ケース3「バストダウン③」
「窓先輩。どうしました?目の下のクマが凄いですよ。」
御影君にそう言われて窓ガラスに映った自分の姿を見ると、確かに僕の目下に黒くて大きいクマが出来ていた。徹夜して薬を作ったのだから仕方ない。
今日はいつものように放課後に科学室に来ているのだが、金子さんが来ることになっている。
無論、彼女は胸を小さくする薬を取りに来る。それにしても胸を小さくする薬なんて作っておいてなんだがロマンが無い。
「たのもー!!」
イチイチそんなデカい声出さなくても分かるんだが、金子さんは今日も元気だ。
今日は僕が扉を開けに行く。憧れてたんだ、扉を開けたら桃源郷みたいな光景を見ることに。
"ガラガラ"
はい、やはり出た。扉を開けるとそこには大きな胸の膨らみがあった。このまま前に倒れてしまいたい衝動は何とか抑えたが、鼻の下が伸びるのはどうしようもない。
「ほぅ、私の胸を凝視するとは良い度胸だな。」
殺意の波動をビンビン感じる。こうなってしまえば、あとは殴られるだけ、それなら殴られる前にどれだけ胸を凝視出来るかが勝負だ。瞬きを禁じる。
"ゴンッ!!"
激しい痛みが頭を襲う。どうやらゲンコツを喰らったらしい。酷い、親にもゲンコツ喰らったことないのに。
「ふぅ、まぁ、この男のいやらしい視線から開放されるのだから、今日はいい日になりそうだ。」
くっ、ならゲンコツしなくてもいいじゃないか。
「さて、それじゃあ早速薬を頂こうか。」
ニコニコしながら両手を差し出してくる金子さん。もう完全に薬を貰える気である。だがその体に教えてやる、好事魔多しということをね。
「御影君、例の薬を。」
「は、はい。」
御影君が持ってきた一本の試験管。その中には紫色の液体が入っており、それこそが僕が徹夜で作り上げた薬である。
「これを飲めば良いのか?何か美味しくなさそうだな。」
試験管をひょいっと取り上げ、まじまじと見つめる金子さん。イチから徹夜で作り上げたんだ。味付けまで気が回るわけない。
「まぁ、苦いでしょうが。ぐいっと飲んじゃって下さい。効果はすぐに現れますから。」
「ふむ、でわ、ぐいっと。」
試験管の液体を飲み干す。その様子を僕はニヤリと見つめていた。
「飲んだぞ。これであとはどうなる?」
「暫しお待ちを。すぐに効果は出ますから。」
「そうか、むっ?・・・きゃあああああ!!」
金子さんの体に変化が現れ始めた。それにしても、こういう時は年相応の悲鳴を上げるんだな。興味深い。
「む、胸が・・・・胸が。」
そう胸だ。胸が・・・。
"ボンッ!!"
胸がデカくなっちゃった。
「きゃあああああ!!」
金子さんのデカくなった胸はジャージのファスナーを壊し、制服のボタンを飛ばし、ブラのフォックをも壊した。
バスト三段階も上げればこうもなるか。これは興味深い。
「き、貴様・・・これはどういうつもりだ?」
胸を両手で抑えながら顔を赤らめる金子さん。ここだ、ここでマッドっぽく笑うのだ。
「フハハハハ!!どうです!!私の作った『バストアップ』の効果は!!」
「バ、バストアップだと?・・・私が頼んだのはバストダウンの筈だが?」
よし、ここでメガネをくいっと上げて、眼鏡キラーン。
「僕がそんな夢のないもの作るわけ無いでしょう?だから逆にデカくする薬を作ってみたんです!!」
「このクソマッド変態野郎!!」
罵られてしまったが、不思議とそんなに嫌じゃなくて、自分の新しい扉を開けてしまった感がある。
「ま、窓先輩、さ、流石にこれはやり過ぎでは?」
御影君までそう言われてしまうとは、こうなってくると少しばかり罪悪感が湧いてくる。
「そ、それでどうするつもりだ?」
「えっ?」
「私をこんな胸にして、えっ、Hなことするつもりか?」
「へ?」
金子さんは何を言ってるんだろう?この先なんてノープランなのに、そんなだいそれたこと出来る男に見えますかな?
不味いな、どうする?このままだと僕はとんでもない悪党になってしまう。
こうなったら・・・。
「すいませんでした。調子に乗りました、薬の効果はあと5分もすれば消えるので、どうか許してください。」
土下座して謝ってみた。
まぁ、でも許されるわけなく。元に戻った金子さんにボコボコにされてしまったのは言うまでもない。
これにて一件落着。