娘の恋人と飯を食ったっつ!
娘の恋人と食事をすることになった。
外食だと気を遣うので、近所のファミレスにした。
向こうは少し早く来ていて、
立ち上がって、きちんと頭を下げた。
ああ、これはもう、
第一印象でだいたい決まったな、と思った。
悪くない。
いや、かなりいい。
注文を終えてから、
三人でドリンクバーに行った。
こういう間が、妙に現代的だ。
話してみると、
よく喋るわけでもなく、
無口すぎるわけでもない。
変な自慢もしないし、
娘の話をちゃんと聞いている。
――むぐぐっ。
心の中で、
確実にそう唸っていた。
本当は一度、
言ってみたかったんだ。
「娘はやらん」
ドラマみたいに。
一回くらい。
でも現実は違う。
この青年を前にして、
その台詞は、どう考えても出てこない。
むしろ、
こちらが言わないといけない。
「どうぞ、お願いします」
いや、
「もらってやってください」
いやいや、
「娘をよろしくお願いします」
全部、
負けた気がする。
食事が終わる頃には、
負けを認めていた。
娘は楽しそうで、
青年は終始、姿勢が崩れなかった。
店を出て、
別れるときも、
きちんと頭を下げた。
その背中を見ながら、
俺は思った。
――ああ、これはもう、
俺の出番じゃないな。
帰り道、
一人で歩きながら、
少しだけ寂しくて、
でも、不思議と悪くなかった。
言えなかった台詞が、
胸の中に残っている。
「娘はやらん」
まあいい。
一度も言えなかった父親人生も、
それはそれで、俺らしい。
家に帰って、
冷蔵庫のビールを開けた。
今日は、
よくやったと思う。




