第一章 私にも・・・ (2)
『こちら、留守番電話サービスです。名前、学年、用件をお話しください。』
今回の相談者は、どうするかしら。
留守番電話に出たら対応する、出なかったら対応できない。もし、留守番電話に出たなら、深さを探らないといけない。この子はどこまで追い詰められているのか。
『こんにちは』
出た。
『僕は、国山といいます。中2です。今、進路で悩んでて・・・。僕、運動神経良くないし、勉強もできません。なのに、親が今人気の名門進学校に入学させようとするんです。・・・・・僕では入学できないし、もし入れたとしても、授業についていけなくて、辛いと思って。でも、僕、親に逆らえないんです、逆らうとご飯を抜かれたことがあって。だから・・・死んだら、楽なのかなーって思うんですけど、ためらってる間にも、時は進んでて・・・』
・・・この子は、ほっとけない。
「メリー、音!」
「はい!」
店内に音楽が流れ出したのを確認して、私は電話に出た。
「電話に出るのが遅れてしまい、申し訳ございません。」
『・・・えっと店員さん?』
国山くんの警戒心の強い声がする。
「店長をやらせていただいています。ところで、今日は何かご予定が入っておられますか?」
普通、こんなことは聞かないだろう。
でも、このお店では、聞かなければならないから、聞く。
『・・・今から3時間は暇です』
「でしたら、待ち合わせしませんか?出来るだけ、人がたくさんいるか、知り合いが全くいないような場所がいいのですが」
決して私達は悪い人ではないし、誘拐犯などではない。
ただ、普通の人は警戒するだろう。
けれど、こういう子は・・・
『・・・海とかどうですか?自転車で10分のところに海があって・・・今は海水浴も海の家もないから、人は少ないと思います』
警戒していたとしても、こっちに来ようとする。
それだけ、他のことが見えない状態になるまで、追い詰められている。
「なら、そこでいいですか?」
『はい』
「私はあなたを救いたい、その思いしかないと、伝えておきますね」
一応、言っておかないといけない。
私達は誘拐犯ではない、と。
ただ、救いたいのだと。
『わかりました。お願いします』
「はい」
ツーツーツー
「メリー、運転、よろしくね」
「はい。音とあれは、準備できてます。すぐ、いけます」
「ありがとう」
「エレナ様も、忘れ物、しないでくださいね」
「もちろん」
私は事前に準備してあったカバンを持って、車に乗った。