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うばっつ!〜ある中年ウーバー配達員の物語〜  作者: カトーSOS


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21/22

サクラ大戦、黙るっつ!

「ちょっと、やってみるかい」


 俺がそう言うと、

 恋人は一瞬だけ遠慮してから、

 「……いいんですか」と聞いた。


 いいに決まっている。


 サターンの電源を入れる。

 起動音。

 そして、あのオープニング。


 

 ――檄!帝国華撃団。


 

 画面に花が咲いて、

 音楽が鳴り出した瞬間、

 娘が言った。


 

 「なにこれ、急にすごい」


 

 「だろ」


 

 最初はワイワイだった。


 「オープニング、めちゃくちゃ凝ってますね」

 「声優、豪華じゃないですか」

 「これ、いつのゲームですか?」


 

 恋人はコントローラーを握りながら、

 楽しそうに喋っていた。


 

 戦闘に入って、

 SLGの画面になっても、

 最初は軽口が続いていた。


 

 「意外と難しいですね」

 「ここ、どう動かすんですか?」


 

 俺は横から、

 余計なことを言わない程度に答える。


 

 「無理しなくていい」

 「最初は、雰囲気だから」


 

 しばらくして、

 恋人が黙った。


 

 完全に。


 

 コントローラーを握る手は止まっていない。

 でも、さっきまでの声が消えた。


 

 画面には、

 キャラクターたちの会話。

 選択肢。


 

 恋人は、

 一つ一つ、

 じっくり読んでいる。


 

 娘が小声で言った。


 

 「……なんか、急に真剣じゃない?」


 

 「こうなるんだよ」


 

 俺は、少しだけ誇らしかった。


 

 恋人は、

 選択肢を選ぶ前に、

 必ず一拍置いた。


 

 セリフを聞いて、

 考えて、

 押す。


 

 もう、完全に

 ゲームの中に入っている。


 

 しばらくして、

 恋人がぽつりと言った。


 

 「……これ、

  ちゃんと人を描いてますね」


 

 俺は、

 何も言わなかった。


 

 言う必要がなかった。


 

 娘はソファに座って、

 スマホをいじりながら、

 ちらちら画面を見ている。


 

 「思ったより、

  ちゃんとしてる」


 

 それが、

 彼女なりの最大限の賛辞だ。


 

 プレイを終えて、

 恋人はコントローラーを置いた。


 

 「……すみません、

  ちょっと、

  続き、気になります」


 

 「そうだろ」


 

 それだけ言った。


 

 もう十分だった。


 

 帰り際、

 恋人は少し照れたように言った。


 

 「……これ、

  黙っちゃいますね」


 

 俺はうなずいた。


 

 「そういうゲームだ」


 

 ドアが閉まったあと、

 サターンの電源を落とした。


 

 画面が暗くなって、

 部屋が静かになる。


 

 でも、

 あのオープニングの音楽だけは、

 しばらく頭の中で鳴っていた。



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