第一章 私にも・・・ (4)
「そっか。なら、親が言う高校に行ったら高校生になれるじゃん」
国山くんは凄くショックを受けたようだった。
「って、みんな言うよね」
「・・・え?」
「誰かにその悩み、相談したらさ、同じ答えが返ってきたんじゃない?」
「はい。過去に友達に同じこと相談したら、そう言われました」
国山くんは、驚いたような、そして少し寂しそうな目をして、私に言った。
「でも、私はそうは思わない」
「どうして、ですか?」
「だって、『普通』の基準が違うでしょ?大人はね、子供は大人のことを聞くことが普通と思っていたりする。どう?理由、わかる?」
「確かに、それが当たり前って言ってる人の根拠、知らないです・・・」
「自分が、そうだったからだよ。例えば、有名大学に入ったほうが将来安定、とかもそうかな。みんな、誰かからそう言われて育ってきたんだよ。昔はそれで良かったのかもしれない。けど今は、そうとは限らないよね?」
「はい。起業してる人もいるし、アーティストですごく稼いでる人もいます」
「また、今回の国山くんの普通とも、違うでしょ?」
「僕のいう普通は、学校に行くことです。行けない子も世界にはいるみたいなので」
「なら、自分で決めなさい。さっきも言ったけど、有名大学に入ったほうが将来安定ってこともないの。自分で選んだ学校へ通うといいと思うよ。親や周りの大人に左右されずに、自分の行きたいって思った高校を見つけて、そこで、普通の高校生を目指して頑張ってみたら?白紙の紙なら、まだ間に合うから」
「はい。ネットで高校、探してみます」
「でも、ちゃんと考えるのよ。まだ一年はそこに向かって歩かないといけない。それに、ご両親も説得しなければいけない。安易に決めちゃだめよ」
「そうですね。ちゃんと考えて、生きて、普通に高校生します!」
「ファイト、国山くん!」
「はい!」
彼は、とびきりの笑顔でそういった。
うん。もう、大丈夫だね。
私はメリーに合図を送った。
「あ、なんか甘い香りがします。お菓子でも焼いてるんです・・・か?」
スピー、スピー、スピー
寝た彼に『Elena』とだけ書かれた押し花入りの栞を手に握らせる。その彼を、森の入口までメリーが運んでくれた。
「エレナ様。今日はなぜあんなに深くお話なさっていたのですか?」
なぜ・・・か。
「・・・似ていて、似ていなかったからよ。それより、今日の昼食は何?」
「今日は、パスタです。」
「・・・できたら呼んで。」
・・・私にも、白紙の紙があったら。
・・・私にも、相談窓口があれば。
つい、そう思ってしまう。
いや、なかったから。
だから、私はここにいる。
国山くん、頑張れ。
応援、してるよ