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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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門番の集落

国の中心街とも言える街の外に、何故か小さな集落があった。

街はきちんと塀に囲まれ、そこには門も存在しているのに、この集落は安全と思われる街の外に存在しているのだ。

その集落は、街を囲う塀のすぐ外から始まっている森を挟んで反対側にあり、その先にはこの街に向かう人たちが多く使う道が通っている。

ちなみにこの中心街、最初は豊かな緑に囲まれた素晴らしい街と称賛された場所であったが、段々と交通が不便な地と言われるようになってしまった。

門の前に広がる森のせいで道が悪くなってしまったからだ。

そしてさらに悪い話は続く。

本当ならば街の見張り台がその役割を果たさなければならないのだが、森の木々が成長するにつれ、それでは対処できないという自体が発生したのだ。

そこで森を抜けた先の国境付近に新たに作られたのが門番の集落である。



そんな門番の集落の子どもの間では、一人で森を抜けて買い物に行くというのが一種のステータスとなっていた。

それができてようやく一人前と認められるのである。

しかしどんなに手伝いを頑張っても、しっかりと家事をこなせるようになっても、両親はいつまでも一人で買い物に行く許可は出してくれなかった。

街に行きたいというと、二人のどちらかが必ずついてきてしまうので、子どもたちの言う一人前の仲間にいつまでも入ることができないのだ。

だから同年代のこともと同じように一人で街に行けると証明したい。

セルビアは、家の手伝いをしながら、どうにかそれを認めてもらいたいと、毎日のように両親の説得を試みていた。


「ねぇお母さん、どうして私は一人で街までお使いに行っちゃいけないの?」


どんなに一人でできると訴えても、認めてもらえないのはおろか、挑戦さえさせてくれないのはなぜなのか。

セルビアが不満を母親にぶつけると、母親はため息を付いた。


「セルビアにはまだ早いからよ。森を抜けなきゃいけないし」


森とは町と集落のあいだを隔てるものの事を指している。

でもその距離は小さい子どもでも歩ける長さで、横に広く、森の侵攻は街を囲む壁で収まっていた。

ちなみに小さい子どもが歩いて街に抜けるのに数分程度。

街に入ってしまえば、何も追いかけてはこないので、とにかくその数分を切り抜けられれば問題はない。

その程度の森になぜ怯えなければならないのか。

ちなみにセルビアに関しては両親から森に入ることも禁止されていて、森に一人で行くのは言語道断、他は誰かがいる場面で合っても森に長く滞在してはいけない。

なぜかそういったルールが設けられている。


「でも他の子はやってるよ?私だってもう道は覚えてるし」


セルビアが方向音痴ではない事は分かっているし、誰もが知っている。

森があるからという理由は、方向音痴で森を街の壁沿いに歩いてしまって出られなくなったりする者が出るからだ。

もちろん両親のどちらかと一緒の際、先頭を歩いても問題なく街の往復ができることは確認済みだ。


「でもねぇ、森は危ないから……」

「でも、私はお使いにもいけない子だって、みんなに言われてるんだよ?家の手伝いはみんなよりしてるのに、これだけダメなんておかしいよ」


抜けるのに数分の森と言っても、そこにはすでに新しい生態系ができ始めていた。

中には共謀と言われるものもいるそうなので、国からは整備の進む最短の道以外はできるだけ通らない方が安全だというお触れが出ている。

でも他の子どもは怪我ひとつすることなくきちんとお使いをやり遂げているのだ。

セルビアへの返事に困った母親は再度父親に加勢を求める。


「そんなことないわよ。ねぇ……?」

「ああ、おかしなことなんてないぞ?なんだ、街に行きたいのか?」

「そうじゃないんだよ……」


確かに街に行きたい。

でもただ到着すればいい訳ではない。


首を横に振ってため息をつくセルビアに父親はごまをすり始めた。

「じゃあ、欲しいものがあるのか?それなら一緒に行って買ってやるぞ?何が欲しい?お菓子か?」


父親が母親の意見に同調し、そこに気を引くためか多少高いものでも買っていいと伝えるが、セルビアは首を横に振る。

父親の子供扱いにセルビアはため息を付いた。


「お菓子はいらないよ……」


別に欲しいものがあるわけではない。

お使いでも自分の買い物でもなんでもいいから、一人で街に行けるようになりたいのだ。


けれど両親はそこから目をそらさせるように次々と別の提案をしてくる。

「じゃあ、服?髪留めかしら?それだとお父さんでは無理だから、私も行かないといけないわね」


今度は母親が女の子だからおしゃれが気になるわよねと笑うと、父親がすかさずツッコミを入れる。


「お前は、セルビアに便乗して自分の物も買おうとしているな?」

「あら、いいじゃない。なかなかそういうものをゆっくり見る時間がないんだもの。それに、ここで買えるものなんて限られてるし、やっぱりたくさんの中から自分で選んだものを買いたいじゃない?」


二人はなかなか良いノリとツッコミをしているが、この類の流れもセルビアからすればお決まりだ。

最初はしょうがないと、温かい目で見ていたけれど、この話を出すたびに同じようなやり取りが繰り返されれば、さすがのセルビアでもはぐらかされているということに気が付く。

これが毎回となると、その茶番にすら付き合いたくなくなっていく。

だからこの流れになるとセルビアは彼らとの会話を止めてそこを離れることにしている。

こうなってしまったら話を戻すのは困難で、そこに時間を割くこと自体が無駄なことも、セルビアはよく理解しているのだ。


「じゃあ、二人で行ってくれば?私留守番でいいよ。一緒に行くとか、毎回ジロジロ見られて恥ずかしいんだよ」


別に欲しいものがあるわけではない、何より、もう両親と一緒に外を歩きたくもない。

それを見られるたびに、セルビアはバカにされるのだ。


「そうか……じゃあ、またにするか」

「そうね」


セルビアは両親の曖昧な態度にしびれを切らし、それ以上何も言うことはなく部屋に戻った。

両親はセルビアが諦めたと悟って、顔を見合わせるとため息をこぼした。

そしてセルビアが勢いで家を出ていっていないことを確認した両親は、密かに安堵するのだった。



流石に連日セルビアから催促をされれば、今のセルビアがこの集落でどんな扱いを受けているのか用意に想像がついた。

このままでは自分たちに何も言わず勝手に一人、街に向かってしまうことも考えられる。

それだけはなんとしても阻止しなければならない。

セルビアが去って、その場に残された父親は母親にぽつりとこぼした。


「これ以上は難しいかもしれないな」


目の届かないところでトラブルを起こしたら、対処のしようもなくなってしまう。

だったら監視下から外れる前に許可を出すしかない。

父親がそう言うと、母親もそこに同意する。


「そうね」

「せめて森がなければな」

「本当に」


もし森がなければ、門番が集落という特殊な環境で生活をしなくてもよかったのなら、何も問題はないはずだった。

街ではいっそ、視界を遮る森を焼き払ってしまえばいいのではないかという話も出たようだが、ぞれは実現しなかった。

そうしているうちに、森は自然として機能し多くの動物を受け入れるようになった。

その結果、別の問題が生じるようになったのだ。


「まあ、あれからセルビアも大きくなったんだ。一度、お使いに出してみるか。セルビアではないが、いつまでもこのままというわけにもいかない。いつかはここを出なきゃならないんだ」


街には何度も同行して買い物にも付き合わせている。

だからセルビアが買い物という行動を知らないわけではない。

二人もセルビアが通常の環境なら買い物くらい頼んでも問題ないと思っているのだ。


「そうよね……。ただセルビアが外に出たのをきっかけに、集落に何か起きたら、セルビアは今度こそ外に出されてしまうわ」

「そうだな」


妻の言葉に夫は目をそらす。


「その時、私達はどうするの?」


仕事を辞めてでもセルビアとともに集落を出て別の道を探すのか、仕事を継続してセルビアだけを外に出すのか。

正直門番の仕事は一部から見れば名誉職で、実際給料も悪くはない。

何も問題がないのなら手放すことなど考える必要のない職業だ。

けれど、セルビアがもし問題を起こしてしまったら、その時はきっとセルビアを取るか、仕事を取るか、という選択を迫られることになる。


「それはなった時に考えるしかないだろう」

「でも……」


失職すれば生活は立ち行かない。

贅沢をして暮らしていたわけではないし多少の蓄えがあるとはいえ、長くもつほどではない。

だからできるだけ、事前にトラブルを回避し、セルビアが大人になるまでどうにかやり過ごす必要があったのだ。

でもセルビア本人のことを思えば、いつまでも抑え込んでおくのは無理だ。

何よりここ最近、セルビアに対する他の子どもの見下しがひどい。

悪いことをしたわけでもないのに、そのような扱いに事情の説明もなく我慢させるのは酷だ。


「そうなったらセルビアを独り立ちさせるしかないだろう。そうなるかもしれないから、買い物以外の家事全般をしっかり叩き込んだんだからな」

「わかったわ。覚悟を決めなければならないわね」


もしセルビアがこの買い物でトラブルを引き当てたら、できる限り苦言は吐き出させてもらうが、その上で、最後はセルビアを自立させよう。

こちらが努力をしているのに、セルビアを追い詰める行動を黙認している人間にだって責任はある。

相応の責任は取らせてやろう。

両親は密かにそんな決意をしたのだった。

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