ウバッグっつ!Re:亀になった男
私:48歳。バツイチ。ウーバー初心者
夢:ちょっとカッコいいおじさん配達員になること
現実:黒い箱に負けた中年
ウーバー配達員に登録が完了した俺は、
さっそく装備を整えるべくAmazonを開いた。
目的:ウバッグ
あの黒い四角いランドセルみたいなやつだ。
背負ってるだけで「プロ感」が出るらしい。
Amazonを眺めていたら、目に入った。
「新色・緑」
えっ、あるの?緑!?
完全に直感でポチった。
俺のウーバーライフは、まず色からこだわる。
翌日、届いた。
薄いダンボールを開けた瞬間、
ぺっちゃんこに畳まれた何かが登場。
これが噂のウバッグらしい。
バンドを外すと、
ビヨーンと広がって、
まるで脱皮直後のカブトムシ。
説明書はない。
中には銀の板、黒い板、謎の面ファスナーたち。
YouTube先生を召喚する。
「ウバッグ 組み立て」検索!
出た、出た、出た!
親切な配達員たちによる神解説動画!
俺は手順を学び、慎重に、そして必死に組み立てた。
板をはめる
テープで固定
ガッシャンガッシャン
「完成じゃあああああ!」
喜びの声が響くリビング。
そして、事件は起きた。
テンションMAXでウバッグを背負い、
「どう?似合う?ねえ、どう?」と誰もいない部屋でポーズ。
鏡が見たくなって廊下に出る。
通り過ぎたトイレのドアノブが、
ウバッグにガツッと引っかかった。
その瞬間、ドーン。
俺、倒れる。
ウバッグごと後ろにひっくり返る。
そのまま、ハマった。
ガチで、ハマった。
廊下の幅、ウバッグの厚み、俺の身体の柔軟性。
すべてが負の相乗効果を生んだ。
動けない。
スマホはリビング。
助けを呼ぶ術はない。
「うそでしょ、これで死ぬの……?」
転がったまま冷静に分析。
前進:不可能(扉が開けられない)
回転:不可能(ウバッグが壁に当たる)
後退:ワンチャンある(リビングまで5メートル)
「バック躄りだな……」
俺は尻をズリズリと床に引きずりながら、
亀のように、いや、人間サイズのスライムのように進んだ。
途中で何度も心が折れそうになる。
額に汗。
脇に涙。
「……誰か、俺の人生にBGMをつけてくれ」
ようやく、リビングの入り口が見えた。
スマホに指先が届く。
俺はウバッグを脱ぎ捨て、仰向けに倒れ、天井を見つめた。
「人知れず、ウバッグで死んだ中年……想像しただけで草」
もう一度、組み立てたウバッグを見つめた。
いいか、ウバッグ。
お前は味方のフリして、けっこう凶器だぞ。
でも、
かっこいいから、明日も背負う。
バイクがなけりゃ始まらない!
でもバイク屋、潰れてた!
『バイク屋探訪っつ!Re:原付という名の中年戦車』