それ、セガサターンですよねっつ!
ある日、ちょっとした用事があって、
娘と一緒に、その恋人が家に来ることになった。
家に上がるなり、
恋人はきょろきょろと部屋を見回した。
まあ、そうなるよな。
俺の部屋は、
人様に見せる前提で作られていない。
段ボール。
本棚。
アニメのBD。
そして、テレビ台の下。
「……これ、セガサターンじゃないですか?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
いや、わかったけど、
わかりたくなかった。
「……おお。よく分かったな」
恋人は少し目を輝かせた。
「実物、初めて見ました」
「本体、グレーですよね」
「パワーメモリーも刺さってる」
娘は、会話についていけず、
二人を交互に見ている。
「え、なにそれ?」
「セガサターン」
「なにそれ?」
恋人と、
俺の目が合った。
この瞬間、
確実に何かが通じた。
「ああ……」
「そうだな……」
説明は、しない。
する必要もない。
恋人はさらに続ける。
「バーチャファイター、やってました?」
「やってた」
「やっぱり……」
この青年、
ただ者じゃない。
娘は完全に置いてけぼりだ。
「お父さん、なに?」
「これはな、人生だ」
自分で言っておいて、
何を言ってるんだと思った。
恋人は、
そっと本体から手を離した。
「大事にされてますね」
その一言で、
俺はこの青年を
完全に信用した。
娘は呆れた顔で、
「もういいから用事済ませよ」と言った。
帰り際、
恋人は玄関で靴を履きながら、
少し照れたように言った。
「……あの、
すごく、いいお父さんですね」
俺は、
曖昧に笑ってごまかした。
ドアが閉まってから、
しばらくその場に立っていた。
セガサターンが、
まだそこにある。
それだけで、
今日はもう、
十分だった。




