第二章 後悔しないように (7)
次の日、目が覚めると、エレナさんの顔が近くにあった。
「わぁぁ!」
「ごめんね、寝顔、可愛くてついつい見ちゃった」
「・・・恥ずかしいです」
「・・・・・・元気かな」
「今なにか言いました?」
「何も。じゃあ、昨日の、考えてくれた?」
「はい!」
夜、すぐに寝ちゃったけど、考えてみた。
で、一つ、譲れないものを見つけた。
「僕は多分、高校にいかなくても後悔しません。でも、今のまま、高校にいかないことにしたら、後悔します。両親のせいにしなくても、環境のせいにしたり、世界のせいにしそうです。だから、もっと話し合います。僕の思い、考えを伝えて、どうするか決めます。一応、高校に行くことも、考えてみます」
「そっか。応援してるよ」
「はい、ありがとうございます」
僕は帰る準備をする。荷物をすべてしまったとき、聞いたことのある音楽が聞こえてきた。
それと同時に甘い香りもしてきた。
この音楽、お店に電話したときに聞こえていた曲だ。
いい曲だ・・・な・・・
【頑張って、宇治くん】
「おーい。おい、起きろ」
「少年、起きて!」
声?
知らない声。
目を開けると、空がオレンジ色だった。
「ずっと寝とったぞ」
「最近、ここらへんで寝てる子供、多いわよね」
「まあまあ」
僕を起こしてくれた人たちの声がする。
でも、何を言っているかは分からなかった。
「で、少年」
「はい」
「夜になるとここは動物が出ると言われているから、寝てはいけない。風邪もひいてしまう。早く家に帰りなさい」
夜?動物?
・・・ここは?
周りを確認すると家の近くの山の入口だった。
あれ?さっきまでエレナさんのところに・・・
エレナさん!
僕は、エレナさんにお礼を言わないと・・・
えっと場所は・・・あれ?どこだっけ?
どうやって会ったっけ?
あれ?
家で口げんかして、家出して、なんか調べて・・・
もしかして、全部夢だった?
僕は、持ち物を確認する。
スマホと、鞄の中の服とスマホの充電コード・・・
あれ、スマホのケースになにか挟まってる。
僕のスマホケースは表面にもカバーのあるやつだけど、こんなところになにか挟んだ記憶はない。
これは・・・
挟まっていたのは『Elena』と書かれていて、押し花の入った栞だった。
本当に、エレナさんはいて、エレナさんと話して、エレナさんのお店で、泊まらせてもらったんだ。
それを確認しながら家に帰った。
「ただいま」
「おかえり」
お母さんはいつもどおりだった。お父さんは、いつも家にいないのに、今日はいた。
「お父さん、貴方が帰ってくるのずっと待ってたのよ。昨日の話の続き、お話しましょう?」
「はい!」
話し合いの結果、僕は平日の放課後と土日にバイトをすることになった。高校は、エレナさんが言っていた『低レベルの高校の特待生』を目指すことにした。
低レベルとはいえ、勉強は頑張らないといけない。
結局、エレナさんとどうやって会ったのかは思い出せていない。話した内容はわかるし、声もわかるのに、どう会ったのかわからないのがすごく残念。
また、会えたらいいな・・・




