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主人公取締組合

作者: いと

 埃まみれの洋館。そこで昨日殺人事件が起こった。


 二日間の調査の末、一人の探偵は事件のカギを握り、犯人が発覚。

 そして早朝に広間に関係者を集め、事の経緯を説明し始めた。

「ミッシャル。貴方は事件当日何をしていましたか?」

 そう聞くと、初老の男性ミッシェルは困った表情で答えた。同じ質問を先日されたため、同様の答えをしなければいけない。

「当日は食堂の前に行き、今日の料理を料理長に聞いていました。メニューは皆さまも知っての通りビーフシチューだったと伺ってます」

「そうですね。そしてその間に事件は発生。貴方にはアリバイがあると証明していました。ですが、貴方がもし双子だったら?」

「なっ!?」


 誰もが予想しない質問に、全員が驚いた。

「突然何を言い出すんですか!」

「では質問です。実のところ料理長はビーフシチューのほかにもう一つメニューを言っていました。さて、何でしょう?」

「何!?」

 額に汗をかくミッシェル。


 と、ここで僕は一歩前に出た。少しだけ声を大きく、ぎりぎり全員が聞こえるようにーー。


「そういえば……自家製のパンをって……」


 その言葉をしっかり聞いたミッシェルが、息を荒くして答えた。

「そうだ。自家製のパンだ! いつもパンを食べているから、忘れていたよ」

 その言葉に探偵は微笑んだ。


「フリードさん。ご協力感謝する。そして真実を説明しよう。自家製のパンなんて言っていない」

「何!?」


 実は探偵から依頼され、盗み聞きをしていた風に探偵の質問を犯人が聞こえるように僕が答えてほしいと言われていた。

 つまり、探偵と僕はグルである。


「貴様、騙したな!」

「殺人と比べて嘘は軽いものだ。それに食器の指紋を調べたところ、同じ食器を使っていたのにも関わらず違う指紋が見つかった。残念だが、君はすでに詰んでいる」

「ぐう!」


 やがてミッシェルの両手には手錠がかけられ、パトカーに連れていかれた。

 帰り支度を終え、僕は探偵のところへと向かった。

「お見事でした探偵さん」

「おや、フリードさん。君こそ名演技に驚きました。協力感謝しますよ」

「いえいえ。それよりも協力する代わりに僕のお願いを一つ聞いてくれるんですよね?」

 僕は探偵に一つ願いを聞いてくれるという条件のもと、今回一芝居をした。探偵はため息をついて首を縦に振った。

「約束だからね。一体どんな願いかな。もしかして僕のサインとか?」


「エリュシオン監獄に連行させてもらうね」


 ☆


 世の中には不思議な能力を持つ人間が沢山いる。


 賭け事は絶対に勝つ人。スポーツで絶対に負けない人。あらゆる危険に遭遇しながらも必ず生還する人。種類は異なれど、どれも運だけでは説明できない要素を持つ人間である。


「危険度三の名探偵ミラノ。行く先々で事件に遭遇し、都度名推理で犯人を逮捕する。警察からは『いっそのこと君がいなければ犯罪は減るのでは無いか?』と言われるほどのトラブルメーカーか」


 終わった仕事の資料を最後にもう一度目を通して、完了の印を押す。

 そして書類は隣に立っているメイドのメリナに渡した。

 まだ十二歳の子供だが、ある事情で僕の養子兼手伝いをしてもらっている。十二歳とは思えない口調にどこで覚えたかわからない言葉を多く使い、よく僕の話し相手にもなってくれている。

「流石ご主人様です。危険度三と言えば上位の分類。もしかしてこれは昇格試験ですか?」

「さあね。でも可能性は高いよ。一説によると昇格試験は突然始まるらしく、基本的に危険度が三。今回はその条件に当てはまるね」

「やりましたね。これでおかずが一品増えます! 張り切って肉じゃがを作りますよ!」


 ……実はこの言葉は三回目だ。一回目は白飯に味噌汁、そこに肉じゃがが追加された。それはもう嬉しかった。

 そして二回目は白米に味噌汁、そこに『肉じゃがと肉じゃが』が増えた。

 頼む。今回は『肉じゃがと肉じゃがと肉じゃが』にならないでくれ。


「ご主人様。いかがされましたか?」

「いや、晩御飯が楽しみで頬けてしまった。おっと、それよりもこの書類を届けに管理組合に行かないとな」

「いつもの郵送ではダメなのですか?」

 依頼は基本的に郵送でのやり取り。直接依頼を受け渡すことは滅多にない。

 今回は完了届を直接管理組合に手渡しをするようにという指定もされていた。

「危険度三を初めて完遂したからね。ということで今日は遅くなるから、豪華なご飯は明日で良いかな?」

「わかりました! 張り切って肉じゃがを作りますね!」


 どうやら肉じゃがフルコースからは逃げられないようだ。好きだから良いけどね。


 ☆


 東京の繁華街にある小さな居酒屋に到着。

 そこにはいつも世話になっている店主が出迎えてくれる。

「いらっしゃいませフリード様。いつのも定食ですか?」

「いや、今日は組合関係だ」

「そうでしたか。でしたらこちらへどうぞ」

 合言葉なんてものは無い。強いて言えば『組合関係』が合言葉である。


 店主に連れられて扉の前に到着。開けるともう一つの扉がある。

「いつも通りこちらの扉の鍵の音が聞こえたらそちらの扉を開けてください。こちらに戻ってくる際は呼び鈴を鳴らしてくださいね」

「わかりました」


 そして扉は閉められ『カチャ』という音が聞こえた。僕は言われた通りもう一つの扉を開ける。するとまず目に入ったのは大雨。そして強風で揺れる木々。奥には巨大な城が建てられていた。

 いつ見ても迫力があるその光景。しかし見惚れていると風邪をひいてしまう。


「何者だ!」


 奥から人が走ってこちらに向かってきた。甲冑を付けていて、一歩歩く度にガチャガチャと音が鳴っている。

「組合の者です。先日の名探偵を連行し、その報告に来ました。直接手続きをするようにという指示がありました」

「なるほど。君がフリードさんか。話は聞いている。私についてきてくれ」


 雨風に濡れながらついていき、ようやく屋外に入った。

「今乾かしてやる。と言っても帰り道はまた濡れるがな」

「あはは。ですが報告中も濡れたままよりはマシです」

 そう言って甲冑を付けた人は僕に手をかざし、何かを唱えた。


 現実世界では考えられない力。人はこれを魔法とか魔術などと言うだろう。違いは判らないが、彼らは魔術と言っていた。

 ちょうど良い熱風に服が乾き始めた。服を着たまま洗濯をしている気分で、初めてこれを経験したときは感動のあまりもう一度外で濡れて乾かしてもらった。


「一応言っておくが、一回しかやらないからな」

「もしかして僕の心を読みました?」


 甲冑を付けているから、同一人物かどうかわからない。以前来た時にお土産として東京の菓子を渡したら、どうやら別の人だったらしい。

 素顔を見せてくれと言っても断られたし、こっちのルールがあるのだろう。

「組合長ならまだ会議中だ。私同伴という条件を飲むなら、名探偵と面会を許すが?」

「面会?」


 今まで数十人連行したことがある。が、面会をしようと思ったことは無い。というか、面会できることすら知らなかった。

 報告は全て書類の送付。こっちに来る時というのは、免許の更新くらいだ。

「会ってみたい。ここに連行された『まるで漫画の主人公のような人物』がどうなるのか、少し知りたい」

「わかった。まあ、これからのことを考えれば良い経験になるだろう」


 ☆


 面会室に連れられて、門番に少し待っててくれと言われた。

 刑務所の面会室同様にガラスの壁に穴が複数空いているシンプルな場所。こんな世界にもこういう場所はあるんだな。

 と、周囲を見ていたら、囚人側の扉が開いた。


 名探偵ミラノ。まだ若い青年で、その頭の回転は周囲を驚かせていた。

 初めて出会ったときは目は輝き、常に笑顔を振りまいていた。しかし今は、目の下にクマができて、髪はボサボサである。たった数日で何があったのだろう。

「えっと、こんにちは」

「……」

 返事は無い。当然と言えば当然である。

「その、許してほしい。これが僕の仕事なんだ」


 そう言った瞬間、名探偵ミラノは机を大きく叩いた。


「私が何をしたというんだ!」


 その言葉に僕はかける言葉が無かった。

 彼は彼の思う『普通』を生きていただけで、誰かを殺そうとしていたわけではない。ただ、行く先々で事件に遭遇し、それを彼が解決していた。

「私は色々な人を捕まえた。いくつもの組織も潰した。その結果こんな何も無い監獄に入れられた。こんなことってあるかよ!」

 彼の言い分はごもっともである。彼がいたから巨大な組織は壊滅。そしていくつもの殺人犯も無事に捕まった。


「でも、君がいなければ事件は起こっていない」


 僕の言葉にミラノは睨んだ。

「君は君の持つ力を理解していない。一歩外に出れば事件に遭遇なんて、普通はありえない。君が活躍すればするほど殺人事件は発生し、巨大な組織は成長するんだ」

「だから全部私が捕まえている。五百人だぞ!? 私の住む町にいた五百人の殺人犯を捕まえたんだ。私は感謝されるべきだろ!?」

「いや、近所に五百人も殺人犯がいる方がおかしいでしょ。最低でも五百人は死んでいるということだ。犯人と被害者だけで最低でも一つの町から千人がいなくなったら、かなり深刻でしょ」

 僕が説明してもミラノは納得していない。当然だ。これが彼にとって現実だからだ。


「連行した後に面会したのは君が初めてだから、他の人がどういう感情でここで生活しているかわからないけど、少なくともここに隔離しているのは平和のためであり君のためなんだよ」

「私のためだと? ふざけたことを」

「君の力を悪用する人は絶対にいる。だから君を安全な場所に捕獲するんだ」

「捕獲? ここのどこが捕獲だ。石で作られた牢獄。まずい飯に布一枚の寝床。ここが夢だと言われた方がまだ信じられる!」

 そこまで厳しい生活をしているのか。


「フリードさん、間もなく時間です」

「はい」

 門番に声をかけられて、僕は席を立った。

「お前を絶対に許さない。ここから出たら、真っ先にお前の家に行く。何が起こっても私は私の普通を生きる。例えお前が何かの事件に巻き込まれてもな!」


 ☆


 組合長室に入ると、そこには黒髪の女性が座っていた。

 いつもは代理人が対応してくれていたけど、今日は違う。まさかとは思うけど組合長本人か。

「お待たせしました。さあ、椅子に座ってください」

「失礼します」

 門番は扉の隣で立っている。まるで中世のドラマを見ているようだ。

「初めて貴方が組合に入ったばかりの時以来ですね。お久しぶりです」

「お久しぶりですミツハ組合長」

「ミツハで良いですよ。さて、すでに予想していると思いますが、今回の依頼は昇格試験でした。見事合格とのことで、これから難しい依頼も受けていただきます」

「例えばどんな依頼でしょうか?」


「ドラゴンが出ます」

「ドラ……え!?」


 いやいや、意味が分からない。

 ドラゴン?

 今ドラゴンって言った?


「昨今の人手不足で高難度の依頼を頼める人が少なくなっていました。ワタシの聞く限りニホンでは『百人力』という言葉があるそうで、一人で百人分補えるんですよね?」

「比喩です! この人がいれば多くの仕事も片付けられる的なやつで、実際は一人分です!」

「そうなんですか!? 早速依頼を出そうとした内容は『部下が百人いれば謎の力が解放されて無敵になる主人公気質のある人物の連行』だったんですけど!」

「それってつまり百人とプラス一人を相手にしないといけないわけで、仮に僕が百人分だとしても一人負けてます!」


「そこにドラゴンも出没しますから、もうプラス一ですね」

「ドラゴンをたった一で考えないでください!」


 危うくドラゴンが出てくる戦地に向かわせられるところだった。と言うかドラゴンって何!?

「仕方がありません。こっちは別の人に任せます。とはいえ、今後難しい依頼をお願いすることに変わりはありません。頑張ってくださいね」

「はい……えっと、一つ質問しても良いですか?」

「何ですか?」

 この仕事を続けていて、そして先ほどミラノの話を聞いて、少し心が揺らいでいた。


「僕のやっていることは正しいのでしょうか?」


 その言葉にミツハ組合長は一呼吸を置いて答えた。


「それが貴方の人生です。正しいと思ってください」

「ですが、先ほど連行した人と話して思いました。彼は彼の人生をただ歩んでいただけで、それを僕は壊したのではないかと思ったんです」

「そうですか。でしたら今後連行者とは面会しないことをお勧めします。ここの暮らしはあらゆる行動を制限されます。能力の年齢が定まっている者は期日が過ぎたら解放されますが、そうでない人は一生ここで生活です」

「それはあまりにもーー」


 ーー次の瞬間、僕の右手に手錠がかけられた。


 一瞬のことで何があったのかわからなかった。


「一応言っておきます。『貴方も対象の一人ですよ?』」

「え?」

 僕も対象の一人?


「『主人公気質のある人物に遭遇する力』というのは貴方にとって日常かもしれませんが、他の人からすれば非日常です。音楽を聴いて鳥肌が立つ。太陽を見てくしゃみをする。これらはある一定の人物でしか起こりませんが、それを常識と思っている人物は一定数います」

「それはどういう」

 僕の言葉を遮って話を続けてきた。

「今まで貴方が連行した人物はまるで物語に描かれそうな人ばかり。そして貴方も主人公になりかねない能力を持っています。ということで選んでください。今なら先日連行した人と同室にしてあげますよ?」

 ミラノの目の下はクマがあった。たった数日で何が起こったのかと思うほどだった。


 ミラノ以外にも多くの人を連行した。きっとここで僕を恨んでいる。そして彼らと同じ力を僕は持っていて、ここで働きながら多少自由に生きているのは、単に利害が一致しているだけ。もし組合を抜ければ打って変わって連行の対象者になる。


「僕は……」


 ☆


「おかえりなさいませご主人様。おや、お元気がすぐれないご様子」

 気が付けばメイドのメリナが目の前で頭を下げていた。

 道中の記憶があまりなかった。居酒屋の店主にも迎えられたが、何か言われたのか記憶が無い。

「ちょっと疲れただけだ。そして僕は運が良かったというのを改めて実感して、感傷に浸っているだけだ」

「そうですか。事情はわかりませんが、今日は遅くなると言われてたので、明日用に仕込んでいた料理がありますが、少し硬いですけどそれを食べますか?」


 その言葉に僕は崩れそうになった。これが僕の日常。仮に同じ小鉢が三つ出たとしても、あそこで暮らす人と比べれば天と地の差だ。


「いただこうかな。肉じゃがのフルコース」

「おや!? どうしてご存じで!?」


 その驚く表情に、ほんの一瞬だが、先ほどの出来事を忘れさせてくれた。


 了

 こんにちは。いとです!

 久しぶりの短編でなかなか緊張しつつ、投稿まで書き切れたことにホッとしてますー。

 さて、今回は主人公を捕える主人公という、ちょっと不思議な感じです。中にはモブが主人公ーなんて物語も存在しますが、、、


 例えば今作だと、探偵物の物語は事件がなければ物語になりません。謎の力を目覚めれば、それを主軸に物語が書けます。

 ですが、現実でそう言う人物が登場したら、たちまちどうなるかと思いました。ワープができる人間が誕生した瞬間、世界の情勢が一転しますね。


 と、難しそうな考えを言ってみましたが、実のところそこまで深くは考えていません。いつも通りゆるーく書いているので、ご覧になったかたも少しでも楽しんでいただけたらなーと思ってます。


 と言うことで連載中の物語も書きつつ箸休めな物語でしたー

 では!

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― 新着の感想 ―
[一言] そうですよね、主人公って事件事故があるからヒーローになれる!面白いです! 何かで『英雄とはトラブルに遭いやすい人間のこと』というのを聞いたことがあります。まさに主人公というのは、注目される…
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