだろうが、住むのはセルビアだ。

まだ決めていないのにいきなりここに住めと言われても困るし、まだニコルに何も話をしていない。

仮にここに住むと言ってもテントの仕事を休むつもりはないし、通うのに長距離移動をするのもセルビアだ。

テントに来るより気軽に来られるというけれど、両親だって毎日ここに来るわけではないだろうし、そのためだけに即決するのは違う。


「そうだけど、それはちょっと……」


セルビアが難色を示すと、察した団長が口添えをした。


「ここからテントまで遠いし、我々がいる間だけとはいえ、通うのはきついでしょう。ここに住む前提なら、なおさら、最後くらいテントで皆と過ごした方がいいと思いますよ。ここに残るなら、私たちとはお別れしなければならないのですから」

「それもそうですね」


ここに住むということはテントを出る、サーカス団から脱退するということになる。

試しにここに住んでみて、ダメならサーカスに戻ることを前提とするなら、確かにそれも一つだけれど、サーカス団が街で興行をしている数日過ごしたくらいで決められるものではない。

まず仕事を覚えなければいけないし、生活習慣だって大きく変わってしまう。

今みたいに団長が口添えをしてくれることもなくなる。

ここに居を移したら、ここにいる大人たちの意見に流されるままここに住むことになる可能性が高い。

セルビアがとりあえず身構えていると団長が続けた。


「それに今は色々見て想像も膨らんでいるでしょうけど、ご両親も本人も一度冷静に考えてから結論を出した方がいいでしょう。見積もりを出しているのは彼の予定もありますが、せかすためではなく、金額も含めて検討対象にするためですよ。勝手にこちらの話が盛り上がったという理由で決めることではないでしょう」


あくまでいい案だと合意したのは男たちだけだ。

肝心の本人はその会話にすら加わっていないし、母親もその経緯を知らない状況なので、勝手に進められることに対して訝しんでいる。

女性二人の視線を受けて、セルビアの父親は小さくなった。


「そうですね。私はセルビアが近くにいてくれたらと自分のことばかり考えて、この機会を逃したらこんないい話はないと焦ってしまっていたように思います」


本人の希望も聞かず盛り上がったことを反省してそう言うと団長がうなずいた。


「目新しいものを見て、話がより具体的になったから、新生活のイメージもついた。だから余計にそういう気持ちになったのだと思いますよ」


団長の言葉はもっともだ。

けれど父親からすればセルビアが迷惑のかからない、かつ、近くに住まいを得られる機会はそうそうない。

これを逃したくないという気持ちは大きい。


「そうですね。あの……」


待ってもらったらすぐに他に決まってしまうことはないかと不安そうに父親が切り出そうとすると、牧場主の奥さんの方が冷静に答えた。


「私たちは急ぎません。むしろこうして前向きな話がこんな形で転がり込んでくるなんて思ってませんでしたし、ゆっくり考えて結論を出してください。私たちはあなたがたが思う何倍もの時間、 ここをどうするか考えて決めたので、手放すことに後悔はありませんが、ここに住むことになるお嬢さんにとっては、この先の人生を大きく左右することになるはずですからね」


これまでもセルビアには肩身の狭い思いをさせてきた。

偶然団長が助けてくれなかったら、街で同じことを繰り返し、近隣に滞在できる宿がなくなってしまっていたかもしれない。

本当なら集落で仲良く暮らしていけるはずだったのに追い出すことになってしまったし、宿を出されることになった時も、家に戻すことはできなかった。

だからこの話が来た時、今度こそ一緒に過ごす時間を作れると思ったのだ。

けれどそれも元を辿れば自分たちの至らなさからくるものだ。

それなのに自分たちの都合をまたセルビアに押し付けようとしてしまった。


「はい。ではお言葉に甘えて一度持ち帰らせていただきます」


父親はとりあえず自分の意見を殺してそう言った。

セルビアを自分たちが守れなかった間、守ってくれた人がいる。

ここに住ませるということは、セルビアをその人たちと引き離すことだし、そこまでしても自分が仕事を離れて同居するという選択をするつもりはないのだ。

確かにここに住んでくれたら何かと楽だなぁと勝手に盛り上がってしまった気持ちもしぼむ。

こうして見学だけと言われた今日、この話は条件だけを決めて保留とされることになった。

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